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第160話 死霊の軍団

 騎士団が空を進み、もうじきシャティユモンの『上板』に到着するというころのこと。

 軍の先頭を行く兵士たちの何人かが、異変に気がついた。


「……ん? なんだあれは……?」

「お、おい。あれ……!」

「げぇっ!!」


 いったいいつからこちらに向かっていたのか、前方から数百匹におよぶ龍の群れが騎士団のほうへと飛んできていた。

 ……しかし、ただの龍ではない。


 それらの龍の肉体はただれ、腐り落ち、腐臭をただよわせていた。

 なかにはほぼすべての肉がなくなり、骨だけになって飛んでいる個体もある。

(しかばね)の龍』ともいうべき、異形の龍。


 異形の存在の来襲にみんな驚き、混乱してしまったが、それらの龍の背中には誰も乗っていない。

 龍のみで交戦するつもりがあるのか、それともなにかほかの狙いがあるのか騎士団員たちが計りかねていると、さらなる異変がまき起こる!


「! 上のほうからも、なにか降ってきてるぞ!」


 それは、()

 はるか頭上の空中から、数多(あまた)(ひつぎ)が降って落ちてきていた。


 そして空中でそれらの棺はひらき、なかから何者かが姿を現した。

 それは屍の龍たちと同様、身が朽ちはて、腐肉と骨ばかりとなった兵士。

 兵士たちは皆、鎧や甲冑を身にまとい、剣や斧で武装していた。


 ――『死霊兵(しりょうへい)』。

 死んだ人間の肉体に死霊の魂が宿り、動く屍となったもの。


 冥界の住人であり、この世界には本来、決して存在してはならぬものである。

 そんな異界の住人が白昼堂々、空の上から降ってきたのだ!


 亡者たちの軍団がいるという前情報はあったものの、やはりこのような忌むべき存在を実際に見たことがあるわけもなく、騎士団の人々は皆一様に度肝を抜かれてしまっていた。

 さらに死霊兵たちは、乗っていた棺を蹴り捨てて飛びたつと――。


 屍の龍たちの背中に乗り移った!!


 屍の龍たちの群れは、たちまち死霊兵の軍団へと豹変した。

 軍団の背後では、死霊兵たちが乗り捨てた数百という棺が、シャティユモンの大地へと落下していく。


「敵襲――っ!! 敵襲だ!

 ただちに総員、戦闘態勢を取れ!!」

「奴ら、まったく速度を落とさずに突っこんでくるぞ! しっかり備えろ!!」


 こうして突入してきた死霊兵の軍団はなんの躊躇(ためら)いもなく騎士団に突撃し、前方部隊とぶつかりあった!


 しかし、さすがは鍛えに鍛えぬかれた翼龍騎士団の兵士たち。

 意表こそ突かれたものの、前方部隊ががっしりと組みあい、死霊兵たちの勢いを殺す。


 弾きかえされた敵兵の何騎かは龍の背中から落ち、棺のあとを追うようにパラパラと落下していく。


 俺たちの不意をうつように突如出現し、襲いかかってきた死霊兵たち。

 ……だが、それらのド派手な登場はすべて俺たちをひるませ、注意を前方に向けるための演出にすぎなかった。


 ただちに俺たちは、この死霊兵の軍団の真の恐ろしさを知ることとなる!


「……!?」

「なんだっ!?」


 黒い渦?

 ……いや、それは()だった。


 なにもない空中に、突如として穴が穿たれ、『()』がひらかれる。

 人と龍が悠々と通れるほどの大きさの『門』。


 その穴の向こう側にはこの空ではない、まったく別の空間が広がっていた。

 怖気(おぞけ)が走るほどの、邪悪な気配が満ちた空間。


 見ただけで直感的にわかる。

 その深奥(しんおう)に広がっているのは死者の世界。

 生きた者が決して立ち入ってはならない。


 それは、()()()()()()()()()()()()』なのであった。


 騎士団の周囲を取りかこむようにおよそ七つの『門』が展開し、そしてそのなかから……。

 屍の龍に乗った死霊兵たちが続々と現れ、騎士団へと襲いかかってきた!


「奴ら、我々を囲むつもりだぞ!」

「まだ敵兵の数は少ない!

 出どころを叩くんだ!!」


 騎士団ににわかに緊張が走る。

 しかし、突然に前後左右と上下を囲まれ、空中で隊列を組みなおすのは容易ではない。


 前方に注意が向かっていたこともあり、どこの部隊がどの方面の『門』に向かって陣形を成せばよいのか判断が難しい。

 騎士団の内部でも混乱が生じ、指示・連絡が交錯してしまっている。


 とくに、空中で待機しているところを下側から攻めあげられるのは苦しい。

 兵士が背中に乗っているので、龍の腹側から攻められると非常に戦いづらいのだ。


 自由に空を舞える龍に乗っての戦いにおいて、地上に陣を敷くのが基本である所以(ゆえん)である。


 現在、騎士団の真下にふたつの『門』が展開されており、それをどの部隊が対応するかが問題となっていた。


「軍の辺縁にいる各小部隊の隊長の判断で、もっとも近い『門』に向かって陣を組むのじゃ!

 上下からの敵襲には、中央部隊が当たれ!!」


 ブラウジが指示を出し、ようやく騎士団も軍としての統制が取れはじめる。

 しかし、そうこうしているあいだにも各方面の『門』からは怒涛(どとう)の勢いで死霊兵たちが現れ、猛然と襲いかかってきている!


 しかも皆、最初の突撃と同様の死をも恐れぬ突撃だ。

 当然、すでに死んでいるのだから死を恐れるわけがない!


 空中のあちこちで、すでに騎士団員たちと死霊兵はぶつかりあっていた。

 最前列にいる騎士団の精鋭たちがいくら斬りつけようと、死霊の軍勢がひるむことはない。

 ひるむどころか、斬れば斬るほどに勢いを増してくる!


「こいつら、痛みを感じないのか……!?」


 騎士団の本軍は、たちまち敵味方が入り乱れる乱戦へとなだれ込んでいった。

 さらに、続いて後方からやってくる騎士団の第二軍のなかでも動きがあって――。




 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は2023/8/26の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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