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第208話 終末へと導く光


 前回の場面の続きです。


褒美(ほうび)に、極上の『死』をくれてやろうぞ!!』

「くっ……!」

「お母さま!!」


地獄の業火(ヘレ・ブツィオン)』!!


 サヘルナミトスは、頭のかたちが崩れるほど口を大きくひらき、地獄の火炎を吐きだした!


 エルマさんはかろうじて身をかわしたものの、服の(すそ)に火が燃えうつってしまった。

 そのまま燃えひろがれば、彼女の身を焼きつくすまで炎は消えはしない!


「やむを得ないですわね……!」


 彼女はメイスで燃えた服の先を斬り捨てた!

 メイスは鈍器であるはずだが、彼女の振る速度があまりに速いため、服の端だけ鋭利な刃物を用いたかのように斬ることができたのだ。


 そうして彼女は、サヘルナミトスの前から離脱した。


 ……ここまで、まばたきもし終わらぬうちの一瞬の出来事。

 俺も起こった事実を正確に捉えられているかどうかはわからない。

 それほどまでに、次元の違う応酬(おうしゅう)であった。


 いつの間にか、エルマさんはレゼルの隣にまで戻ってきていた。


「なるほど?

 これが神の戦いの領域というわけですわね。

 なかなか骨が折れそうですわ」

「お母さま……」

「大丈夫です。

 私とあなたがちからを合わせれば必ず勝てる。いっそう気をひき()めていきますわよ!」

「はい、お母さま!」


 ……そばにいるだけでレゼルに安心を与えてくれるエルマさんの存在。


 いずれ戦わねばならぬ帝国皇帝も、神格に属する者。

 彼女たちは、ここでつまずくわけにはいかないのだ。


『カカカカカ。

 オヌシら、ワシをあの若僧と戦うまでの練習台とでも思っておらんか?

 ここはひとつ、ワシのちからを見せておかねば冥府の神王としての示しがつかぬのぅ』


 そう言って、サヘルナミトスは両手の指を合わせて円をつくった。

 円のなかにおびただしい量の瘴気が収束し、場の空気が変わっていく。

 まるで、次元そのものがねじ曲げられていくかのよう。


「……!?」


 いまだかつて見たことのない瘴気の収束に、俺たちは不安を煽られ、背筋が凍りついていくのを感じる。


 逆に、戦場のなかで戦いを傍観していた蜘蛛女(アラクネ)や使い魔たちは、にわかに賑わいはじめた。

 サヘルナミトスがその少年とも老人ともつかぬ顔の口もとを、ニヤリとゆがませる。


『これは世界を滅ぼすちからであるぞォ』


 そうして、サヘルナミトスの手がつくる円から、光が放たれた!


終末へ(フュレン・)と導く光(トゥンターガング)』!!


『地獄の業火』のように発光を伴うが、光であるようには感じられない。

 むしろ、光を弾き飛ばして進む闇そのものと言ったほうが正しい。


 そして、その闇が進む先では空間が、次元が、ねじれてゆがんでいく!!


 エルマさんの隣ではレゼルが防御に備えて風の自然素を練りあげていたが、エルマさんは全力で叫んだ!


「レゼル、その攻撃を受けてはダメですっ!!」

「! はいっ、お母さま!!」


 レゼルとエルマさんは互いに離れ、全力でサヘルナミトスが放った技を回避した。

 光とも闇ともつかぬその光線はレゼルたちがいた空間をもねじ曲げて、そのまま炎のドームを突きぬけていった!


「「!? うわあああぁっ!!」」


 炎のドームに(さえぎ)られてよくは見えないが、その光線は『上板(うわいた)』の端の部分を粉砕し、数多くの死霊兵や騎士たちが巻きこまれて消滅してしまったようだ。


 さらに、空間のゆがみが伝わって、光線の軌跡以上の範囲で破壊が起こる。

 大地はひずみ、人や龍は原型をとどめぬほどにひしゃげて死に至る。


 空間のゆがみの影響は遠くに行くほど波状(はじょう)に広く伝わるようで、『上板』ではかなり遠方にいた人間にまで被害が及んでいるようだ。

 近くにいた俺たちも光線の直撃は(まぬが)れているが、ねじれた空間にからだがひき寄せられて、大きく揺さぶられた。


 ――メチャクチャだ、メチャクチャすぎる。

 これが、冥府の神王のちから……!


『カカカカカ。

 ワシがこの技を乱れ撃つだけで、この世界を終焉(しゅうえん)に導くことができるのじゃよ。

 今はまだ()()()()()()()()()()()()()が、冥界のちからはいや増す一方じゃからのぅ。

 年老いてますます楽しみが増えるばかりじゃ、カッカッカ!』


「あうぅっ……!」


 俺より光線の近くにいたレゼルは、空間のゆがみの影響をより強く受けてしまったようだ。

 からだがきしみ、胸を押さえて苦しんでいる。


治癒の波動(コンソリオンデュ)


 エルマさんがレゼルのもとへと駆けつけ、桃色の光で彼女のからだを包みこんだ。

 レゼルの体内に蓄積された損傷が癒されて、正常な働きを取りもどしていく。


「お母さま……!」

「はぁっ、はぁっ。

 ……レゼル、大丈夫ですか?」

「おかげさまで、よくなりました。

 お母さまこそ、大丈夫ですか!?」

「ええ、私は自己治癒で回復していますから。

 ……ただ、瘴気が充満しているこの空間では、普段よりも治りが遅いようですわね」


 いつもは傷どころかシミひとつないエルマさんの顔に、かすり傷が残っている。

 戦いのなかでついた小傷をすべて治しているだけの余裕がないのだ。


「……それよりも、先ほどの攻撃はかわして正解でしたわね。

 あの空間のゆがみは、自然素の操作のみでは防ぐことができない攻撃でした」

「ええ、お母さまが言ってくれなければ、危ないところでした。

 あんな(たぐい)の攻撃も、あるのですね……」


 サヘルナミトスは、エルマさんのことを見据えて、なんとも楽しげに高笑いしている。


『『冥府』のちからをもつヴィレオラも世にも珍しい存在じゃが、『生命』のちからを操る人間もまた、稀有(けう)な存在じゃ。

 長生きすると珍しいことが続くもんじゃのう。カカカカカ!』

「余裕をかましていられるのも今のうちですわよ……。行きましょう、レゼル!」

「はい、お母さま!!」


 そうしてまた、レゼルとエルマさんは冥府の神王へと立ちむかっていったのであった――。




 次回はいったん、シュフェルとヴィレオラとの戦いに場面が移ります。


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします!

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