表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/330

第167話 狙われたグレイス


◇グレイスの視点です

◆神の視点です


「! 死霊兵たちが撤退していく……」


 俺は、エルマさんを追いかけてレゼルが向かっていった上方を見あげた。


 どうやらエルマさんの登場が、戦況を好転させたようだ。

 敵兵たちの落ちつきぶりから察するにヴィレオラはとり逃がしてしまったかもしれないが、これは間違いなく騎士団にとって吉報である。


 騎士団員たちはすでに疲弊(ひへい)していたし、死霊兵たちは『冥門(めいもん)』を出入りして自由に移動することができるのだ。

 逃げる背を討たれたら、ほんとうに再起不能になるほどの犠牲者をだすところであった。


 遠くではブラウジが号令をだし、騎士団も撤退を始めている。

 俺は安堵(あんど)のため息をつき、周囲の味方とともにその場を後にすることとした。



 撤退していく死霊兵の群れ。

 ヴィレオラはその合間を()うように『冥門』の出入りを繰りかえし、移動していく。


 そんな彼女の横目に、ふと目に留まるものがあった。


「む……?」


 死霊軍はシャティユモンの地上へ、騎士団はルペリオントの領空に設営した基地へと。

 反対向きに流れていく騎士団のなかにひとり混じる、帝国風の衣装を着た男。


 今までの騎士団との戦いで得た情報は、諜報兵の報告によって帝国軍全体に共有されている。

 そしてその男が、報告にあがっている要注意人物のひとりであるということをヴィレオラは決して見逃さなかった。


 ――奴が帝国出身の元・盗賊団首領グレイスか。

 運もあるのだろうが奇抜な作戦が功を奏しているらしく、奴が加入してから騎士団は快進撃を続けているという。

 次に相まみえるとき、死霊兵軍が負けることはありえないが、不穏な芽は潰しておくに越したことはない。

 ()()()()()()()()か……!


 フェルノネイフの優美な刀身が妖しく光り、ヴィレオラの『共鳴』に応えて不気味なうめき声をあげた。



 俺が周囲の味方とともにルペリオントのほうへと帰還していく途中、後方からネイジュを乗せた龍が近づいてきた。

 彼女はいつもどおり、横座りで龍の背中に腰かけている。


主様(ぬしさま)、無事でありんしたか!」

「! ネイジュも、無事でよかった!」


 レゼルたちとヴィレオラの戦いに注目が行きがちだったが、その裏ではネイジュも大いに活躍していた。

 通常の斬撃や打撃が効かない死霊兵たちを水氷(すいひょう)の自然素で凍結させて無力化し、数多くの兵士たちの命を救ってくれていたのだ。


「ほんとによかった。

 この乱戦ですぐに主様のことを見失ってしまって、あちき……!」

「ネイジュ……」


 彼女はそう言って苦しげな表情を浮かべていた。よほど心配してくれていたのだろう。


 ……普段はおちゃらけてばかりいる彼女だが、実は非常に仲間想いで献身(けんしん)的な性格のもち主であることを俺は知っている。

 基地に帰ったら、ネイジュにもなにかお礼をしてあげなくちゃな。


 俺がそんな風に考えていた、そのときのことだった。


 ……周囲の群衆の気配に紛れてしまい、気づかなかったのだ。

 俺のうなじを狙おうと小さな『冥門』がふたつ、ひらかれようとしていたことに!


 先んじてそれに気づいたネイジュが、龍の背中を蹴って突進させた!


「主様、あぶないっ!」

「なっ!?」


 俺とヒュードは龍ごと突っこんできたネイジュによって突きとばされた。

 同時に、『冥門』から二本の骨の剣が突きだされた!


「ガァッ!!」


 一本はネイジュが乗っていた龍の首を貫いた。

 龍は即座に絶命し、ちからなく翼をしなだれさせたのち、落下していった。


 そして、もう一本は――。


「う゛っ!!」


 もう一本の剣はネイジュを刺し貫く向きへと伸びていた。

 彼女はとっさに氷の塊を盾にして身を守ったが、氷ごと叩き落とされるかたちで地へと落下していく!


「ネイジュッ!!」

「ぬしさまっ……!」


 俺とヒュードはすぐに彼女を助けに行こうとしたが、まわりの兵士たちが囲いこみ、押しとどめられてしまった。


「グレイス殿、追いかけては駄目です!

 地上のほうに降りていったら、死霊兵たちに囲まれて餌食(えじき)となります!!」

「今はまず、自身の身をお隠しください!」


 味方たちの制止を振りきろうともがいたが、どうしても先に行かせてはもらえなかった。

 そうこうしているうちにネイジュはシャティユモンの大地の上に浮かぶ雲のなかへと落ちていき、姿が見えなくなってしまった……!


「頼む、放してくれ……!

 ネイジューッ!!」



 行き交う敵味方の群衆の合間から、ヴィレオラは自分が仕掛けた奇襲の結果を見届けていた。

 どうやら何者かの邪魔が入ったらしく、標的は仕留めそこなってしまったようであった。


 ヴィレオラはひとり、舌打ちをする。


「チッ、しくじったか」


 ――まぁいい。所詮(しょせん)、雑魚は雑魚。

 消すのはいつでもできるさ。


 彼女は身を(ひるがえ)すと、『冥門』の深く暗い穴のなかへと姿を消した。




 次回投稿は2023/9/23の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ