第151話 大地の神の膝もとで
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「「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」」
レゼルとエウロ、シュフェルとクラム、オラウゼクスと雷龍は皆、身を寄りそいあわせるようにして一箇所に集まっていた。
まわりの壁や天井がくずれ、露わになっている彼女たちの姿を、月明かりが照らしだしている。
……残っているのは、彼女たちを抱えるように見おろす大地の龍神像のみ。
ここは女王の間があったところなのだろう。
雷竜はすでにちからの衝突の余波を受けて絶命していた。
エウロとクラムも気を失っている。
レゼルとシュフェルは剣をにぎりしめたまま、肩で息をしていた。
オラウゼクスは自身のからだを見おろした。
右腕は肩からもげて消滅し、胴体には三本の剣が突き立てられていた。
「……そうか、私は負けたのか」
彼はそう言うと、次はレゼルたちの顔を見つめた。
「小娘たちよ、よくぞやったな。
貴様らの勝ちだ」
「そんなっ、……ことっ……、言ってる場合じゃっ……!」
レゼルが返答しようとしたが、息があがって言葉にならない。
オラウゼクスの傷は肉が焼け、血があふれつづけており、死に至るのは時間の問題だった。
だが、彼に死を恐れる様子はまったくない。
「……私に勝ったほうびだ。
冥土の土産に教えてやる。
――帝国皇帝の正体は『闇の龍神』だ」
「!?」
レゼルたちは驚き、瞠目した。
邪龍信仰は闇の龍神の復活を願うもの。
しかし、彼の言うことを信じるならば闇の龍神はすでに復活していたということになる。
しかも、龍神自身が邪龍信仰の本拠地である帝国を統べていると言うのか……?
だが、レゼルはむしろ納得できるとも考えていた。
突如として出現した帝国皇帝が、父ですら手も足もでなかったほどの強者であった理由。
それは、皇帝が神に属する存在であったからとしか考えられなかったからだ。
「……いくら私でも龍神が相手では赤子同然だ。
龍神がなぜ人に扮しているのかまでは知らんし、興味もない。
……だが、この事実は帝国内でも五帝将しか知らぬこと。公にすることは勧められんな」
オラウゼクスの言うとおりだった。
闇の龍神が復活していることが知られれば、レヴェリア全土が混乱の極致におちいることだろう。
闇の龍神は現世に終焉をもたらし、新たな世界を創生する存在であると考えられていたからだ。
翼竜騎士団にも、戦意を喪失してしまう者が数多くいても不思議ではない。
オラウゼクスは口から血を吐き、話を続けた。彼に残された時間はいよいよわずかだ。
「……それから、シュフェルとやら。
貴様にはこの剣をやろう。
だが、こいつはなかなかの気分屋だ。
使いこなせるかどうかは貴様次第だな」
そう言って彼は残された左手で、シュフェルにヴァリクラッドを手渡した。
シュフェルがヴァリクラッドを手にした瞬間、その刀身は光りかがやき、彼女のからだの大きさに合うようにかたちを変えた。
「アンタ、これは……」
「オラウゼクス、どうしてここまで……。
私たちは、あなたを殺した相手なのですよ……?」
オラウゼクスは敵であったにも関わらず、レゼルたちに『和奏』の技術を教えた。
帝国皇帝の正体を教え、雷の神剣までをも手渡した。
オラウゼクスは目をつむった。
彼の脳裏に、今まで歩んできた日々が蘇る。
強くなりすぎてしまったがために孤独で退屈な日々。
帝国皇帝、つまり闇の龍神の庇護があるためにシュバイツァーと戦うことができなかったことが唯一の心残りではあったが……。
彼は死の間際に、笑っていた。
「よい。
最期になかなか楽しい時を過ごすことができた。久々に生きている心地がしたぞ。
……感謝する」
オラウゼクスはそう言いのこし、息を引きとった。
だが、レゼルたちも激闘のすえに、すべてのちからを使い果たしていた。
「……私たちのほうこそ、感謝します」
最後にレゼルがそう言うと、彼女たちは彼に身を預けたまま、深い深い眠りへと落ちていった。
月に照らされ、戦いを終えた少女たちは眠る。大地の龍神像の、膝もとで。
第三部バトル、決着です!
読者の皆さま、長らくお疲れさまでした。次回からは第三部エピローグです。
次回投稿は2023/7/18の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




