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第226話 最強の『防御力』

 ついにシュフェルたちの前に姿を現した帝国五帝将最後のひとり、『地裂(ちれつ)』シュバイツァー。

 彼は姿を現したのち、寡黙(かもく)にシュフェルたちのことを見据えていた。


 五帝将最強の龍騎士にして、帝国皇帝にもっとも(あつ)い忠誠を誓う男。

 その物腰は常に礼儀正しく丁寧で、冷静沈着。物事に対して思慮深く……


「う゛おぉ゛いっ、ヴィレオラぁっ!!

 てめぇ、こんな雑魚(ざこ)どもになに苦戦してやがんだゴラァっ!!」

「!!?」


 開口一番、猛々しく咆哮(ほうこう)するシュバイツァー。

 桁はずれの闘気をますます()きだしにさせ、大地は揺らぎ、味方であるはずのヴィレオラまでからだをビリビリと痺れさせていた。


 ……そう、帝国皇帝の前で見せる忠実かつ従順な『しもべ』は彼の仮の姿。


 傭兵から叩きあげの彼の言動は野蛮にして、粗野(そや)

 戦場の最前線で剣を振りかざし、立ちはだかるすべての敵をうち砕く『戦士』そのもの。

 それが、この帝国五帝将『地裂』シュバイツァーの真なる姿なのである。


 シュバイツァーの出現とともに、ヴィレオラと屍龍(しりゅう)はその場にひれ伏した。

 彼に叱責(しっせき)され、ヴィレオラは申しわけなさそうにうなだれている。


面目(めんぼく)ございませぬ、シュバイツァー様。

 不測の事態が重なってしまい……」

「言いわけ聞きにきたんじゃねぇぞヴィレオラぁ。

 ……だがたしかに、このナメくさったガキどもは俺が直々(じきじき)にシメてやらなきゃなんねぇようだな?」


 そう言って、シュバイツァーはシュフェルとガレルをにらみつけた。

 シュフェルたちも、負けじとにらみかえす。


「なんだこのチンピラみてェなヤツは……!」

「ヴィレオラのあの変わりよう……。

 こいつが五帝将の親玉ってわけか……!」

「おい、口の利き方に気ぃ付けろよてめぇら。

 シメる前に敬語の使い方叩きこんだろか、あん?」

「誰がチンピラ相手に敬語使うかよ、あぁん!?」


 メンチを切りかえすシュフェル。

 互いに(ひたい)に青筋を立ててにらみあうさまはまさしくチンピラどうしのケンカそのものである。


 ……しかしそこで、シュバイツァーの顔にふと笑みがこぼれた。


「だがまぁ、この俺にニラみかえしてきた奴は久しぶりだな。

 見あげた根性だ、その点だけは()めてやるぜ!」


 そうして、シュバイツァーのもつ刀身は光りかがやきはじめた。


 ――『大地の新月刀』エツァイトバウデン。


 ミネスポネがもっていた『水氷(すいひょう)の短剣』エインスレーゲンとは兄妹と言われる神剣。

 その幅広の刀身はなめらかな曲線を描き、岩肌のざらつきを思わせる複雑な紋様が刻まれている。

 その表面はさまざまな貴石を散りばめたかのように色とりどりで、母なる大地のごとき奥深さを内包しているのであった。


 シュバイツァーは自身が乗っている龍との共鳴を始めた。


 通常、大地の自然素をもつ龍は黄土色の体色で、岩のような(うろこ)をもつ。

 しかし、彼が乗っている龍は自然素があまりに高濃度に濃縮されたために結晶化し、全身が透きとおっていた。

 水晶で構築されたかのようなからだをもつ龍は無二の存在であり、人々からは『晶龍(しょうりゅう)』と呼ばれていたのである。


 そして、シュバイツァーと晶龍が奏でるのは『和奏(わそう)』の調べ。

 金剛のように硬質でいて、そびえ立つ山々のように荘厳(そうごん)な旋律。

 その美しき響きは、聞く者に大地の雄大さを思い浮かべさせた。


 シュバイツァーが練りあげた大地の自然素が凝集し、鋭く尖った無数の金剛石と化していく。


「砕け散りな」


金剛の飛礫(ディア・スプリキス)』!!


「ッ!!」

「よけろ、シュフェルぅっ!!」


 無数の(つぶて)が、シュフェルとガレルめがけて、超高速で撃ちだされていく!


『礫』とあるが、先端は剣のように鋭利。

 しかもそのひとつひとつが、世界最硬の物質『金剛石(ダイヤモンド)』である!


 まともに受けるのは危険であると判断し、シュフェルたちは礫を回避した。

 彼女たちは並々ならぬ身のこなしで礫をかわしつつ、逆に反撃に転じてみせた。


「調子に乗りやがって、このチンピラ野郎ォッ!」

「こちらからも、行くぜっ!!」


雷剣(エクレスペル)』!!


炎蛇(フオ・シュライゲル)』!!


 シュフェルたちは残されたちからを振りしぼり、全力でシュバイツァーに攻撃を叩きこんだ。


 だが、ふたりの攻撃は再び空中で弾きかえされることになる。

 いつの間にかシュバイツァーのまわりを取りまいていた砂の防壁(ぼうへき)に、攻撃を弾きかえされてしまったからである!


 砂の防壁の隙間から、シュバイツァーは宙で押しとどめられているシュフェルたちをにらみつけた。


「意外に思うだろうが、こう見えて堅実(けんじつ)な性格でね。守りは得意中の得意なんだよ!」


 大地の自然素と雷の自然素がせめぎあうなか、シュフェルは信じられぬ気持ちで自身の剣の切っ先を見つめていた。


 ――これは、ミネスポネの氷塊(ひょうかい)と同じ自動防御。

 だがミネスポネのときよりはるかに疾く、変幻自在で、そして(かて)ぇ!!


 砂の防壁にはキラキラと光る粒子が散りばめられている。

 微小な金剛石の粒子が混じり、防壁の強度をさらに高めているのだ。

 そして粒子が細かいぶん、ミネスポネの氷塊以上に自由自在にかたちを変えることが可能なのである。


 その絶対的な守りは、数ある自然素のなかでも高い攻撃力をもつ、雷と炎の龍の御技(みわざ)もなんなく防いでみせたのであった!




 揺るがぬ守備を見せるシュバイツァーの戦いぶりを見守りながら、ヴィレオラは予想どおりの成り行きに納得していた。


 ――こうなるのは当たり前だ。

 オラウゼクス殿が帝国五帝将最強の『攻撃力』をもつ男なら、シュバイツァー様は最強の『防御力』を誇るお方だ。

 だがその攻撃の苛烈(かれつ)さも、生半可なものではないぞ……!


 そうして、シュバイツァーは守りから攻撃へと転じた――。




※『金剛の飛礫(こんごう の ひれき)』……鋭く尖った無数の金剛石ダイアモンドを、礫のように飛ばして攻撃する龍の御技です。


 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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