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第135話 極彩色の調べ

「オラウゼクス、覚悟!」

「いっけえええ!!」


 負傷したまま動かなくなったオラウゼクスに対し、一気に決着をつけようと斬りかかるレゼルとシュフェル。


 しかし、彼女たちはまだ知らない。

 すでにその男に、()()が起こっているのだということに。


 ――すばらしいぞ、小娘ども。

 私とまともにやりあえるのはシュバイツァーくらいだが、奴はいつも皇帝のそばにいて手を出せぬ。

 これだけ血が()きたぎるのはいったいいつぶりか……!


「!?」


 レゼルとシュフェルが剣を振りおろした先には、オラウゼクスの姿も、雷龍(らいりゅう)の姿も忽然(こつぜん)と消えていた。

 彼女たちは頭上の気配を察知して見あげると、オラウゼクスと雷龍は一瞬にして上空高く舞いあがっていた。


 ……レゼルとシュフェルですら見失うほどの超反応。

 オラウゼクスは雷龍のからだに電流を流しこみ、筋肉を収縮させることで、自身が乗っている龍にまでをも限界を超えた動きを実現させていた。


 オラウゼクスと雷龍は深遠なる共鳴音をかき鳴らし、極電圧(きょくでんあつ)の雷を身にまとう。

 そしてその雷電のすべてを神剣ヴァリクラッドへと注ぎこみ、突撃しながらレゼルたちへと振りおろした。

 その一撃はまさしく、天まで届く塔を築きあげた人間たちにくだされた、神の怒りのごとく!


撃衝轟雷(バシュツァ・エクテグ)』!!


「「くっ!!」」


 頭上から振りおろされる(いかづち)の刀剣。

 レゼルは双剣を、シュフェルは長剣をふりあげ、三本の刀身で受けとめる。

 だが、とてもではないが受けとめきれず、剣圧に負けて乗っている龍ごと床へと叩きつけられる!


 ――私とシュフェルのふたりがかりで受けとめているというのに……!!


 ――ぜんぜん太刀打ちできねぇ!!


 目をあけていられないほどにまぶしき雷光と、耳をつんざく轟音がヴュスターデの夜空を支配した。


「フハハハ ハ ハ ハ  ハ  ハ  ハ   !   !   !   」


 三騎の龍騎士は剣を交差させたまま屋上の床をぶち抜き、そのまま次々と天井と床を破って、一気に楼宮の最下層まで貫き落ちていく!!

 その様は高層の楼宮の真芯(ましん)に、そのまま巨大な剣を突き刺したかのよう。


 いよいよ楼宮の一階の床、大地に叩きつけられるというところで、レゼルとシュフェルは剣を引いて横に逃げる。

 オラウゼクスはそのまま大地に剣を振りおろし、地面に大穴を開けてしまった。

 ヴュスターデの広大な大地に、激震(げきしん)が走る。


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」


 直撃はなんとかまぬがれたものの、レゼルとシュフェルは一撃を防いだだけで著しく体力を消耗していた。

 どちらかひとりで受けとめていたら、間違いなく死んでいただろう。

 剣を介して、人と龍の領域を超越(ちょうえつ)した、とてつもないちからの片鱗(へんりん)をかいま見た気がした。


 あたりに立ちこめた土煙が徐々に晴れ、ゆらりとオラウゼクスと雷龍は姿を現した。

 その体表にはいまだにすさまじき量の雷電がほとばしっている。


「面白い。面白いぞ、小娘ども……!

 よくぞこの短期間でここまで成長した。

 貴様らこそ、私の戦いの相手にふさわしき者」

「ったく、こっちは面白がってやってんじゃねぇッつーの……!」

「シュフェル、ここからが本番ですよ……!」


 ……小手先の奇策で機先を制することはできても、それで倒せる相手ではないことはじゅうぶん承知していた。

 承知していたはずだった。

 だが、目の前にいる相手は、自分たちの想像をはるかに超えた存在であることを、彼女たちは再認識していた……!


「かかってこないのか?

 心が(はや)って、息つく(いとま)も惜しい。

 構えよ、貴様らがこなければ、またこちらから行くぞ!」


 そう言って、再びオラウゼクスは襲いかかった。

 まずはレゼルのもとへ。

 シュフェルがすかさず支援し、レゼルは『和奏(わそう)』の響きをもってしてエウロと共鳴する。


旋風(トゥルビネ)』!!


 激しい風の奔流(ほんりゅう)が、オラウゼクスの雷電とまともにぶつかりあう。

 衝突が生みだす波紋(はもん)は空気を震わせ、楼宮をも崩してしまいそうになるほど揺さぶっている。


 レゼルは『和奏』で強化された風の刃でオラウゼクスの一撃を迎えうった。

 だが、全力で龍の御業(みわざ)を放ったのに、攻撃を相殺(そうさい)させるのがやっと。


 ――さっきまでとは一撃一撃の重みがぜんぜん違う!

 これが、この人のほんとうの実力……!?


 シュフェルもオラウゼクスの背後から襲いかかり、三人は再び斬り結びはじめた。

 周囲には猛風が吹きあれ、上へ下へと雷が走った。

 深みをもって鳴りひびく『共鳴音』は旋律を奏で、風雷(ふうらい)の轟音は激しく打楽器をうち鳴らしているかのようでもあった。


 ……いよいよ始まる、命のすべてを投げうった死闘。

 至高の域に達した龍騎士たちが剣を交える姿は、熾烈(しれつ)でありながらにして、見る者の心を捉えて離さぬほどに美しいものであった。

 彼と彼女たちのぶつかり合いが生みだす衝撃に、見る者の身が耐えられればの話だが。


 そして、至高の域に達した者たちだけが味わうことができる、剣の刃先に命を乗せる愉悦(ゆえつ)

 その愉悦を、オラウゼクスはかつてないほどに味わい、陶酔(とうすい)しきっていた。


「さぁ、小娘ども! 私と剣を交えて舞い踊ろう。

 ともに極彩色(ごくさいしょく)の調べを奏でようではないか!!」




 次回投稿は2023/5/15の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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