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第211話 正真正銘の怪物


 前回の場面の続きです。


 ノアの兄は息をきらし、あたりを見まわしながら、懸命に逃げた。


 変わりはてた村人たちの姿と、それに群がる死霊兵たちの姿とが、燃えさかる火事の炎によって照らしだされている。

 ほんの少し前までいつもと変わりなく寝静まっていた村が、今では地獄のようになってしまった。


 兄はその場に立ちどまり、すべてをあきらめて泣きだしたかったが、それでは父の死が無駄になってしまう。

 彼は必死に涙をこらえた。


 ……とはいえ、ノアはいったいどこにいるのだろうか? まるで見当がつかない。


 現状では死霊兵たちがいない方向へと進んでいくしかなかった。

 すると自然と行き先は限られていき、はからずも彼は村の入り口のほうへと進んでいっていた。


 ……もう少しで村の入り口にたどり着くというところで。

 村人のからだをむさぼり喰っていた死霊兵たちがそばを通った兄に気がつき、いっせいに襲いかかってきた!


 死霊兵たちは屍人(しびと)とは思えぬ速度で迫ってくる。とうてい逃げきれそうにはない!


 ――ごめん。お父さん、ノア……!


 兄が死を覚悟した、そのとき。


「はああああぁっ!!」


 間一髪のところで駆けつけたネイジュが現れ、爪で死霊兵たちをひき裂いた!!


「ネイジュさん! ノア!」

「おにいちゃん!」


 ノアが兄の胸に飛びこみ、抱きついた。

 しかし、彼女はすぐに父がいないことに気がつく。


「おにいちゃん、おとうさんは……!?」


 ノアは兄に問いかけたが、彼はうつむき、首を横に振った。


「お父さんは、もういない。

 僕をかばって、死霊兵に襲われて……!」

「そんな、おとうさん……!」


 ノアは父の死に衝撃を受け、悲嘆に暮れようとしていたが、ネイジュはそんな彼女を叱咤(しった)した。

 ネイジュが倒した死霊兵たちは見る間に傷がふさがり、再び立ちあがろうとしていたからだ。


「ノア殿、悲しんでいる暇はないでありんす。

 今すぐこの村を脱出するでありんす!!」


 ネイジュは行く手をさえぎる死霊兵たちをうち倒しながら、ノアとその兄を連れて村の外へと脱出していった。




 ネイジュはノアとその兄を連れて、村の外に広がる森を駆けぬけていく。

 だが、どこかに行くあてがあるわけでもない。


 シャティユモンを覆う瘴気は刻一刻と濃くなり、死霊の気配も探りづらくなっていた。

 今はただ村を離れて、『下板(したいた)』の外側のほうへ、外側のほうへと逃れていく。


「ネイジュさん、ありがとうございます。

 僕たちを助けてくれて……」


 ノアの兄が、息を切らして走りながら、ネイジュに感謝の気持ちを伝えた。


「お礼を言うのはあとで。

 今は、無事に逃げきることだけを考えるでありんす!」


 ネイジュたちは走りつづけ、いつしか三人は墓地のところまで戻ってきていた。

 しかしそこで、彼女たちを待ちうけているものたちがいた……!


「ゥグルルル……!」

「!!!」


 ――『地獄の番犬』、ケルベロス。


 ネイジュが『罪人の村』で戦闘を行った結果、『下板』のなかでもとりわけ強いちからを秘めた存在が隠れていたことが明るみとなった。

 その強者の気配を、ケルベロスたちが見逃すはずがなかったのだ。

 彼らは墓地を囲む森のなかに身を潜め、待ち伏せをしていた。


 ネイジュは神経を研ぎすまし、瞬時に相手の戦力を把握する。

 十、十五……二十数頭ほどはいそうだ。


 ネイジュだけなら、一点突破で包囲を抜けることはできるだろう。

 だが、ノアとその兄を置いていくことはできない。


 ここでやるしかないのだ。

 敵を一匹残らず殲滅(せんめつ)させる。

 しかも、戦えないふたりを護りながら。


「そんな……!

 こんなにたくさんの怪物に囲まれてしまうなんて……!」

「わたしたち、逃げきれないの……?」


 動揺(どうよう)する兄妹だったが、ネイジュは臆することなく一歩前に進みでた。


「安心してくれなんし。

 ぬしたちはぜったいにあちきが護りきるでありんすから」

「おねえちゃん……!?」

「ノア殿、許してくれなんし。

 ぬしにまだひとつだけ、明かしてなかったことがあるでありんす」


 ネイジュはちからを解きはなった。

 彼女を取りかこむように冷気が吹きだし、氷の華が咲きみだれる。


「あちきの正体は『氷銀(ひょうぎん)の狐』。

 ……ぬしのことを護る、正真正銘の怪物でありんす」


 もう正体を隠す必要などない。

 村は崩壊し、頼ろうとしていた人間たちもいなくなってしまったのだから。

 今はすべてを、ノアたちを護るためだけにそそぎこむ!


「「ガルルルル!!」」


 ちからを解きはなったネイジュに対し、ケルベロスたちは威嚇(いかく)し、警戒を強めた。


「残念だったでありんすね。

 犬と狐(お仲間)どうし、仲よくなれたかもしれないでありんすが……。

 折が悪かったでありんす!!」


氷棘(エルセプファン)』!!


「ギャアウンッ!」


 ネイジュはからだを鞭のようにしならせて氷棘を投げつけ、ケルベロスのうちの一匹に撃ちこんだ!


 攻撃を受けたケルベロスは氷棘を胸から串刺しにされ、絶命した。

 そのネイジュの一撃を皮切りとして、ほかのケルベロスたちもいっせいに彼女に襲いかかった。


 対して、迎えうつネイジュのからだから激しい吹雪のような冷気の奔流があふれだす。

 その凍てつく奔流の中心に、熱き心を(たずさ)えて!


「ノア殿たちには、わずかたりとも触れさせないでありんす!!」




 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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