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第152話 空へと返す想い

 ここから先は、俺たちがヴュスターデでの戦いを終えたあとの話をしていこう。


 レゼルやシュフェル、部隊長たちは死闘を終えて長い眠りについていたが、傷が癒えるとともに目を覚ましていった。

 そして、国全体をまきこんでの戦いの舞台となったエミントスとシャレイドラも、徐々に本来の姿をとり戻していくようであった。



 騎士団とエミントスの合同軍が勝利し、ヴュスターデが帝国の支配から解放されてすぐ。

 ルナクスとミカエリスは結婚することを表明した(!)。


 十年ものあいだ離ればなれになりながら想いを通わせあったのだ。

 やっとのことで再会した勢いも手伝って、ふたりの決断に迷いはなかったらしい。


 お似合いのふたりの慶事(けいじ)と、帝国からの独立の喜びも相まって、国は一気にお祭りの雰囲気となった。

 エミントスとシャレイドラ、双方の街を人々が行きかうようになり、連日連夜(うたげ)が催されている状況である。


 これからは異なる発展をとげた互いの文化を尊重しつつも、交流を深めてさらに都市が発展していくことだろう。

 

 政治体制の面では、マチルダがヴュスターデの正当な女王としてかえり咲いた。

 今ではもう、彼女のことを『貧国の女王』などと揶揄(やゆ)する者はいない。


 さらに、ルナクスがエミントス側の代表、ミカエリスがシャレイドラ側の代表としてマチルダの脇を固める感じだ。

 ルナクスとミカエリスの婚姻を機に、今後は本家と分家の区分けもなくしていきたいとのことだった。


「女王レゼル。

 あなたがたは自身の危険を顧みず、我がことのようにこの国のために戦ってくれました。

 国家として、今後のあなたたちへの協力を、私たちが惜しむことはありません」


『太陽の楼宮』の王の間で。

 ルナクスやミカエリスも同席のもと、マチルダはそう言った。

 彼女も賢王クルクロイと同様、カレドラルと同盟を組むことを承諾してくれることとなったのだ。


 (ちなみに『月の楼宮』は現在修復作業中である。

 あまりに手ひどく破壊されてしまったため、一から建てなおしなほどに時間と費用がかかる見込みとのこと。

 レゼルは俺が以前幹部衆の前でやってみせたときのように地に(ひたい)をこすりつけて謝りたおし、周囲が慌ててとめに入るほどであった)



 王の間で今後の同盟の規約に関しての話を済ませたのち、俺や幹部衆はルナクスとともに部屋をでた。

 戦後は慌ただしくてなかなかゆっくり話すことができなかったのだが、そこでようやく、俺たちは彼に話しかける機会を得た。


「ルナクス、その腕は……」


 俺は、肘から先が欠損しているルナクスの左腕を見つめた。

 腕の先端には包帯が巻かれて棒のようになっており、痛ましい。

 断面が神具によって傷つけられたものであるためか、エルマさんの『治癒の波動(コンソリオンデュ)』をもってしても、切断された腕の先をつなげることはできなかったそうだ。


 しかし、ルナクスはふるふると首を横に振った。

 悲しみや後悔など微塵(みじん)も感じさせない、清々しい表情で。


「僕は大丈夫だ。

 右手で剣はにぎれるし、僕にはこの『盾』と『刃』がある。

 これからも、この国を守るために戦うことはできる」


 彼はふよふよと自分のまわりを浮かんでいる『満月の盾』に、残った右手をかざした。


 ……今の彼は、これまでのルナクスとは違う。

 国を守るという大きな使命をひとりで背負い、その不安と重圧が、彼を常に自信なさげに見せていた。

 だが、帝国の支配から解放され、最愛の人と結ばれ、今の彼は自信と活力に満ちている。


 ルナクスはレゼルのほうを振りむき、話を続けた。


「カレドラル国女王レゼル。

 あなたたちのこの度の協力に、心から感謝する。

 おかげで僕たちヴュスターデ王家は、やっと祖国を取りもどすことができた。

 今はまだ、バラバラになったふたつの都市を再統合するのに時間が必要だ。

 しかし、国家の態勢が整い次第、必ずやあなたたちの戦いに駆けつけよう」

「……ええ、頼りにしています」


 レゼルはほほえみ、彼の言葉にうなずいた。

 ……が、そこで清々しかったルナクスの表情に陰りがさした。


「でもな、僕なんかが駆けつけても大してなんの役にも立たないだろうだしな。

 そもそも僕ひとりでこの国を守っていけるかどうか自体が怪しいし。ていうか、やっぱ片腕ないのって戦いにおいてものすごく不利だよね? 体幹の均衡(バランス)だって崩れるだろうしぶつぶつぶつ……」

「え!? 最後のほうなんて!?」


 ぶつぶつつぶやくのはあんま変わってねーのかよ!


 ……どうやら彼の少し(?)暗め(ダウナー)な性格は生来のもので、地の性格はそうそう変えられないものらしい。


 だが、有能な人間ほど得てして自己評価が低いものなのだという。


 大丈夫、俺たちはみんな知っている。

 ルナクスがじつに有能な男で、彼にこの国の守りを任せておけば、なんの心配もいらないのだということを。


「だいたいさ、国家防衛の全権をにぎらせるって、僕を選んだ人の気が知れないよ。あ、それって母上か。つまり僕の責任じゃなくて選んだ人の責任、つまり母上の責任っていうかぶつぶつぶつうんぬんかんぬん……」


 って、まだつぶやいてたんか~い!! 


 周囲の心配をよそにぶつぶつつぶやきつづける彼を、俺たちは苦笑いで見守った。



 ミカエリスはシャレイドラの代表となって以来、初めて民衆の前で姿を見せることとなった。

 連日のお祭り騒ぎですっかり浮かれている民衆が彼女を見たら、いまだかつてない盛りあがりを見せることは想像に難くない。


 案の定、シャレイドラの広間に彼女が姿を現したときの騒ぎはとてつもないものだった。


 エミントスからも彼女をひと目見たいと集まった人々で街はひしめきあい、歓声の大きさに気圧(けお)されそうになる。

 歓声が大きすぎて隣の人と話すことにも苦労するし、なかには喜びのあまり彼女の姿を見ただけで失神する人までいる始末。


 ……だが、今くらい国民が喜びに浸ってもいいだろう。

 マレローは亡くなってしまったものの、コトハリの陰謀は(あば)かれ、ヴュスターデは真の意味での平和を勝ちとったのだから。



 例によって司会が紹介を済ませ、ミカエリスが歌を歌う準備を整える。

 言葉で伝えるのは苦手なので、歌で平和の意思を表明するというのは、なんとも彼女らしい。


 彼女の温かみのある柑子色(こうじいろ)の髪が陽の光を浴び、よりいっそう輝く。

 ……そして、彼女は歌いはじめた。

 ヴュスターデの……いや、世界の平和を願う歌。


 その歌声がすばらしかったことは言うまでもない。

 もともと文句のつけようがなかった彼女の歌声だが、以前のような悲しみはもう感じられない。

 それどころか、ますます人々の心に訴えかけ、沁みわたるちからが備わったように思える。


 悲しみを乗りこえ、自身の存在を認められるようになった彼女の歌声のすばらしさは今までの比ではない。

 歌声は空気を震わせ、人々の心を震わせ、どこまでもこの広い空を伝わっていく。


 ブラウジをはじめとして、騎士団員たちもその多くが彼女の歌声を聞き、涙した。


 ……ちなみに、ブラウジがひそかにミカエリスから署名(サイン)をもらっていたのは内緒の話だ。

姫様(レゼル)への忠誠とは別腹」とのことで、白金(プラチナ)の盾の裏にインクを使って、こっそりと。



 ――人はなぜ歌うのだろうか。

 人はなぜ歌を聞き、心を動かされるのだろうか。


 きっと、人には皆それぞれの楽しみや喜び、悲しみや苦しみがあって、それらの感情を表現して解きはなたずにはいられないのだ。

 そして同じ人間どうしだからこそ、解きはなたれた感情に自らの生きざまを重ねあわせ、心をうち震わせる。



 ミカエリスは高らかに歌いながら、心のなかで空に向かって語りかけた。


 ――天国の父上へ。

 この声は届いていますか?


 あなたは運命に振りまわされながらも、いつも私のことを想って決断しつづけてくれました。

 だから今、ヴュスターデではこれだけの人々が生きのこり、笑顔でこの瞬間を迎えています。

 ……今はただただ、あなたがいなくて寂しい。


 でも、あなたが私を愛してくれたから。

 自分のことを認めていいと言ってくれたから。

 私は前を向いて生きていきます。


 輝く太陽の光に照らされて、この想いを空へと返すよ。

 ……そしてこの想いが、空を伝って人びとを幸せにしてくれますように。




 第三部エピローグはもう少し続きます。


 さて、ここで第三部戦闘勝利記念!

 オラウゼクスの戦闘方法を考える際に、100個アイデアを考えてから書きだしています。

 しかしとりあえず数をひねりだしたため、なかには珍アイデアと言えるものも……。

 そのなかから面白いと思いつつも、残念ながら不採用になったものをいくつか紹介いたします。


①極大の電気を剣にまとわせて破壊力アップ

 →いわゆる『ギガスラッシュ』というやつですね。


②空から雷神を召喚する

 →みんなの憧れ、召喚魔法。

 オラウゼクスには自分で戦ってもらいたかったので却下。


③電磁波の嵐を巻きおこす

 →いわゆる電磁パルスというやつです。電子機器を使用不能にしたりしてね。

 電子機器を使う世界観ではなかったので、ボツです!


④鋼鉄の鞭を相手に絡ませ、その鞭を伝わせて通電する

 →個人的にはこういうの好きですが、剣以外使ってほしくなかったので、ボツです!


⑤自身の足場を磁力で飛ばし、予測外の動きをする

 →最終的には、シュフェルの(というかクラムの)足場を飛ばして体勢を崩すかたちで採用と相成りました。


⑥磁力で筋肉のコリをほぐし、体力を回復する

 →健康によさそうですが、緊張感にかけるのでボツです!


⑦電気でマイクロ波を発生させ、ものを温める

 →電子レンジみたいですね。

 ちなみにマイクロ波は、れっきとした電磁波の一種です。


⑧電気で相手の神経系を操作し、幻影を見せる/記憶を操作する/肉体を操作する

 →発想としては面白いですが、使いどころがなかった……。

 派生で『電気で自身の脳神経を操作し、思考回路を速くする』なんてものも。


⑨雷のウサギを跳ねさせて攻撃(?)

 →メモによれば『その複雑な動きを予測することは困難で、回避は不可能』とのこと。

 アイディアがでなくて苦しんでいた様子がうかがえます。


⑩電気が通りにくいものにあえて通電することによって発生した熱で攻撃

 いっそ通電して燃えた炎の剣で炎攻撃

 →電熱線の原理ですね。電気抵抗が大きいものに電気を通すと、発熱します。

 雷属性で、戦いましょう!


 ……少しはお楽しみいただけましたでしょうか?

 ちなみにコトハリの戦闘方法はキメ打ちで決めましたので、100個考えてません。スンマセン(・c_・)


 次回投稿は2023/7/22の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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