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第227話 絶望的な現実


 前回の場面の続きです。


 シュフェルとガレルの攻撃をしのいだシュバイツァーが、守りから攻撃へと転じた!

 地が裂け、巨大な岩の柱が伸びだす!


「がっ!!」

「くそっ……!」


 岩の柱は宙で押しとどめられていたシュフェルとガレルを強烈に叩きつけ、ふたりを吹きとばした。

 彼女たちの全身を、硬い岩盤に打ちつけられたかのような衝撃が走る!


 ……この攻撃もまた、自在に氷の柱を操り、叩きつけて戦うエインスレーゲンを思い起こさせるものであった。

 過去の経験から地面の近くにいることは危険であると判断し、シュフェルはガレルに呼びかけた。


「ハァッ、ハァッ……。

 ガレル、コイツの攻撃は下から来る!

 いったん地面からキョリをとろう!」

「! おぉよ!!」


 ふたりは示しあわせ、上空へと飛びあがっていった。

 シュバイツァーの地面からの攻撃をかわしつつ、上方から彼を狙おうという算段(さんだん)だ。


 しかしシュバイツァーはシュフェルたちを追いかけることなく、晶龍(しょうりゅう)に地に足を着かせたままその場に留まっていた。


「空に逃げようったって、させねぇよ」


 エツァイトバウデンの刀身が光り輝くのに呼応(こおう)するように、そのあたり一帯の地面も輝きはじめた。


「大地にひれ伏しな」


地讃礼拝(ビデ・ヴェレフルング)』!!


「「!?」」


 輝く地面の上に転がっていた、死霊兵や屍の龍の肉体が自らの重みでゆがみ、ひしゃげた。


 同時に、上空へと飛びあがっていたシュフェルたちも大地へと強く引きよせられ、墜落(ついらく)してしまった。

 龍もろとも地面に強くからだを打ちつけられたのち、全身の骨と肉が重みできしむ。

 彼女たちは龍もろとも地面に()いつくばり、そのさまはまるで大地にひれ伏して礼拝を捧げているかのようであった。


 ……『重力』の操作。

 大地の自然素を操るシュバイツァーは、局地的に足下の島の重力を強めることまでできたのであった。


「んっ……のやろぉッ、ナメやがって……!」

「こんなところで這いつくばってられるか……!」


 ……本来なら肉体にかかる重みで肉が裂け、骨が潰れるほどの重力。


 しかし、『龍の加護』で強化されている彼女たちの肉体は形状を保っていた。

 龍と共鳴し、『龍の加護』を得ていたシュフェルとガレルたちだからこそ、その肉体は原形を保っていることができたのである。


 さらに龍との共鳴を深め、全身をめぐる自然素の量を増幅させた。

 肉体を強化して重力に抗い、彼女たちは再び立ちあがったのである。


「負けてられっかよォッ!」

「うおおぉっ!!」


 重いからだを引きずりながら、気合いで立ち向かっていくシュフェルたち。

 龍との共鳴をますます深めて本来の速度を取りもどし、朝陽に照らされた荒野を駆けぬけていく。


 しかしやはりシュバイツァーは動ずることなく、彼女たちへと向けて手を振りかざした。


「しつけぇ奴らだな……。

 ガキどもはそこで仲よくネンネしてな!」


万有引力(ユニヴェル・グラツィオン)』!!


「「なにっ!?」」


 シュバイツァーがちからを発動するやいなや、シュフェルとガレルは互いにからだを引きよせられ、激しく激突した!


「おぁッ!!」

「ぐぁ!!」


 ……人や龍は重力方向にかかるちからには無意識に慣れているが、横方向に引きよせられるちからにはめっぽう弱い。

 シュフェルたちはのしかかる重力には精いっぱい踏んばって耐えていたが、急に横向きにちからをかけられて、なすすべなくぶつけられてしまったのであった。


 ――コイツ、地面に向けての『重力』を強くするだけじゃなくて……!


 ――ふたつの物のあいだの『引力』まで強くすることができるのかよ……!


「さて、こちらからも行くとすんぜ。

 先にとどめを刺すべきは……」


 ――『和奏(わそう)』の使い手、金髪のほう!


 シュバイツァーは自身の周囲をただよう自然素を(きら)めかせると、晶龍の足元の地面から岩盤を突きださせた。

 突きだした岩盤が射出台としての役割を果たし、シュバイツァーたちは驚異的な加速力をもってしてシュフェルへと突撃した!


 と、同時に――。


「!? ぅあッ!!」


 グン! とシュフェルのからだがシュバイツァーのほうへとひき寄せられた。


 正確には、シュフェルが乗っているクラムとシュバイツァーが乗っている晶龍とのあいだに働く『引力』である。

 岩盤による射出を利用して高速で迫るシュバイツァーと、『引力』でひき寄せられるシュフェル。

 その相対接近速度は、レゼルの『神風(エリュシオン)』をも上まわる!


「おらぁっ!!」

「ぐッ!!」


 シュバイツァーから繰りだされた一撃に対し、シュフェルはとっさに体勢を整えて全力のひと振りで受けとめる。

 だが、しかし。


 ――重ってぇッ!!


 ヴァリクラッドの刀身を伝わって、とてつもない衝撃がシュフェルの小さなからだを駆けぬけた。

 まるで大地そのものを斬りつけ、そして怒りをもって押しかえされたかのよう。


 ……エツァイトバウデンの刀身の表面は微細な鉱質成分が微振動することによって、剣の切れ味と威力を飛躍的に高めているのだ。

 エツァイトバウデンに備わる優れた攻撃性能は、ただでさえ強烈なシュバイツァーの一撃をよりいっそう凶悪なものへと化している!


 たまらず、シュフェルはクラムごと吹きとばされてしまった。


「ああっ!!」

「シュフェル!!」


 いまだかつて、シュフェルは通常の剣閃(けんせん)でこれほど重い一撃を受けたことはない。

 後方に吹きとばされ、ぶつかる木々をなぎ倒し、岩壁(がんぺき)に強く身を打ちつけながら。

 彼女は絶望的な現実を突きつけられていた。


 ――ダメだ。

 アタシたちがもともとボロボロだとかそんなのは関係ねぇ。

 コイツ(シュバイツァー)は、強すぎる……!




※『地讃礼拝ちさんれいはい』……局地的に強力な重力場を発生させ、敵を大地にひれ伏せさせる龍の御技です。

 あまりに強力な重力であるため、人や龍は肉体にかかる重みで肉が裂け、骨が潰れてしまいます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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