第163話 にじむ悔しさ
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レゼルたちが、ヴィレオラとの邂逅を果たしていたころ。
騎士団員たちは死霊兵の軍団と奮戦していた。
「とりゃあっ!!」
とある兵士は死霊兵に剣で斬りかかったが、逆に腕をつかまれてしまった。
そして――。
「うわぁ!」
朽ちたからだからは信じられないほどの怪力を発揮され、斬りかかった兵士は龍ごとぶん投げられてしまった。
投げられた兵士とその龍は体勢を崩したまま敵の群れのなかに放り投げられ、そこに死霊たちがいっせいに群がる!
「ぎゃあああっ!!」
兵士と龍はその場で生きたままからだをむさぼり喰われていく。
そのおぞましい光景に騎士団の兵士たちは背筋が凍り、恐怖を植えつけられた。
恐ろしい未知の敵との戦いが怯えを生み、兵士たちの士気は大きく削がれた。
「みんな、ひるむな!
所詮、相手は死人だ!
日々鍛錬を積んでいる我われの敵ではない!!」
また別のとある騎士が、怯えた兵士たちの先頭に立って奮いたたせようと、死霊兵に斬りかかった。
「ぬぅんっ!!」
「ウガゥッ!!」
見事、その騎士は死霊兵の首を斬り落としてみせた!
「フハハ、やったぞ!
どうだバケモノめ!」
騎士が自慢げに胸を張ってみせた。
はね飛ばされた死霊の首が宙でグルグルと回転し、無限の空に落ちていくかと思われた、そのときである。
ポス、と。
頭部を失った死霊のからだが腕を伸ばし、はね飛ばされた首はその手のなかに収まった。
「え……?」
呆然と騎士が見つめるなか、死霊は悠々と首を元の位置に取りつけた。
仕上げに百八十度まわして、前向きに戻すと……。
何事もなかったかのようにゲッゲッゲと笑いだした!
青ざめる騎士の顔を見て、ついでにまわりの死霊たちもゲッゲッゲと肩を揺らして笑っている。
「な、な、なにいいぃ!!」
――死霊兵と屍の龍は多少の斬り傷ならたちまちふさがってしまい、腕が飛ぼうが、足が飛ぼうが、なんなら頭がなくなっても動きつづける。
果ては、どこかからほかの死霊兵の手足や頭が飛んでこようものなら「お、幸運」とでも言わんばかりに自分のからだに取りつける始末。
いずれにせよ、斬ろうが突こうが死霊兵たちはびくともせずに突き進みつづける。
通常の物理攻撃では、有効な損傷を与えることができないのだ。
「おらあぁっ!!」
ガレルが持ち前の華麗な剣技で、次々と死霊兵たちを斬りつけている。
空中戦でも、彼の剣捌きは変わらず冴えわたっていた。
……しかしガレルがいくら斬りきざんでも、死霊兵たちは彼をあざ笑うかのようにケタケタと笑うばかり。
憎たらしく笑う死霊兵たちに、ガレルは今までに感じたことがないほどのいらだちを募らせていた。
「くそっ……!
てめぇらは俺が役立たずだって言いたくて、わざわざあの世から蘇ってきたっていうのかよ!」
……彼はたしかに熱い闘志を秘めた男ではあったが、決して戦場で冷静さを欠くような男ではない。
だが、そのときの彼はいつになく怒りを露わにしていた。
「斬っても死なねぇってんなら、なにもできなくなるほど細切れにして、久遠の空に落っことしてやらぁ!!」
仲間たちが次々と倒れていくなか、ガレルは無謀にも単身で敵の群れのなかへと突っこもうとする!
しかし、そんな彼の腕をつかみ、制する者がいた。
「待て、ガレル!」
「! アレス……!」
闇雲に突っこもうとするガレルをとめたのは同格の部隊長で、彼ともっとも付きあいが長い友人のひとりであるアレスであった。
彼は断固たる意志を秘めたまなざしで、ガレルのことを見つめている。
「現状、自然素による攻撃以外に敵に有効な打撃を与える手立てはないようだ。
無闇に突っこめば、いくらお前といえど危ういぞ!」
「……! アレス、でもよぉ……!」
「焦るな、ガレル。
必ず奴らの弱点は見つかるはずだ。
今はこの場をしのぐことに専念しよう」
「それまで粘るしかねぇってことか、くそっ……!」
ガレルは悔しさをにじませながらも剣をにぎり、アレスとともに再び死霊兵たちとの戦いに身を投じていった。
次回投稿は2023/9/7の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




