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第137話 強さの頂

 レゼルとシュフェル、オラウゼクスとの激闘がつづいている。

 すべての一撃一撃が相手の命を奪う必殺の剣であり、片時たりとも気を抜くことはできない。


 刹那(せつな)で交わされる命のやり取り。

 四本の刀身が交わるたびに天地が揺らぎ、命を震わせた。

 楼宮の壁や天井はもはや境界としての意味をなしておらず、レゼルとシュフェルは再び上層の階へ、上層の階へと少しずつ押しやられていっていた。


紫電輪舞(エクテヴィオ・リライゲン)』!!


 オラウゼクスを中心として、巨大な四つの紫電(しでん)の塊が周回を始める!

 生身の人体であれば、それに触れただけでからだが消滅してしまうほど強力な(いかずち)の塊。

 それはオラウゼクスの盾であると同時に、強烈な武器でもあった。


 生半可な攻撃であれば紫電の塊をぶつけられて防がれてしまうし、レゼルたちが攻撃する際には紫電をかわして接近していかなければならない。

 ただでさえ異常な戦闘力の高さを誇るオラウゼクスと斬りむすぶのは至難(しなん)(わざ)であるというのに、周回する紫電の塊は彼女たちの数の優位をも完全にうち消していた!


「ぬうぅんっ!!」

「ぐっ……!!」


 レゼルはオラウゼクスの上段からの一撃を、双剣を交差させて受けとめる。

 風の支援で剣を支え、エウロも四本の足を踏んばり、大きく後退しながらも必死に(こら)えきる!


 レゼルたちが後退しながら壁を突きやぶって突っこんだ部屋は、彼女が客室として借りている部屋。

 部屋の内部には猛風が吹きあれ、幾筋(いくすじ)もの稲妻が床と天井のあいだを行き来している。


 ―― 一瞬。


 彼女が置いていたかばんがはじけ飛び、なかに入っていた荷物が空中に散乱する。

 彼女が編んでいた二本の『合わせ星の砂』の首飾りも、空中をほとばしる雷電に貫かれて粉々に砕けていた。


 レゼルの(たぐい)まれなる動体視力は視界の片隅(かたずみ)にそれを捉えていたが、今は余計なことを考えている(いとま)などない。

 追撃しようと迫りくるオラウゼクスに、すべての神経をそそぎ込む!


「はああああぁっ!」


 レゼルは押しせまるオラウゼクスに一歩も引くまいと、自身も斬りかかった。

 その攻撃はなんなく受けとめられてしまうも、再び彼女とエウロは乱戦へと身を投じていく。


 上へ、上へ……!

 三人の龍騎士たちは斬り結びながら場所を変えていき、そしてとうとう、レゼルたちは屋上のひとつ下の階層まで押しやられていた。


 そこまで到達したところで、ようやくオラウゼクスは剣を振るうことをやめた。

 天井に開いた大穴から月の光がさし込み、ヴァリクラッドの雷電がほとばしる刀身を照らしだす。


「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ……!」


 レゼルとエウロも、シュフェルとクラムも、息をきらして立っているのがやっとというありさまだ。

 からだは切り傷と雷撃傷(でんげきしょう)でぼろぼろになっている。


 いっぽう、オラウゼクスと雷龍は多少の傷はつけられているものの、深手はいっさい負っていない。余力もたっぷりと残している。


 オラウゼクスはレゼルたちに語りかけた。


「……もうお(しま)いか?

 ここまでの戦いぶりはなかなかだった。

 だが、お前たちはこれ以上、私を楽しませてはくれないのか?」


 オラウゼクスの問いかけに、まずシュフェルが噛みついた。

 彼女は息も絶え絶えになりながらも、懸命に吠える。


「……こっちはなァ、アンタの楽しみのためにやってんじゃねェんだよ!

 少しは息でも切らしやがれってんだ、くそッ!」


 レゼルもまた、肩で息をしながら、オラウゼクスに問いかえした。


「……あなたの剣からは、敵意や憎しみを感じられません。

 あなたはいったい何のために戦っているのですか?

 ほんとうに楽しみのためだけに戦っているのですか?」


 レゼルからの問いかけに、オラウゼクスは笑った。


「そのとおり。

 私はただ、強き者と剣を交えることに喜びを見いだして戦いに身を投じている。

 それが唯一にして絶対の理由。

 帝国皇帝やほかの五帝将が何をやろうとしていようが私には興味も関係もない。

 ……だが、私にも目標はある」

「目標……?」


 レゼルは、オラウゼクスの言葉を繰りかえした。


「『強さの真の(いただき)』を見ること。

 私はその頂からの眺めを見てみたいのだ」

「強さの、頂……」

「私はいつか帝国皇帝をも乗りこえ、頂に到達してみせる。

 だが、今より強くなるためには敵が必要だ。

 それが、私が強き者を求める理由なのだ」

「それが……あなたの戦う理由なのですね……!」


 レゼルはオラウゼクスの言葉を嚙みしめた。


 ――たしかに、強さへの渇望(かつぼう)、戦いの喜び。

 純粋な欲求のほうが、人間とは強くなれるものなのかもしれない。

 義務感から戦いに駆られている自分にとって、戦う理由は時として雑念を呼びこむ要因にもなりかねない。

 しかし――。


「戦う理由は個人の自由です。

 あなたの動機を否定する気もありません。

 事実、あなたはその欲求を(かて)にして超越者(ちょうえつしゃ)と言っていいほどまでのちからを身につけてきた……!」


 これまで幾度となく、死線に向かっていった。

 だが傷つき倒れながらも、何度でも立ちあがり、目の前の壁を乗り越えてきたのだ。

 それは、なんのためだったというのか。


「でも、私とシュフェルの剣には、龍御加護(たつみかご)の民の命が……。

 いいえ、帝国の支配に置かれて苦しんでいる、すべての人々の命運がかかっているんです!」


 今まで自分が(くじ)けずに戦ってこれたのは、この手で(まも)りたいものがあったからではないか……!


「私たちは負けられない。

 あなたには絶対負けられない!!

 かけがえのない護るべき者たちのために!

 あなたの『強さ』を、私たちはうち砕きます!」

「戦いはアタシも好きだけどさァ。

 それだけじゃねェんだよ、こっちは!!」


 気を抜くと、疲労で意識が飛んでしまいそうになる。

 全身も痛みで(さいな)まれ、今すぐにでもエルマのところに飛んでいって、ベッドに倒れこみたい。

 それでもレゼルとシュフェルは、ぼろぼろになったからだに闘志を燃やしつづけた。


 そんな彼女たちの姿を見て、オラウゼクスは喜びいさんだ。


「そうだ、かかってこい!

 どちらかの命が、あるいは互いの命が尽きはてるまで!

 戦いぬくのだ、小娘どもよ!」


 レゼルとシュフェルは、再び風と雷をまとい、オラウゼクスに挑みかかる。

 その小さなからだにはあまりに重すぎる宿命を背負い、命を(きら)めかせて!




〇レヴェリア豆知識


 神剣であるリーゼリオンやヴァリクラッドはともかくとして、

 シュフェルがにぎる剣が壊れない理由をご存知でしょうか?


 龍御加護の民独自の技術によって、熱した鋼に龍の鱗の粉末を混ぜて鋳造した剣なので、そもそも並みの剣より強度は高いのですが、

 さらにシュフェルは刀身を自身の自然素でコーティングすることによって、剣の強度・切れ味を格段に強化しているのです。


 後付けじゃないよ!


 次回投稿は2023/5/23の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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