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第139話 裁きの雷槌

 レゼルとシュフェルが、捨て身の猛攻をかける。

 自分たちの戦う動機を見つめなおし、彼女たちからは余計な雑念が消えさっていた。

 からだは限界を迎えていても、想いが彼女たちをつき動かす!


「はああああぁっ!!」

「いっけええぇっ!!」」


 そんな彼女たちの変化を、剣を介してオラウゼクスも感じとっていた。


 ――ここにきて、動きの鋭さを増しただと……!?


 ……わずかな、ほんのわずかな差。

 だがしかし、レゼルたちの剣の切っ先は、確実にオラウゼクスのからだへと届くようになっていた。


 ――この娘たちはとうに限界を超えているというのに、若くしてなんと凄まじき精神力。

 そして、戦いのなかで私の剣を学びとり、強くなっている。

 さらに……!


竜巻(トルナジア)』!!


放雷(エクディサージ)』!!


突風(ブラシア)』!!


雷剣(エクレスペル)』!!


 レゼルとシュフェルは相互に支援しあうことによって『和奏』を実現しているが、その受けわたしがより早く、鋭くなっている。

 恐らく、極限の戦いのなかで経験を積むことによって習熟度が急速に高まり、ふたりの連携がより強固なものとなっているのだ。

 あまりに受けわたしが早く、ふたり同時に技を発動している瞬間があるのではないかと見紛(みまご)うほどに……!


 ――思っていたとおり……いや、期待以上だ。

 やはり、貴様らはこの私にふさわしい相手であった。


 オラウゼクスはレゼルたちに心からの称賛と敬意を表していた。

 しかし、同時にその胸中に宿るのは惜別(せきべつ)の念。


 ……じつに残念極まりない。

 こんな愉快なときにも、いつかは終わりがきてしまうのだから。


「ふんっ!!」

「ぐっ!!」


 オラウゼクスは渾身(こんしん)のちからで()ぎはらい、剣で受けとめたシュフェルとクラムを壁の端付近まで吹きとばした。

 そして、単身となったレゼルへと襲いかかる!


 シュフェルは体勢を崩しながらも、レゼルへの『和奏』の支援を断ちはしなかった。


 レゼルは身構え、風の自然素で防御を図った。

 オラウゼクスの攻撃をしのぎ、攻撃後の隙をねらって反撃するつもりだった。


 しかし、オラウゼクスが起こしたのは彼女のまったく予想外の行動。


 『バチンッ!』


 ――彼が発生させたのは天地を揺るがすような雷の技などではなかった。

 彼が剣先をわずかに動かして発生させたのは、ほんの小さな火花放電をふたつ。


 技の出力が小さく鋭いぶん、風で阻止することはできない。

 だが、レゼルの耳元で発生した火花放電は鋭い破裂音を発し、彼女の聴覚を麻痺(まひ)させてしまっていた。


「なっ……!?」


 レゼルは瞬間的にめまいを起こし、からだがぐらつくのを感じた。


 ――人間は、視覚情報だけでバランスを取っているのではない。

 無意識に聴覚からの支え(フィードバック)を得て、からだの均衡を保っているのだ。

 まして、超人的なバランス能力が要求される龍騎士どうしの戦いにおいては、一瞬の聴覚麻痺が命取りとなる。


 オラウゼクスはレゼルに生じた隙をねらって共鳴した。


 しかし、シュフェルがクラムを走らせ、駆けつける。

 オラウゼクスの闘気で揺れる床の上を、クラムはたしかな足取りで駆けぬけていた。


「姉サマーっ!」


 オラウゼクスは再度剣先をわずかに動かした。

 強力な磁力を発生させ、走っているクラムが後ろ足を乗せていた床のブロックを浮上させる!


 鉱物資源が豊富なヴュスターデの土壌(どじょう)は多くの金属元素を含んでおり、それはエミントスの建築素材として使用されている『月光石』も例外ではなかった。


「うわぁっ」


 姉の身を案じたシュフェルは足元への注意が(おろそ)かになっていた。

 足元が急浮上したことで、クラムとともに体勢を崩してしまう!


 ……圧倒的なちからをもちながらにして、最小限のちからで敵を崩す。

 まさしくオラウゼクスは、武人としての極致(きょくち)に到達していた。


 姉妹がふたりとも行動不能におちいった瞬間に、オラウゼクスは共鳴を深めた。

 遠大な空間を超えて届いたかのような、深みと広がりを感じさせる共鳴音――。


 レゼルとシュフェルは体勢を崩されたまま、オラウゼクスのちからの発動を見届けることしかできなかった。


 ――まずいっ……!


 ――()られる……ッ!!


「小娘どもよ。

 貴様らは想像以上に成長した。

 見事な戦いぶりであったぞ」


 オラウゼクスのからだから発生した最大量の雷電が、ヴァリクラッドの刀身に集中している。

 そして、オラウゼクスはその剣を姉妹のあいだに振りおろした。


裁きの雷槌(トレ・エクタゼオン)』!!


 雷をも超える極電圧が、レゼルとシュフェルを撃ちぬいた。

 彼女たちのからだを、とてつもないほどの量の雷電が駆けめぐり、雷の奔流(ほんりゅう)に飲みこまれていく!!


 あまりの電圧のため周囲の空間にも電離した空気(プラズマ)を発生させ、数多(あまた)の光の軌跡が虹色に輝き、飛散していく。


 ――『裁きの雷槌』。

 この技の本質は、オラウゼクスの最大出力である超極電圧を、一瞬で解きはなつことにある。


 オラウゼクスの技は周囲一帯を灰燼(かいじん)に帰した。

 ……レゼルとシュフェルや、その龍たちのからだが、原型を留めていること自体が奇跡だった。

 オラウゼクスが発動した龍の御技(みわざ)の破壊力に、彼女たちはなすすべもなく倒れてしまったのであった。




 次回投稿は2023/5/31の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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