表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/330

第132話 神の連携

 レゼルとシュフェル、そしてオラウゼクスが『月の楼宮』の頂上へと降りたつ。


 月夜に浮かぶのは、四本の抜き身の剣。

 そして、戦いの舞台は幻想的に光を放つ楼宮。


 レゼルはオラウゼクスに注意を向けたまま、足もとの楼宮内に向けて『龍の鼓動』の感知を行っていた。


 ……感知していた『龍の鼓動』が、楼宮のなかから外へ動いていったのがわかる。

 グレイスの指示で動きだしていた楼宮内の人々の退避が、ほぼ完了したようだ。


 彼女は双剣を向けながら、オラウゼクスへと語りかけた。


「オラウゼクス……。

 私たちはほんとうに、あなたと戦わなければならないのですか……?」


 狙いはどうであれ、レゼルたちの『和奏』の師となったオラウゼクス。

 なにが悲しくて、自らの師と殺し合いをしなければならないのだろう。


 ……しかし、今のオラウゼクスにみなぎる殺気と闘気は紛れもなく本物。

 飽くことなく戦いの場を求める、修羅(しゅら)そのものであった。


「もちろんだ、小娘ども。

 私は極限の戦いを求めてやってきた。

 少しでも手心(てごころ)を加えるようであれば、私は躊躇(ちゅうちょ)なくお前たちを殺すぞ」

「説得の余地はなさそうですね……!」

「ったく、相変わらず人の話を聞かねぇヤツだな……!」


 オラウゼクスは雷の長剣ヴァリクラッドの刀身をかざし、『和奏(わそう)』の技術をもってして雷龍と共鳴した。

 荒々しくも調和のとれた共鳴音が、夜の闇を伝わっていく。


「さぁ、修行の成果を見せてみろ。

 お前たちが『和奏』を一度でも(かな)()たことはわかっている。

 ちゃんとできるようになったのか、この目で確かめてやる」


 オラウゼクスに続くように、レゼルとシュフェルも龍たちと共鳴した。


「そんなにお望みとあらば、とくとご覧に入れましょう」

「アタシらに『和奏』を教えたこと、後悔するんじゃねェぞ!」


 そう口上(こうじょう)を述べ、レゼルとエウロは風を身にまとわせて地を()り、ついにオラウゼクスへと斬りかかった!

 彼女たちのすぐ後ろにつき従うように、シュフェルとクラムも駆けてきている。


『和奏』――


 オラウゼクスのもとに到達する直前、レゼルの共鳴は深みを増し、更なる高みへと到達していたことを示していた。

 彼女が身にまとう風の風量と鋭さが、格段に向上する!


風輪花(エオフェーレ)』!!


 初撃。

 花弁を刃のように広げて廻転(かいてん)する風の花が、オラウゼクスを襲う。

 もちろん、その龍の御技(みわざ)(そそ)ぎこまれた風の自然素の量と質は、今までに彼女が見せた技の比ではない!


 対して、オラウゼクスも雷をまとったひと振りでレゼルを迎えうつ!


紫雷発雷(エクテヴィオ・ツィテート)


 オラウゼクス特有の、紫光(しこう)を帯びた(いかずち)のひと振り。

 リーゼリオンとヴァリクラッドの神剣どうしのぶつかり合いに、究極の共鳴である『和奏』どうしのぶつかり合い。

 その衝撃は空を伝わり、ヴュスターデの国土の端から端まで届くほどであった。


 ……ひとまず技は互角。

 レゼルとオラウゼクス、双方の技は激突の余波を残しながらも、その威力はうち消しあわれている。


 オラウゼクスは剣を交え、飛び交う風と雷の粒子に包まれながら、考察を進めていた。


 ――ふむ。たしかに『和奏』の技術をもって繰りだされた技。私の技をうち消したのが、なによりもの証拠。

 ……だが、なにか妙な手応えがあったのも事実だ。それに、なぜ金髪のほうは攻撃してこない?


 そこでオラウゼクスは、入念にレゼルたちの龍の鼓動と自然素の流れをたどってみた。

 そして、彼は彼女たちが短期間で『和奏』を習得したからくりを見抜く。


 ――なるほど。

 片方を()()()に専念させたのか……!


 技を発動しながら、刻一刻と鼓動の調律が変化する龍と『和奏』の状態を維持しつづけるのは容易なことではない。

 残念ながら、レゼルとシュフェルは実戦で使用できるまでの練度には到達しなかった。


 しかし片方が『和奏』を維持することに専念して調律を示し、もう片方がそれに(なら)うことによって、彼女たちは戦闘しながらでの『和奏』を実現したのだ!


 つまり今、エウロの龍の鼓動を感知して調律を示しているのはシュフェル。

 レゼルはシュフェルが示した龍の鼓動をなぞっているだけ。


 自分で音程をとることができない生徒が、指導者の歌声に合わせて歌えば容易に音を取れるように。

 音程はシュフェルが取り、レゼルは懸命に歌うことに心を注いでいたのだ。


 ――だが、この方法では『和奏』の技術をもってして戦闘に参加できるのは片方のみ。

 もう片方は音程を取ることに専念しつづけなければならない。


 ……つまり戦闘に参加できるのは、実質レゼルのみであるということ。


「付け焼き刃であることは事実だが、この短期間で『和奏』を実現できたのは見事。

 だが、貴様ひとりで私に勝てるとはとうてい思えぬぞ?」


「……と、思いますでしょう?」


「!!」


 レゼルとエウロの背後から飛びだすように、シュフェルとクラムが踊りでる!


『和奏』――


 友だちである、ティランの龍鞍(りゅうくら)にからだを固定しない戦い方から着想を得た新技。

 シュフェルはクラムの背中の上でからだが横一文字になるようにひねり跳び、雷の剣を振りおろす。

 その鋭さはまさしく、爪を振りおろす猛虎(もうこ)のごとく!


虎雷爪(エクティグレス)』!!


 驚異的な反射神経でオラウゼクスはシュフェルの剣を受けとめたものの、不意打ちであったために彼の腕には多大な負荷がかかり、(すじ)がきしんだ。


 ――金髪のほうに、戦闘の権利を委譲(いじょう)するつもりか!?


 しかし、彼女たちは交互になって次々と技を撃ちこんでくる!


旋風(トゥルビネ)』!!


 オラウゼクスは巻きあがる旋風を受けとめ――


放雷(エクディサージ)』!!


 シュフェルから撃ちはなたれた雷を受けとめた。


 矢継(やつ)(ばや)に繰りだされる龍の御技に、月の楼宮は崩れんばかりに揺さぶられている。


 ――いずれも、間違いなく『和奏』による強化を受けている。

 レゼルたちが交互に役割を受けわたしあっているということだ。

 しかも、彼女たちには合図を示しあっている素振りはない。目配せをしている気配すらないのだから。


 だが、『和奏』の発現そのものの難易度はさがったとはいえ、戦闘中にまったく異なる役割を受けわたしあうのは容易なことではない。

 長く時間をともにしているであろうとはいえ、そもそも、本来の相棒でない龍と『和奏』の調べを奏でることすら片手間でできる作業ではないのだ。


 ――それだけ高難度な連携を互いの呼吸を合わせるだけで、何食わぬ顔でやってのけてみせる。

 その連携はまさしく、『神の(わざ)』と評するにふさわしい!


 オラウゼクスはレゼルたちの攻撃を受けとめ、戦いの愉悦(ゆえつ)にひたりながら(つぶや)いていた。


「……面白い。面白いぞ、小娘ども……!」




*歌うのが難しい曲でも、リードボーカルをつけると歌いやすいですよね。

 簡潔にいうと片方がコーラスのリードボーカルに徹しているということです。


 次回は5月3日の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ