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第114話 二度目の会談

 前回の会談から七日後の夜、幹部衆(かんぶしゅう)は再び『太陽の楼宮(ろうきゅう)』を訪れていた。


 今回の会談はマレローの提案により食事とお酒が提供されるということで、王の間がそのまま宴会場となった。

 部屋の中央の長テーブルの真上には、非常に装飾(そうしょく)的で豪華(ごうか)な黄金のシャンデリアが吊るされている。


 シャンデリアには多数の切りそろえられたガラスが配列されており、灯火(とうか)の光を複雑かつ魅力的に散乱させている。

 どちらかというとカレドラルにありそうな雰囲気の照明だが、珍しいもの好きで派手好きなマレローが取りよせて設置させたものなのだろう。


 酒はヴュスターデにのみ自生する糖度が高いサボテンを発酵(はっこう)させて作ったもので、果物のように甘くて香り豊かだ。

 しかし、アルコール度数は極めて高く、油断して口に含むとガツンとくる。


 食卓の上に並ぶ料理もマレローが世界各国から取りよせた美食・珍味に加え、山羊(やぎ)の骨付き肉を半日以上じっくりと低温で火を通して香辛料(こうしんりょう)をまぶしたものなど、ヴュスターデならではのごちそうがたっぷりと並べられていた。



 会食が始まってしばらく時間を置き、皆が人心地(ひとごごち)ついたところでマレローが話を切りだした。


「さて、騎士団の諸君。

 これからの話をする前に、まずはワガハイの友人を紹介しよう」


 マレローは彼の右側にいる人物のほうに向けて手をかざした。

 その手が指ししめす先には、一見して爽やかな美青年が、涼しげな笑顔を浮かべている。


「彼がワガハイの無二の親友、コトハリ君だ。

 彼はこう見えてなんと、神聖軍事帝国ヴァレングライヒの五帝将がひとりなのだ!」

「どうも、ご紹介に預かり光栄です」

「……!」


 紹介されて何食わぬ顔で頭をさげるコトハリに、幹部衆が鋭い視線を投げかける。

 奴がこの会談に参加することは、俺のほうから皆に話してあった。


 場の空気がピリついたことに、マレローは微塵(みじん)も気づく様子がない。

 彼はにこやかな笑顔を浮かべたまま、コトハリの紹介を続けている。


「帝国の侵攻を受けたときはワガハイももう駄目かと思ったものだがな。

 ワガハイの処刑に反対し、自治を認めるように進言してくれたのはほかならぬ彼なのだよ。

 それに彼がきてから、面白いほどに油田(ゆでん)が掘りあてられるようになってな。

 ワガハイはたちまち世界一の大金持ちだ!

 まったく、彼には頭があがらんのだよ、わっはっは!」


 マレローは、例の金持ち笑いをあげている。


 ……俺は、マレローの「油田を掘りあてられるようになった」という話に引っかかりを覚えた。

 ポーカーのときといい、この男は運命を操作するちからがあるとでもいうのだろうか。

 もしそうだとしたら、いったいどうやって……?


「そして、今夜はもうひとり、諸君(しょくん)に紹介したい者がおる!」


 続いて、マレローは自身の左側にいる人物のほうへと手をかざした。


「こちらがワガハイの愛娘(まなむすめ)、ミカエリスである!!」


 そう、マレローの左側にはあの歌姫、ミカエリスが座していたのである。

 両側を美男美女に挟まれ、なんだかマレローまで(イケ)()()として輝いて見えるから不思議である。


 ……いや、顔立ちはマチルダに似てもともと悪くないんだが、なんとなく心象(イメージ)が悪くて……。

 輝いて見えるのは身につけてる宝飾品のせいだし。


「ミカエリスは亡くなった妻によく似ていてのう。

 (ちまた)では『陽光の歌姫』などと呼ばれてもてはやされておる!

 それに父親であるワガハイが言うのもなんだが、じつに明るくて美しい娘であろう?

 自慢の娘だ、わっはっは!!」


 ……娘の自慢でマレローは上機嫌そのものだが、彼には娘の顔が見えていないのだろうか?

 俺にはマレローがミカエリスの紹介をすればするほどに、彼女が暗く、悲しく沈んでいっているようにしか見えない。


「さて、では本題の話を始めよう。

 レゼル君、実際にシャレイドラの街や人々を見て、どうだったかな?

 このすばらしい街を見て、ワガハイの話を飲んでくれる気にはなったかね?」


 マレローからの提案。


 それは、レゼルがシャレイドラとエミントスの和解を仲介(ちゅうかい)すること。

 ふたつに分かたれたヴュスターデ王家の再統合を果たす。

 そしてあわよくば、カレドラルも帝国と共存の道を選ぶことを勧めるものであった。


 彼に振られて、レゼルは自分の考えを自分で確かめるようにしながら、ゆっくりと話をしはじめた。


「ええ……。

 実際、すばらしい街だと思いました。

 たしかに経済的には(うるお)っていて、豊かさが国民の幸福に直結するのも実感しましたし。

 街で出会った人々も、親切な方々ばかりでした。でも――」


 そこでレゼルは、ちらりとミカエリスのほうをうかがい見た。

 彼女たちはほんのわずかな一瞬であったが、互いに目を見合わせたように感じられた。


 ……レゼルも感じていたのかもしれない。

 ミカエリスの心の声というか……秘められた意思のようなものを。

 俺も広場で彼女の歌う様子を見たときから、ずっと違和感を覚えていた。


 それに、やはりシャレイドラがエミントスの富をも吸いあげて繁栄(はんえい)している点はやはり、見過ごすことはできない。

 これらの疑問点を無視して、話を進めるわけにはいかないだろう。


「……最終的な決断をくだすのには、もう少し時間が欲しいというのが正直なところです」


 そう言って、レゼルは言葉を(にご)して返答を終えた。

 実際、この国の内情をもっと正確に知りたいのは本心である、といったところだ。


「ふむぅ。

 まぁ、国家の命運を決める選択になるであろうから、レゼル君が慎重になるのもわからんでもないぞ」


 マレローはレゼルの迷いに理解を示した。


 しかし、そこでとうとう()()()が口を挟んだのであった……!




※アルコールの発酵には糖分が必要です(例:ワインはブドウの糖分、日本酒は米のデンプンを糖化してから発酵しています)。

 現実ではサボテンは糖分が少ないので、サボテンを原料としたお酒はありません。


 強いてイメージが近いものを挙げればリュウゼツランを原料としたテキーラがあります。

 リュウゼツランは見た目こそ肉厚でサボテンやアロエに似ていますがまったく違う仲間の植物で、リュウゼツラン科またはヒガンバナ科の植物です。



 今回の場面は次回に続きます。


 次回投稿は2023/2/20の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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