第231話 崩れゆく大地
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「ガレルうううぅッ!!」
ガレルが乗っていた龍は、自身の判断でシュバイツァーから離れていた。
シュフェルはガレルのもとへと駆けつけ、龍の背中の上でちからなくうなだれる彼のからだを抱き支える。
……ガレルは目を閉じているが、かろうじてまだ息をしていた。
シュフェルは彼のからだを抱えながら、シュバイツァーをにらみつけた。
「シュバイツァー、テメェっ……!」
「そんな目で俺を見るんじゃねぇよ。
安心しろ、すぐにお前もあの世に送ってやる」
そうして再び、シュバイツァーは剣を振りあげた。
だが、そこで大地に異変が起きた。
「!?」
突如としてシャティユモン『上板』の大地が揺らぎ、巨大な亀裂が走ったのだ。
シュバイツァーと晶龍の足もとを起点として、大地の崩壊が広がっていく。
「……チッ。島の寿命が尽きたか」
帝国皇帝のあまりにも強大な闇のちからと、シュバイツァーの大地そのものを使役するちから。
もともと国土の狭いシャティユモンはその消耗に耐えきれず、島の寿命が尽きてしまったのだ。
――やはり気兼ねせずに全力で戦えるのは、帝国本土かヴュスターデくらいか……。
シュバイツァーは晶龍とともに、悠然と大地から飛びたった。
いっぽう、シュフェルとガレルは龍もろとも大地の崩落に巻きこまれ、足もとへと落ちていく。
だがそこで、彼女たちを救出へと向かいにアレスとティランが駆けつけた!
「シュフェルさま、ご無事ですか!?」
「ガレル、大丈夫!?」
アレスたちは『地縛霊』の拘束から逃れていた。
足場が崩れたことによって、『地縛霊』たちが潜む影がなくなったのだ。
サヘルナミトスの消滅にともない『瘴気』がうすくなっていたところに影から引きずりだされ、朝陽が霊体のちからを弱らせた!
アレスたちはシュフェルとガレルを龍ごと抱え、大地の崩落に紛れて撤退を始めた。
「! はなせ、アレス!
アタシはあの野郎をぶった斬るっ!!」
「そのおからだでは無理です、シュフェル様!
ここはいったん身を引きましょう!」
「シュフェルさまっ、早くガレルをエルマさまのところへ……!」
「くッ……!」
アレスに腕を押さえられ、代わりにガレルを抱えているティランに涙ながらに訴えられて……。
シュフェルは歯噛みをしながらも、あえなく撤退を受けいれた。
悔しくて悔しくて仕方ない気持ちを、せいいっぱい押さえつけながら。
「おいおい、俺がてめぇらをみすみす逃がすわけがねぇだろう……?」
シュバイツァーは周囲に残る大地の自然素をかき集め、金剛の礫を練りあげていく。
『五重奏』!!
「!?」
崩れゆく地盤のわずかな隙間を縫って、五本の弓矢がシュバイツァーめがけて飛んできた!
砂の防御壁が発動し、一瞬ではあるが彼の視界をさえぎる。
――五本の矢で、この崩れる土砂のなかを射ぬくだと!?
矢はすべて砂の防御壁に弾かれてしまったが、その視界をさえぎったわずかな時間が、アレスたちを撤退させる時間をつくりだしたのであった。
ヴィレオラが、シュバイツァーのもとへと駆けつけた。
「申しわけございません。
奴らをとり逃がしてしまいました……。
追いますか?」
「『黒夢の騎士団』に追わせろ」
「はっ!」
ヴィレオラは呪霊の使い魔を呼びだすと言伝てを預け、『黒夢の騎士団』のもとへと向かわせた。
シュバイツァーとヴィレオラ、ふたりは並び、崩れゆくシャティユモンの大地を見おろしていた。
……ふと、ヴィレオラは隣にいたシュバイツァーに問いかけた。
「シュバイツァー様。
あの男のからだにくすぶる炎は、あえて消しましたので?」
「……うるっせぇよ」
『焔ノ神』を発動したガレルのからだは、なにもせずとも自身の炎に焼きつくされ、消滅するはずであった。
水氷の自然素をも操るシュバイツァーが彼の炎を消さなかったならば、の話ではあるが。
「再起不能なほどの打撃を与えたからな。
どうせあいつらはもう終ぇだ。
この崩れゆくシャティユモンとともに、な」
シュバイツァーたちはシャティユモンの大地が崩壊していくさまを、ただただ見つめていたのであった。
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