第156話 空に浮かぶ帝国
第四部『冥府の王』、スタートです!
不穏なサブタイトルですが、うってかわって明るく朗らかな章にする予定です♪
どうぞお気軽に読み進めください♪
◇
『砂鉱国』ヴュスターデでふたりもの五帝将をうち倒した翼竜騎士団は、その後も快進撃を続けていた。
道中、数々の死闘を制し、少しずつ味方の軍勢を増やしながら、ついに帝国の隣国を解放するまでに至っていた。
――『司法の国』絶対法治国家ルペリオント。
司法府が国の統治をも司る、レヴェリアにおいても他に類を見ない国。
細部にまでいきわたって定められた法律は厳しくも人道に則ったものであり、国民は誠実そのもの。
中央の司法府は透明性を象徴する水晶で建築された建造物群であり、目を瞠る美しさだ。
そのいっぽうで、辺境では鬱蒼としげった森林が覆う自然の豊かな国でもある。
ルペリオントを帝国の支配から解放した際にも、騎士団は好意的に受けいれられ、滞在用として領空内にある無人島をひとつまるまる貸しあたえてもらえたほどだった。
規模としては小国であるが模範的な国家のひとつであり、カレドラルから見ても学べることは多い。
世界の平和を取りもどした暁には、是非レゼルたちとゆっくりこの国を見てまわりたいものだ。
さて、貸しあたえられた島で、騎士団はいよいよ神聖軍事帝国ヴァレングライヒに攻めこむための準備を着々と進めていた。
迫る決戦に向けて、騎士団員たちも訓練に余念がない。
ヴュスターデでの戦いを終えてからも弛みなく訓練を続け、レゼルとシュフェルはそれぞれのちからで『和奏』を発動することができるようになっていた。
『和奏』の習得により、さらなる龍の加護を得られるようになったためか、彼女たちの基礎身体能力もよりいっそう高まっているようであった。
レゼルたちの訓練はいよいよ激しさを増し、彼女たちが技を放つ様はまさしく天災のごとき凄まじさ。
じつに頼もしい限りであり、きたる帝国との戦いに向けてなんの憂いもないかのように見えた。
の、だが――。
『和奏』――『雷剣』!!
シュフェルとクラムは『和奏』による共鳴を行い、得意の『雷剣』を放った。
彼女たちは雷を身にまとい、小さめの山ほどもある大きさの巨岩へとまっしぐらに突撃していく!
巨岩は一瞬にして砕け、蒸発し、跡形もなく消滅してしまった。
あまりの極電圧に空気までもが電離され、幾筋かの虹色の光の飛跡が飛びかっているのが見える。
これはかつてオラウゼクスが放っていた技に匹敵するほどの電圧や破壊力を実現していることを意味していた。
だが、しかし――。
「のああああっ!!!」
技の発動が終わっても、剣の暴走がとまらない!
シュフェルとクラムが共鳴状態を解除しても、神剣ヴァリクラッドの刀身を紫電が行きかい、勝手に意図しない方向へと突きすすんでいく。
「とっ、まっ、れえええぇぇぇ……!!」
シュフェルとクラムはヴァリクラッドに引っ張られるようにして、あっちこっちとジグザグに方向転換しながら飛んでいく。
最終的には頭から地面に突っこみ、クラムの足としっぽだけが地から生えるようなかたちとなってしまった。
「シュフェルっ!!」
レゼルはエウロに指示して、シュフェルのもとへと飛んでいく。
俺とヒュードも慌ててレゼルに付いていった。
俺たちが近くまで寄ったところで、シュフェルとクラムがズボッ! と穴から抜けだして顔を見せた。
「シュフェル、大丈夫?」
「ぜぇっ、ぜぇっ……!
んああぁ、クソ!
いったいいつになったらこいつはアタシの言うことを聞くようになんだぁ……!?」
シュフェルが必死に押さえこもうとしているが、ヴァリクラッドの刀身ではいまだに紫電が煌めき、わなわなと震えている。
シュフェルの可愛らしい顔は、泥にまみれてすり傷だらけになっていた。
剣に振りまわされてあちこち飛びまわるだけではない。
シュフェルとクラムの体力と、周囲から取りこんで龍の体内に蓄えられる雷の自然素も、おおいに消耗していた。
レゼルは腕を組み、考えこむような顔をしながら紫電みなぎるヴァリクラッドを見つめていた。
「オラウゼクスから剣を譲りうけたとき、その剣は気分屋だとは聞いていましたが……。
まさかこれ程だとは……」
「ちくしょォ……!
やっぱコレ罠か!?
神剣の名をかたった罠なのか!?」
「うーむ……」
――いや、シュフェルは確実に強くなっている。
万物を粉砕する神の怒りのごとき破壊力は、『和奏』と『神剣』のどちらかが欠けても実現できなかったはずだ。
今の彼女の技の威力は自然素の使い手以外を相手に用いるのはもはや非人道的ですらあったため、最近ではもっぱら要塞や大型兵器の破壊を目的に使用している(もともとそのような使いかたをする傾向はあったにせよ)。
しかしちからの制御ができておらず、一日に数回も『雷剣』を放てば、彼女とクラムはたちまち消耗しきって行動不能になってしまうようになっていた。
そこで俺はふと、以前カレドラルでレゼルたちに教わったことを思いだした。
あれはテーベで初めて、レゼルがもつ風の双剣リーゼリオンの戦いを目のあたりにしたあとのこと。
――神剣には意思のようなものがあり、使用するに値しない者には逆に牙を剥くことすらあるという――
シュフェルは極めて才能にあふれた龍騎士であるが、それでも使用するに値しないというのだから、とんだ気分屋の剣である。
「シュフェルに神剣の使い手としての資格がないとはとうてい思えません。
先の主と比べてしまっているのでしょうか……」
「つまり、死んだオラウゼクスに忠義立てをしてるってことか?
まるで飼い主を亡くした忠犬みたいだな……」
「そんなんどォすりゃいいってんたががががが」」」」」
シュフェルは急に頭がおかしくなってしまったわけではない。
また暴れだそうとしているヴァリクラッドを押さえつけようとして、ガタガタ揺さぶられているのだ。
「オラウゼクスを超える龍騎士になるよりほかない、ということなのでしょうね……。恐らく」
「ああ。シュフェルにとっては過酷だろうが……。がんばってもらうしかないな」
――なにせ、敵の本拠地はもう目と鼻の先なのだから。
俺たちは、遠くの空を見あげた。
俺たちが見あげた先には、空に浮かぶひときわ巨大な島。
神聖軍事帝国ヴァレングライヒの本島が聳えていた。
『司法の国』ルペリオントでのエピソードなど、省略してきた島々に関してはいずれ追加エピソードとして書くかもしれません。
次回投稿は2023/8/10の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




