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第119話 異教の神具

 マレローとの二度目の対談を終えて以来、俺とレゼルはマチルダのもとをたびたび訪れるようになっていた。

 次の対談や、今後起こりうることを想定しての対策を練るべく、話し合いを重ねていたのだ。



 今夜もマチルダとの話し合いを終え、彼女の居室(きょしつ)をでたところで、ばったりとルナクスに出会った。


「ルナクス」

「君たちは……」


 普段(ふだん)彼はエミントスの防衛任務(ぼうえいにんむ)としての見回りにでていることが多いので、楼宮(ろうきゅう)内では意外と出会わないのだ。

 俺とレゼルは彼と並んで歩き、先日の会談の内容に関して話をしてみることとした。



 ――会談の大まかな内容は、彼もマチルダから聞いて知っていたようだ。

 コトハリの言うことは信用ならないという考えも、俺やレゼル、マチルダとも一致していた。


「そうか。

 君たちはコトハリに会ったんだな。

 ……あの、不吉を運ぶ忌々(いまいま)しい男に」

「ああ。見た目は爽やかだが、つかみどころのない、不気味な男だったよ。

 ルナクスは奴とも戦ったことがあるのか?」

「ある。

 あの男は過去に三度だけ、シャレイドラの襲撃(しゅうげき)に顔をだしてきたことがある。

 僕は奴と三回戦って、三回とも負けた。

 いずれも僕たち王家にもっとも忠誠(ちゅうせい)を尽くした騎士たちが命を代償(だいしょう)にしてくれたおかげで、今の僕は生き(なが)らえている」

「ルナクスさん……」


 痛ましい話に、レゼルも悲嘆(ひたん)で表情を(くも)らせる。


「あの男はエミントスはおろか、その気になればいつでもシャレイドラを掌握(しょうあく)することができる。

 それだけのちからをもちながら、あえて表舞台(おもてぶたい)に立たずに暗躍(あんやく)しつづけているんだ。

 今回の話も、なにか裏があると思っていたほうがいい」

「五帝将の名に恥じぬ、恐ろしい男ってわけか……」

「そのとおりだ。

 恐ろしいのは並はずれた戦闘力と裏で糸をひく知略(ちりゃく)だけじゃない。

 ……奴には、『運命を操作する』ちからが(そな)わっている」

「!!」


 ルナクスが明かす事実に、俺とレゼルは驚きを隠せなかった。


 だが、カジノでの一件や、マレローが次々と油田(ゆでん)()りあてた話など、そうでなければ説明がつかないことが多い。

 信じがたい事実ではあるが、()におちる内容ではあった。


「でも、ほんとうにそんなことが可能なのですか?

 自然素の操作では、とうてい実現することができなさそうな能力ですが」

「正確にいえば、奴がもつ神具のちからだ。

 龍神の神話とは、異なる神話体系(しんわたいけい)の神々がつくった道具と考えられている。

 確認されているだけで少なくとも四つ、奴は異教の神具(しんぐ)を持っていることがわかっている」

「神具を、四つも……!」


 今俺たちが確認できている神具、すなわち神剣は風の双剣リーゼリオン、炎の大剣ブレンガルド、水氷の短剣エインスレーゲン、雷の長剣ヴァリクラッドの四種。


 だが、コトハリはそれらの神剣とはまったく異なる体系の神具を四種ももっているということか。

 どういう効果をもつのかまったく想像がつかない分、神剣とは違った恐ろしさがある。



 ――ほかにもコトハリがもつ神具について現時点でわかっているかぎりの情報を教えてもらったところで、今度は逆にルナクスから質問された。


「ミカエリスは……。

 ミカエリスはどんな様子だった?」

「ミカエリスさんか?

 元気そうではあったよ。

 なんだかやたら悲しげで、重く沈んでいるようではあったけど。

 ルナクスは彼女とは、仲がよかったのか?」

「帝国が侵攻してくる前までは、王家どうしの交流は普通にあったからね。

 僕とミカエリスは幼なじみだ。

 ……僕はミカエリスのことが好きだった。

 彼女も、僕のことを()いてくれていたように思う」

「おおぅ」


 俺とレゼルは互いに顔を見合わせた。


 こう話している今も暗い表情でつぶやくように話す彼だが、ミカエリスと相思相愛(そうしそうあい)の関係であることついて明言(めいげん)するのは意外であった。

 さすがは一国の王子、やるもんだね。


『月明かりの王子』と『陽光(ようこう)歌姫(うたひめ)』という組みあわせも、なんだかお似合いであるように思われた。


「ミカエリスは人気があるから定期的に民衆の前に姿を見せさせられているが、実際には常に軟禁(なんきん)状態にある。

 今の彼女に自由はない。

 ましてや今のエミントスと行き来することなど、許されるはずもない」

「そうだったのか……」

「十年ものあいだ、ずっと離ればなれだったのですね。お辛かったでしょう」

「いや、そんなことはない。

 十年間、僕たちはずっとそばにいつづけた」

「??」

「今からちょうど彼女と連絡を取るところだ。

 君たちも来るか?」


 俺とレゼルは、再び互いの顔を見合わせる。

 こちらは楼宮の屋上に向かうほうなのだが――とか、そんなふたりだけの大切な時間に立ち会ってよいのか――とか。


 いろいろ不思議に思うところはあったが、ルナクスはあまり気にしていないようだったので、俺たちはそのまま彼に付いていかせてもらうこととした。




 次回投稿は2023/3/12の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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