表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/330

第134話 撃破せよ!

 ルナクスと部隊長たちは階段をのぼりきると、ひらけた空間にでた。


「ここは……?」

「『空中庭園』だ。

 僕も小さいころにきて以来だから、なかに入るのは久しぶりだ」



 そこは、空中庭園の内部。

 外から見て楼宮(ろうきゅう)に食いこむ太陽のように見えた球状の構築物。


 枠組みは石材の格子(こうし)緻密(ちみつ)に組まれて構築されており、あいだには架橋(かきょう)や、天井から吊りさげられた足場が張りめぐらされ、床面(ゆかめん)は意外に多い。

 そして格子や架橋には世界中から集められた熱帯の草花や植木が色とりどりに植えて飾られていた。

 こうしてつくりだされた空間は広大であり、龍百匹を詰めこんだとしても余りがあるほど。


 ……そして、空間の中央に吊りさげられた足場に、コトハリはいた。

 彼は異形(いぎょう)獅子(しし)に乗り、はるか頭上からルナクスたちを見おろしていた。


()()()自慢の空中庭園へようこそ。

 ……どうだ? こんな美しい庭園は見たことがないだろう?」

「いつから貴様の国になったって?

 貴様は王位に就くことすらなくそこから引きずりおろされるんだ。

 今ここで、僕たちの手によってな……!」

「くくく、そういきり立つなよ雑魚王子(ざこおうじ)

 せっかくお前らにふさわしい死に場所を用意してやったのだから。

 おまけに、待ちこがれていた姫との対面も実現してやったんだぞ……?」


 そう言って、コトハリは上を指さした。


「!!」


 コトハリがいる位置よりもさらに上、空中庭園の天井付近には鋼鉄製の鳥かごがぶらさげられていた。

 人ひとりが入るほどの大きさの鳥かご。


 ……鳥かごのなかには、ミカエリスが横たわっていた。


 彼女は父を失った悲しみで放心状態にあったが、ルナクスがやってきたことに気づくと起きあがり、叫んだ。

 彼女の美しい声音が、空間のなかで悲しく響きわたる。


「ルナクスっ!!」

「ミカエリス……!」

「くくく、感動のご対面だな。

 万が一にでも私に勝ったら、景品として姫をお前らにくれてやろう。

 ありがたいだろう?」

「彼女が景品だと? ふざけるなよ……!」


 声に怒りをにじませるルナクス。


 傍らで彼らのやり取りを聞いていたガレルは、剣の腹で自身の肩を叩きながら、ため息をついた。


「おーおー、話にゃ聞いてたが、大した悪役っぷりじゃねぇの。

 上から偉そうに見くだしているあの野郎を、思いきりぶった斬ってやりたくなってきたぜ……!」


 ……そのとき、空気中の水分が凍りつく音が鳴り、ガレルたちは宙に目を向けた。


 そこに浮かんだのはグレイスから部隊長たちへと向けられた指令の言葉。

 強き者たちの闘志のぶつかり合いを感知して、ネイジュが届けた氷の文字。



 ――『月明かりの王子』ルナクスに加勢し、ともに『五帝将』コトハリを撃破(げきは)せよ!



「……はっ! グレイスの旦那(だんな)も人が悪ぃぜ。

 たしかに俺を使ってくれとは言ったが、いきなり『五帝将』をやっつけろってんだからよ。

 ……めちゃくちゃ燃えるじゃねぇか、面白ぇ!」


 ……のさばる悪を滅ぼしたいのは皆同じ。

 アレス、ティラン、サキナもコトハリへと闘志のまなざしを向ける。


「くくく……。そんなに怖い目で(にら)むなよ。

 せっかくの記念の夜なんだ。

 余興(よきょう)でもしながら、存分に楽しもうじゃないか」

「あぁ、余興だぁ?」


 めんどくさそうにガレルが答えた。


「こう見えても私はカジノに目がなくてね。

 ……ここはひとつ、()けごとなどいかがかな?」


 コトハリはルナクスたちが承諾(しょうだく)するのを待つこともなく、勝手に話を進めていく。


規則(ルール)は簡単。

 ここに、壁に当たると無差別な方向に跳ねる光球がある」


 コトハリの周囲を浮遊する光球から分け出でるように、ひとまわり小さな光球が撃ちだされた。

 ポン、とでもいう音が聞こえてきそうな感じ。


 小さな光球は親となる光球のそばをただよい、くすぶる火の玉のようにかすかに震えている。

 ……いったい、この震える光球がいかほどのものだというのだろうか。


 しかし、親となる光球から同じような小さな光球が次々と分け出でていき、気づけば数十個にもおよぶ光球が宙でくすぶっていた。

 その様はまるで、自由に跳ねまわる許可がおりるのを今か今かと待ちわびる、子どもたちのよう……!


「これらに当たらずに最後まで避けつづけたほうが勝ち。

 敗北の代償(だいしょう)は……光球に貫かれた者の死だ!」

「!!」


残響(ざんきょう)光珠(こうじゅ)』――『反跳球(ヤクフィズ)』!!


 数多(あまた)の光球が、一斉に撃ちはなたれる!

 光球の群れはさまざまな方向へと向けて超高速で飛びまわり、空間を埋めつくした。


「みんな、()けろ!!」


 ルナクスが叫び、彼らは光球をかわすべく動きだした。


「なんだこのデタラメなのはぁ!?」


 ガレルは身を(かが)めて光球をかわしながら、周囲を見まわした。


 光球は空中庭園の枠となる格子や植木の鉢にあたると、不規則な方向へと跳ねた。

 その弾道を予測することは難しく、光球の群れはあちこちに当たり、跳ねまわっている。


 光球のひとつがアレスの肩を(かす)め、焦がした。


「くっ……!」


 ――光の熱による損傷……!

 壁に当たると跳ねるが、生体(せいたい)は貫くようだ。

 だが、壁に当たって跳ねかえるということは……!


 アレスは接近してきた光球を狙いすまし、(やり)で突いた。

 光球が消滅することはなかったが、槍に当たって跳ねかえっていく。


「みんな、光球は武器に当たれば弾きかえすことができる!

 自身の身を守るのだ!」


 ――とは言え、これだけの数の高速で飛びかう光球から身を守りつづけるのは容易ではない!

 こんな状況でまともに戦えるのか……!?


 賭けごとと言いながら、コトハリに向かって光球が飛んでいく気配はない。

 飛びかう光球のなか、彼は鷹揚(おうよう)として両手を広げ、高笑いをあげた。


「さぁ、(みじ)めに逃げまどう姿を見せてくれ、国が誇る精鋭(せいえい)たちよ……! くははははは!」




 次回投稿は2023/5/11の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ