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第140話 数奇な運命

 エミントスとシャレイドラをまたにかけた市街戦。

 俺とネイジュは、エミントスの上空から指示を出しつづけていた。


 エミントスと騎士団の合同軍は圧倒的な兵力差をくつがえしつつあり、五分五分以上の戦いを見せている。

 コトハリが太陽の楼宮の内部へと撤退し、『運命の操作』が行われなくなった影響も大きい。


 接戦であることに変わりはないが、この調子で戦いつづければ勝つのはこちら側だろう。

 戦っている兵士たちも勝機が見えつつあることを手応えとして感じているのか、その表情には余裕が見えはじめている。


 俺は自分の役目を果たしつつあることに、安堵(あんど)のため息をついた。

 緊張で肩腰が(こわ)ばっていたことに、そこでようやく気付く。


「……やったな、ネイジュ。

 お前のおかげだよ、ありがとう」

「はい、主様(ぬしさま)♡」


 ネイジュもうれしそうに、ほほえんでいる。

 よほどうれしかったのか、彼女は頬を赤く染め、氷の瞳をうるませていた。


 しかし、ほっとひと息ついたのも束の間。


「「!?」」


 突如として耳をつんざく轟音、あたりを包む目がくらむほどの稲光(いなびかり)、そして空中を伝わる衝撃に激しくからだを揺さぶられる!


 レゼルたちの戦いの余波で近づくことすらできなかった『月の楼宮』。

 その楼宮の最上階付近が、凄まじいほどの爆発……いや、放電現象で吹きとび、色とりどりの光の軌跡が舞いちっていった。


 ――この技は……オラウゼクスが最初に騎士団を襲撃したときに見せた技!?


 俺が驚きで固まっていると、隣で気配を探っていたネイジュが異変に気づく。


 先ほどまで頬を赤く染めていた、彼女の雪のように白い顔。

 今は月明りの下でもわかるほどに青ざめていた。


「主様……! レゼ殿の気配が……!」

「!!」


 俺はそのネイジュの言葉を聞いたとき、反射的に動いてしまっていた。


 ――とにかく、レゼルのもとへ。

 現場の状況がどうなっているか、自分になにができるのかなど、考えもせずに。


「主様、駄目っ!!」


 後ろでネイジュがとめる声が聞こえたが、俺にはその場に留まっていることなど、できやしなかった。



 コトハリは数多(あまた)の光球を操り、ルナクスたちを追いつめつづけていた。


 彼にはじゅうぶんな余裕があり、空中庭園の格子の隙間から、市街戦の様子をうかがい見た。

 どうやら、想定していた以上にシャレイドラ軍は苦戦を強いられているようである。


 ――少し遊びすぎたか。

 そろそろ戻って()()したほうがよさそうだな。


「……さぁ、残念だがお遊びはここまでだ。

 おひらきとしよう!」

「!?」


 コトハリは『運命の(はかり)』による確率の操作によって、光球で自分の周囲に植木を落下させた。

 彼は宙を落下していく植木を剣先で素早く斬りつけて、『(ヒドゥ)』から『(アルバ)』まで一気に刀身の数をひきあげると――


「くははは……。

 この空間の広さなら、()()()でじゅうぶんだな……!」


 空中庭園の空間を跳ねまわっていた光球のうち十二個が消失し、代わりにひとつの巨大な光球がコトハリの頭上に浮かびあがる。


「おいおい、なんだよありゃあ……!!」


 ガレルはほかの光球をかわしながら、コトハリの頭上に出現した光球へと目を奪われていた。


 質量を感じさせず、周囲を俊敏(しゅんびん)に飛びかう『反跳球(ヤクフィズ)』とはまるでちがう。 

 まったく異次元の脅威が出現していたことを、彼は本能的に感じとっていたのであった。


 赤く、燃えさかるような光球。

 莫大な熱量と、破壊のちからを内包している。

 十二個分の光球をつぎ込まれた『爆裂球(インフィジャ)』の内部には、今にも破裂しそうなほどの熱が満ち満ちていた。


 そしてコトハリは、その光球の真芯(ましん)を『(イグサド)』の刃で斬りつけた!


「この場にいる全員、はじけ飛ぶがいい!!」


爆砕円烈覇(インフィ・ジャセルクライス)』!!


 コトハリを中心としたほぼ全方位に爆炎のいり混じった衝撃波が放たれる!

 その様はまさしく、太陽が爆発して弾けたかのよう!


 ルナクスは迫りくる爆炎を目の前にして、その絶望的な状況を正確に分析することができていた。


 ――攻撃範囲が広すぎて、『満月の盾』でも防ぎきれない。

 全員やられる……!


「うあああぁっ!!」


 焼けつくような熱とともに衝撃と激痛が全身を駆けぬけ、一瞬で意識を奪われる……!

 ルナクスと部隊長たちは乗っている龍もろとも強力な衝撃波で全身を撃ちぬかれ、なすすべなく空中庭園の格子に叩きつけられてしまった!


「ルナクス! みんなっ!!」


 はるか頭上にいたミカエリスは鳥かごのなかで猛烈な爆風に(あお)られながらも、衝撃波の直撃はまぬがれていた。

 彼女は一撃で戦闘不能におちいってしまったルナクスたちを案じ、悲痛な叫びをあげた。



 ……爆炎がおさまったのち、動くのは五帝将『数奇』コトハリと、彼がまたがっている異形(いぎょう)獅子(しし)のみであった。

 彼らは、空中庭園の内部にかけられている架橋のひとつへと降りたった。


 コトハリは倒れたルナクスたちを見おろし、艶美(えんび)な笑みを浮かべる。


「弱者がいくら群がり、必死にあがこうとも、私にひと太刀浴びせることすらなく死んでゆくのだ。

 ……これもまた、数奇(すうき)な運命」




 次回投稿は2023/6/4の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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