第131話 確信のネガティブ
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ルナクスと部隊長たちは、邪魔をする敵兵たちを退けながら、コトハリを追跡していく。
彼らは『太陽の楼宮』の中層階にある龍の離着陸場から、楼宮の内部へと進入した。
楼宮の内部にも敵兵があふれ、追跡を妨げようと襲いかかってくるが、彼らはなんなく撃退して先へと進んでいく。
しかし、そうして楼宮の内部を進んでいきながら、アレスとサキナがガレルに話しかけてきた。
すぐそばでは、ティランも心配そうに彼のことを見つめている。
「ガレル、大丈夫か。顔色が優れぬようだが……」
「無理をしてはいけないわ。私たちのことも頼りなさい」
「……!」
「ガレル……」
シュフェルに負けた夜以来、ガレルは眠れぬ夜が続いてた。
なるべく表には出さないように心がけてはいたが、さすがに幼きころからともに腕を磨きつづけた戦友たちの目をごまかすことはできなかった。
「あぁ、最近はちぃとばかし寝つきが悪くてな……。心配かけてすまねぇ。
だが、安心してくれ。
こっちは今すぐ剣を振りまわしたくて、仕方ねぇくらいなんだからよ……!」
ガレルが戦意はじゅうぶんであることを示し、ほかの部隊長たちは少し安心したようだった。
彼としても、その意欲が嘘いつわりでないことは自分自身がよくわかっている。
――そんなことよりも、だ。
ガレルは隣で龍に乗って駆けるルナクスのほうをうかがい見た。
シャレイドラから襲撃を受けていたときに何度か戦いをともにして、気づいていたことだが……。
――コイツ、めちゃくちゃ強ぇ!
ガレルはあらためて、ルナクスの戦闘力の高さに目を瞠っていた。
彼は片手にヴュスターデ固有の湾刀を装備して戦っている。
戦士にもさまざまな型があるが、ルナクスの剣の技術はガレルに次ぎ、身のこなしはティランに次ぐほどに優れている。
総合力でも部隊長たちにまったく引けをとらないだろう。
彼に武術を叩きこんだのは、あのマチルダだという話だ。
戦闘力だけではない。
的確な判断力、迅速に部下に指示を出す決断力。
彼は司令官としても極めて優秀であった。
いつも自身なさげな態度とは裏腹に、戦士としても司令官としても一流のルナクス。
軍事的不利に立たされた近年においても、エミントス軍がかろうじて持ちこたえてこれたのはほかでもない、彼が軍を支えてきたからだ。
さらに彼には、ヴュスターデ王家に古代より伝わりし神具が与えられていて――。
「これから君たちとともに戦うにあたって、僕がもつ神具について説明しておこうと思う。
知らないでうっかり巻きこまれてしまったら大変だから」
ルナクスは龍に乗って駆け、まっすぐ進む先を見つめながら、自身がもつ神具の説明を始めた。
『満月の盾』:『絶対防御』。ルナクスの周囲を浮遊する月の盾。
物理攻撃は絶対防御し、無形のちからは吸収する。
絶対防御は物体に働くちからの概念そのものを吸収することによって実現されている。
ある程度の範囲内であれば、盾の大きさより外に広がる攻撃も吸いこんでくれる。
盾は自動操作でもルナクスの周囲を浮遊したり、敵の攻撃を防御してくれたりもするが、彼が思うとおりの位置に移動させることも可能。
『三日月の刃』:『絶対切断』。空中を高速で回転しながら飛行し、軌道上にある物体をなんでも切断する。
手に取るとルナクスの手すら斬ってしまうので、満月の盾から撃ちだされて、満月の盾に納まる。
使用者は『射出速度』と『飛行距離』を調節し、満月の盾の『射出位置』と『終着位置』で軌道を決める。
「『絶対防御』に『絶対切断』かよ。
すげぇな……!」
「いや、これらは『神具』にこそ分類されてはいるが、大地の龍神のちからを借りて王家の始祖がつくったものだと言われている。
純粋な神がつくりし道具には劣るよ。
『絶対防御』『絶対切断』って誰が言ったんだか知らないけど、それがほんとうなのかどうかもわからないしね。そもそも道具を取りあつかうのが僕であること自体に問題があるのであってぶつぶつぶつ……」
「え!?」
「最後のほうなんと!?」
ルナクスがまたぶつぶつ言いはじめたので、ガレルは彼の気を紛らわせるように明るく声をかけなおした。
「でも、切れ味鋭い刃を思いどおりに飛ばせるんだろ?
それだけでも、かなりすげぇ武器だよな!」
「いや、その点もそうでもない」
キッパリ、という感じでルナクスは答えた。
否定的な見解を述べるときの彼はなぜだかとても自信ありげである。
「僕が調節できるのは刃の『射出速度』と『飛行距離』だけ。
軌道は『満月の盾』からの『射出位置』と『終着位置』によって決まる。
うっかり防御のために盾を動かして、あらぬ方向に飛んでいってしまうことも珍しくはない」
『三日月の刃』は空中でルナクスの思いどおりの軌道を描くわけではないのだ。
うっかり気を抜くと、使用者自身を切りきざんでしまうことすらあるとのこと。
話だけ聞いてみると、たしかに扱いが難しそうな操作ではある。
「僕がまともに飛ばせるようになるまで、いったいどれほど余計なものを切ったことか……。
あ、今思いだした母上が大事にしてたアレを切ってしまったこともあったな。あのときは三日は口を聞いてもらえなかったっけ。あ~やっぱり使う人間が僕なんかじゃダメなんだぶつぶつぶつああだこうだ……」
「こんなときに自信をなくさないで!?」
「大丈夫、ルナクスさんはりっぱな人だよ!」
勝手にうち沈んでいくルナクスを必死に励ましながら、ガレルたちはコトハリの追跡を続けたのであった。
説明がわかりづらかったと思いますが、『満月の盾』は剣や槍などの武器攻撃は勢いを殺し、炎や雷などのかたちのない攻撃は吸いこんで防いでくれます。
基本的にオートガードですが、ルナクスが思いどおりに動かすことも可能です。
『三日月の刃』は優秀な飛び道具ですが、なかなか操作が難しいようです。
次回投稿は4/29の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします!




