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第158話 精神と肉体の高揚


◆神の視点です

◇グレイスの視点です


 時を少しさかのぼり、翼竜騎士団率いる反乱軍が出撃の準備を整えていたころのこと。


 ……ここは神聖軍事帝国ヴァレングライヒ、その頂点に位置する帝国皇帝の居室である。

 帝国皇帝とその側近、五帝将シュバイツァーはテラスに立っていた。


 テラスから一望できるのは、無限に澄みわたる青き空。

 そして彼らが見おろしていたのは、はるか遠くの下方に浮かぶルペリオントの島々である。


 シュバイツァーはいつものごとく皇帝に対して最大級の敬意を示しつつ、現況の報告を行った。


「各国で大規模な出兵の準備が進められるなか、騎士団の本隊はシャティユモンへ出撃する動きがあるようです。

 後方の憂いをなくすつもりでしょう」

『予想どおりの動きだな。

 して、シュバイツァーよ。

 お前はどうするつもりなのだ?』

「シャティユモンにはヴィレオラがいます。

 ()()()()()()()()()、敵からすればオラウゼクス以上に厄介な相手でしょう。

 騎士団が本隊しか揃わぬうちに来襲するというのであれば、返り討ちにするのにはかえって好都合かと」


 騎士団の本隊を壊滅させれば、世界で高まる反乱の気運も消沈(しょうちん)する。

 むやみに帝国本国の軍が動いて騎士団を威圧するよりも、ちからを見誤ってシャティユモンに攻めこんできてもらったほうが好都合であるというわけだ。


 ……つまり、彼はこう思っているのである。

 ヴィレオラ率いるシャティユモンの軍勢には、騎士団の本隊を(ほふ)るだけのちからがあるのだと……!


『よかろう。

 シュバイツァーよ、ヴィレオラに伝者(でんじゃ)を送れ。騎士団の人間はひとり残さず地獄へ送れとな』

「はっ!」


 シュバイツァーは身を(ひるがえ)し、伝者を送る手配をしに皇帝の居室をでていく。


 ……帝国本国は騎士団の進軍をただ傍観していたわけではない!

 決戦の時は、着実に近づいていたのであった。



 軍事会議を終えた日の夜のこと。

 俺とヒュードは寝る前に駐屯基地の夜の見まわりをしていた。


 幹部たちの気迫は兵士たちにもじゅうぶんに伝わっており、皆やる気に満ち満ちた顔をしている。

 明日からの戦いぶりにも、期待ができそうだ。


「ん……?」


 ひとととり見まわって帰ろうとしたところで、なにやら茂みのなかから人と龍が励んでいる気配がすることに気づく。

 何事かと思い、俺とヒュードは茂みのなかへと入っていった。


 茂みを抜けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「フッ! フッ!」


 アレスは自分の龍を背中に乗せて、人さし指だけで腕立て伏せをしていた!

 しかも上半身裸で!


 彼は体格が大きめな分、乗っている龍もかなり大きめの個体だ(馬三~四頭分)。

 龍のほうは龍のほうで、彼の背中に二本足を乗せてうまいこと体勢を維持している。


 それにしても凄まじいほどの肉体美である。

 ……ていうかうわ、ソコの筋肉って、鍛えるとそんな割れかたすんの……!?


 さらに、よぉく耳を澄ませると、彼が持ち前の低くて渋い声で腕立て伏せの回数を数えているのが聞こえてくる。


「……一万九千七百十六! 一万九千七百十七!」


 ……え、ほんとう!?

 一秒に一回やってたとしても五時間二十八分三十七秒もやってることになるぞ。


「むっ」


 アレスがこちらに気づいたようで、背中から龍を降ろして立ちあがった。


「これはこれはグレイス殿。

 たいへんお見苦しいところを見せ申した」

「いや、こちらこそ邪魔して悪かったよ。

 それよりアレス、今のほんとうに一万九千七百十七回もやってたのか……!?」


 アレスは自信に満ちた表情を浮かべ、渋い声をよりいっそう低く響かせて答えた。


「いえ、実際にやったのは二百十七回です。

 数を大きめにすると気分が高揚する効果がありますからな。

 肉体の鍛錬(たんれん)には精神の状態を高く維持することも重要でありますゆえ」

「……」


 ……なんか小難しく言ってるけど、またバカっぽいこと言ってないかぁ、コイツ?


 どうしてこの男は戦闘の最中だと正しく賢いのに、一歩戦場の外にでるとおバカになってしまうのだろう。

 いや、二百十七回でもめちゃくちゃすごいけれども。


「しかしまぁ、すごい鍛錬だなぁ。

 レゼルとシュフェルの組み稽古もすごいけど、単純な努力の量ならアレスにかなう奴はいないんじゃないか?」


 俺が素直な感想を述べると、アレスはいつものようにカラカラと笑ってみせた。


「はっはっは。

 相変わらず面白いことを言いなさりますな、グレイス殿」

「面白さならあんたに負けるけどな……」


 アレスはひとしきり楽しげに笑ったあと、笑顔で夜空を見あげた。

 鍛錬の汗臭さも吹きとぶ爽やかさ。


「私の鍛錬など、()()()の積みあげてきたものと比べれば努力のうちにも入りませぬ。

 だから私も、負けてはおられぬのですよ」

「あやつ……?」

「ええ。なにせあやつは……」


 ……そこで俺はアレスから、ある男の秘密について教えてもらうこととなるのであった。




 グレイスさんは分と時間の計算がとっても速いそうです☆


 次回投稿は2023/8/18の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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