第149話 今までとは違う僕
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絶対無敵の『万射の鏡』を破壊され、コトハリは怒りにうち震えていた。
しかしそんなコトハリへと、さらに迫っていく者がいた。
「まだ終わりじゃないぞ、コトハリ!!
僕が相手だ!!」
そう叫び、今度はルナクスと龍が踊りかかった!
「……次から次へと蛆虫のごとく沸いてきやがって……!
私は今怒っているのだ。
気安く我が名を呼ぶんじゃない!!」
コトハリは六個の『追跡球』を、ルナクスへ向けて放った!
『運命の秤』を破壊されて『反跳球』の支配は失われているが、標的となる敵の数も着実に減っている。
コトハリは、残ったルナクスとガレルによりいっそう苛烈な攻撃を集中させることができるようになっていた。
ルナクスは『三日月の刃』を光球の相殺には使わず、『満月の盾』で光球を防御した。
四個の光球は『満月の盾』に吸収されたが、二個は回避することができなかった。
左腕の籠手が砕け、もう一個の光球は右脇を掠めた。
「かはっ……!」
ルナクスは口から血を吐きながらも、ひるむことなく前進している。
彼の表情に浮かぶのは、決死の覚悟。
――サキナ、ティラン、アレスが傷つき倒れながらもがんばってくれた。
これは本来、僕の戦いだ。
僕が誰よりもがんばらなくて、どうするんだ!!
いっぽう、コトハリは冷静に自身に襲いかかるルナクスを観察していた。
――コイツ、『三日月の刃』を温存しやがった。
至近距離で放つつもりだな……!
コトハリはさらに追加の光球を撃ちはなちながら、ルナクスの考えを探っていた。
『万射の鏡』を破壊された今、コトハリは『三日月の刃』を防御する手段はない。
だが、『射出点』である『満月の盾』に注意を向けていれば、回避することは可能!
それだけの動態視力と身のこなしを、コトハリは兼ねそなえていた。
……しかしルナクスは、コトハリの注意が『満月の盾』に向けられた瞬間を見逃さなかった。
「今だ!」
「!!」
ルナクスはコトハリの目の前まで接近して、突如上体を低く屈めた。
上体の動きに伴い、『満月の盾』の位置も低くさげる。
事前に自分の背後に向けて放っていた『三日月の刃』が、ルナクスの頭上を掠めてコトハリへと襲いかかる!
敵の目前で射出するのではなく、自身の身を目隠しとして飛ばしておく。
『満月の盾』に納まろうと追いかけてきていた『三日月の刃』が、『盾』があった位置を通りすぎ、前方のコトハリへと斬りかかるように飛んでいったのだ。
「ぐぬっ……!!」
『射出点』に注意を向けていたコトハリの反応が遅れる。
ルナクスの背後で死角となり、『三日月の刃』の軌跡も隠されていた。
……しかし、それでもコトハリの驚異的な反射神経は身体を反応させていた!
コトハリは上体を大きく反らし、『三日月の刃』を回避する。
刃は彼の首筋を掠めながらも、致命傷を与えることなく飛びさっていく。
――かわされた……!
ルナクスは自身の攻撃が失敗に終わったことを悟り、愕然とした。
「貴様ァ!!」
コトハリは曲刀をルナクスへと振りおろした!
もっとも警戒すべき『三日月の刃』はすでに飛びさっていった。
刃が戻ってくるまでのあいだ、ルナクスが持つ神具は『満月の盾』のみ。
たとえこのひと太刀が防がれたとしても、光球でとどめを刺せる!
「これでお終いだ!」
『肆』!!!!
ルナクスは、自身へと振りおろされた曲刀を見つめていた。
……諦観の境地。
まるで時がとまったように感じられ、彼は冷静にその刀身を観察していた。
四本に分身した冷たく青白い刀身が、無情に自身の顔を映しだしていた。
憎々しいことに、このコトハリという残酷な男は自分よりも強い。
それは認めたくないが、覆しようのない事実だ。
……だが、今までとは違う。
今まではずっとひとりでこの男に挑んできた。
自分が倒れたらお終いで、絶対に死ぬわけにはいかなかった。
そのことが、もともと自信のない自分を、さらに不安にさせていた。
でも今なら、自分が倒れてもまだ戦ってくれる仲間がいる。
――今までの僕じゃない僕を、今ここで見せてやる!!
「お終いなのはお前のほうだ! コトハリ!!」
ルナクスは『満月の盾』を使わずに、逆にコトハリのほうへと向かっていった!
曲刀はかろうじてかわしたが、左腕の肘から先を切断され、乗っていた龍の翼も叩き斬られてしまった。
乗っていた龍が飛翔力を失い、落下を始めていくが、ルナクスは龍の背中から跳びたった。
そして――。
「これでどうだぁ!!」
ルナクスは自身の周囲を浮遊していた『満月の盾』をつかみ取り、『残響の光珠』へと思いきり叩きつけた!
『満月の盾』は無形のちからを吸収する盾。
『残響の光珠』が盾に吸収され、消滅していく――!
――自身への防御を捨てて、光珠をかき消しただと……!?
空間を跳ねまわっていた三十六個分の光球が、風に吹かれたろうそくの火のようにかき消えた。
……これでコトハリに残る神具は、『曲刀』のみ。
ルナクスは左腕から血を流しながら、落下していく。
空中で、戻ってきた『三日月の刃』が『満月の盾』に納まった。
ティランが乗っていた龍が飛翔し、床に激突する直前のルナクスを受けとめる。
空間を跳ねまわる光球が消え、龍が自由に飛びまわれるようになったのだ。
ルナクスは出血する左腕を押さえながら、ティランの龍に指示を出した。
「……まだだ!
コトハリのもとへ向かってくれ!!」
ルナクスは再び、コトハリへと目がけて舞いあがっていった――。
今回の場面は次回に続きます!
次回投稿は2023/7/10の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




