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第162話 冥府の刺突剣


 ◇グレイスの視点です


 ついにレゼルたちの前に姿を現した五帝将、『冥門』ヴィレオラ。

 しかし彼女はレゼルたちを前にして無視するだけに留まらず、あろうことか騎士団と死霊兵(しりょうへい)たちの戦局の分析を始めたのであった!


「ふむ。

 さて、次はどう料理しようかな……?」


 ヴィレオラは腕を組んで考えこみ、さらに騎士団を追いこもうと有効な戦略を練っているようだった。

 しかし、そんな好機を見逃すレゼルとシュフェルではない。


「あ」


 ヴィレオラはレゼルたちのことを思いだしてハッとした表情を見せたが、もう遅い。

 レゼルとシュフェルは標的を仕留めようと、すでに動きだしていた!


神風(エリュシオン)


雷剣(エクレスペル)



冥門(ヘレト)(アッセン)』!!



 自身が誇る最速の技を繰りだし、確実に当たるかと思われたレゼルたちの一撃。

 しかし、その一撃はヴィレオラに(かす)ることすらなく、むなしく空間を素通りしていった。

 レゼルたちはまだ激しくほとばしる風と雷のちからを身にまとわせたまま、ヴィレオラがいたはずの場所を振りかえった。


「消えた……!?」

「あんだとッ……!?」


 現世と冥界の空をつなぐ『門』――あらため『冥門(めいもん)』。


 ヴィレオラは元いた場所とは全然違う位置に『冥門』をひらき、そこから悠々と現れた。

 コイツ、『冥門』のなかを自由に出入りして空間移動ができるのか……!


「思っていたより(はや)いな。

 まぐれとはいえ、さすがはあのオラウゼクス殿を(ほふ)っただけのことはある。

 だが、名乗りもせずに襲いかかってくるなんて礼儀に(もと)るんじゃないのか?

 正義をかざす反乱軍とやらよ」

「ハァッ、ハァッ……!

 うるせぇ、テメェがあの死霊どもを操ってるんだろ?

 こっちは兵士たちの命が懸かってんだ、形振(なりふ)りかまってらんねェんだよ!」


 シュフェルはすでに息があがりはじめていた。

 ヴァリクラッドの制御ができず、必要以上にちからを放出しすぎてしまうのだ。


 闘志を剥きだしにして噛みつくシュフェルに対して、ヴィレオラはいたって冷静そのもの。


「的確な判断だな。

 大事な兵士たちを守りたいのなら、たしかにここは()()()()()()のが一番早い。

 しかし、そういう意味ではわたしの能力はお前たちにとって最悪だと言えるだろうね」


 そう言って、ヴィレオラは自身がもつ剣を振りかざした。


 彼女は死に装束(しょうぞく)を思わせる白い軽装鎧をまとい、冥府の刺突剣(しとつけん)『フェルノネイフ』をその手に持つ。

 その神剣のありさまをひと言で表すならば、『幽玄(ゆうげん)』。


 華奢(きゃしゃ)で繊細な刀身の優美さはレゼルがもつリーゼリオンに勝るとも劣らない美しさ。

 しかし、紫水晶(アメジスト)を思わせる紫耀(しよう)の刀身は見る者をそのまま死後の世界へと引きこむほどに深い色味をもつ。


 一方で、剣の(つか)は人骨を想わせるような禍々(まがまが)しい造りをしており、刀身との対比を際立たせている。

 秘宝として所有した人間はみんな非業の死を遂げ、世界の各地を転々としてきたという逸話をもつ、呪われし神の剣である。


 ヴィレオラはそのフェルノネイフを構え、二度ほど宙を突くような仕草を見せた。


邪骨(ヘレオッゾ)』!!


「!!」


 レゼルとシュフェルのうなじのあたりに小さな『冥門』がひらかれ、骨でできた剣が突きだされた!

 彼女らは持ち前の感覚の鋭さと超人的な反射神経で、かろうじて剣をかわす。


「くっ!」

「あぶねっ……!」


 狙われていたのは人体の急所であり、貫かれていれば確実に即死である。

 レゼルもシュフェルも正確に首の後ろを狙われており、骨の剣の照準はじつに精密であった。


 レゼルはもし自身らの首が貫かれていたらと想像し、背筋が凍りつくのを感じていた。

 

 ――このヴィレオラという龍騎士は、ここまで自由自在に『冥門』を操れるというの……!?


 しかしヴィレオラはレゼルたちが骨の剣に気を取られた隙に、『冥門』への出入りを繰りかえしてどんどん遠ざかっていく。

 いつの間にかヴィレオラの加勢に来るように死霊兵の小隊が近づいてきており、彼女もその小隊のほうへと向かっていた。


「! 待て、テメェ逃げる気か!!」


 シュフェルに呼びとめられるとヴィレオラは小隊の前でとまり、振りかえった。


「お前たちの相手をするつもりはないよ。

 死霊兵たちに殺戮(さつりく)をさせるのに忙しいのでね。

 わたしを追いかけるのは勝手だが、お前らも戦わないと兵士たちはどんどん死んでいくぞ?

 アハハハ!」


 ヴィレオラはそう言うと再び『冥門』のなかへと身を潜め、死霊兵の小隊のなかへと紛れこんでいった。



「レゼル、シュフェル、大丈夫か!?」


 俺がレゼルたちのもとに駆けつけると、シュフェルは自分の拳を叩き、毒づいていた。


「クソっ! なんなんだよアイツぁ!」

「おそらく私たちに迷いを生じさせ、どっちつかずにするのが目的です。

 シュフェル、私たちはなるべく死霊兵の数を減らしながら、ヴィレオラを追いかけましょう!

 グレイスさんはブラウジと合流し、軍の指揮をお願いします!」

「おっけー、姉サマ!」

「ああ、わかった!」


 こうして俺は再び彼女たちと別れ、ブラウジのもとへと向かうことになったのであった。




〇『刺突剣』……代表的なものとして、レイピアがあります。

 レイピアは16-17世紀のヨーロッパで護身や決闘に用いられた、細身で先端の尖った片手剣です。

 ヴィレオラが持つフェルノネイフも、レイピアをイメージした形状となっています。


 次回投稿は2023/9/3の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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