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第201話 命の結晶


 前回の場面の続きです。


「レゼル様!

 グレイス殿が戻られました!」

「! グレイスさんが……!」


 連絡兵のひとりが、グレイスの到着を報告した。

 グレイスがほかの兵士に連れられて大テントのなかに入ると、レゼルは安堵(あんど)の表情を浮かべた。


「レゼルすまない! 遅くなった!」


 しかし安心したのもつかの間。

 入ってきたグレイスの姿を見て、その場にいた全員が凍りついた。

 彼の服の前面にはべっとりと血が塗りつけられており、赤黒く染めあげられていたからだ。


 レゼルは彼の身を心配するあまり顔が青ざめ、両手で口を覆った。


「グレイスさん、その血は……!?」

「? ……ああ、大丈夫だよ。

 こいつは俺の血じゃない」

「グレイスさんの、血ではない……?」


 目を合わせようとしないグレイスにレゼルはなにか感じるところがあったが、誰の血なのか問い詰めることまではできなかった。


「アンタ、まさかまたなんか悪いことしてきたんじゃ……」

「ワ、ワルイコトナンテシテナイヨ…………タブン」


 シュフェルも疑惑のまなざしを向けてきたので、グレイスは再び目を泳がせた。

 彼はまた爆破物を仕掛けたわけだが、それが悪いことでないかは疑問が残るところである。


 グレイスの服にこびりついた血に疑問を呈する向きがあるなか、ブラウジは純粋ないたわりとねぎらいの気持ちで近寄ってきた。

 彼には()()()()など働くはずもなく、グレイスが誰に会ってきたのかなど欠片も気にしないのだ。

 戦闘に備えて着込んだ白金(プラチナ)の鎧が、キラリと光る。


「しかしオヌシ、死霊がうろつくあの島に行ってよくぞ無事に帰ってきたのう」

「ああ、実際一度死にかけたんだけどね。

 訪れたのが薬学研究所だったおかげで九死に一生を得たよ。

 だが、死にかけた甲斐があって良いものをもらってきたぜ……!」


 グレイスはそう言って、大事に抱えていた箱を床に置いた。

 彼が暗証番号を入力して(ふた)を開けると、なかには数々の赤い『結晶』が丁重(ていちょう)に詰めこまれていた。


「これは……!」

「すごい綺麗。宝石?」

「でも、これがいったいなんの役に……」


 見ている者たちは結晶の美しさに思わずため息をついたが、その用途に関してはよくわからなかったようだ。

 しかし、いつも会議では遠巻きに見ているエルマが前にでてきて、その結晶に関する見解を述べた。


「それは、生命力を高濃度に凝縮(ぎょうしゅう)して結晶化したものですわね。

『龍の鼓動』にも似た強い命の波動を感じますわ。

 ……ガレルさん、その結晶をひとつ、剣にくくりつけてみてくれませんか?」

「はっ! エルマ様、ただちに」


 ガレルはエルマの指示を受け、結晶をひとつ手に取る。

 自身の服を帯状に切りさくと、その布を巻いて、結晶を剣の(つば)にくくりつけた。


 すると、くくりつけられた結晶はさらに赤く輝きを増し、長剣の刃先からガレルの身体まで光に包みこまれた!

 彼は光りかがやく剣の刃先に魅入られて、思わずため息をついた。


「すげぇな、これ。

 身に付けるだけでちからがみなぎってくるのがわかる……!」


 エルマはガレルのつぶやきにうなずいた。


「その結晶のちからを借りれば、一般龍兵の剣でも死霊兵を斬りさくことができるでしょう。

 今の騎士団は、一般龍兵のなかにも並はずれた実力をもつ騎士を数多く(よう)しています。

 うまく軍を展開させれば、じゅうぶん戦えるはずです」


 ――しかし、これだけの『生命力』、いったいどうやって凝集を……?


 エルマは口にはださなかったものの、疑問を抱いていた。


 この命の波動は、明らかに()()()『生命力』。人間の命からひきだしたもの。


 だが、これだけの生命力をひとりの人間から抽出すれば、その人間は確実に死に至るだろう。

 これだけの量と質の『結晶』をつくりだすには、相応の犠牲があったはずだが……。


 とは言え、今は緊急事態であり、グレイスを問い詰めている時間はない。

 エルマはそのまま黙秘を続けることとしたのであった。



 エルマからのお墨付きを得て、グレイスはようやく肩の荷がおりたように天を仰いだ。

 からだはもう疲れてヘトヘトだったが、苦労が報われて心が軽くなる。


 ――オルカ、恩に着るぜ。

 おかげで俺たちはまた戦える……!


「結晶は百個ほどあるらしい。

 各小部隊に配布して、その部隊で最も攻撃に秀でた騎士に装着してもらおう!」

「ただちにその結晶を、各小部隊へ!!」


 レゼルの指示で使いの兵が走り、結晶は各小部隊のもとへと運ばれていく。


 ガレルにひきつづき、アレスたちほかの部隊長も結晶を身に付けていった。

 アレスは槍の取っ手に、ティランは隠し刃を仕込んだ右手のひらに、サキナは弓の握りに結晶を巻きつけた。


 グレイスはレゼルがシャティユモンに向かって突撃し、上陸する決断をしていたことを知らされる。

 もちろん、彼が異議を唱えることはない。


 今回のシャティユモンでの戦いは死霊兵の軍団を殲滅(せんめつ)し、帝国本国での戦いにおける後方の憂いをなくすことなのだ。

 戦いの術を得た今、これ以上敵の軍勢が増えるのを待つという選択肢など存在しない!


 作戦目標『死霊軍の殲滅』。

 決戦のときは、今――!




 大変お待たせしました。

 次回からいよいよ、第4部バトル開始です!

 第3部を超えるボリューム・熱量の戦いが待っています。

 どうぞご期待ください!!


 次回投稿は明日の19時に予約投稿の予定です。余裕があれば少し早めに手動投稿します。何とぞよろしくお願いいたします。

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