表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/330

第112話 誰かの役に立つ生きかた


 前回の場面の続きです。


 号泣するシュフェルと、魂が旅だったまま帰ってこないティラン。各々(おのおの)のやりかたで悲しみにうちひしがれるふたり。

 俺はとうとう見ていられなくなって、ため息をついた。


「……まったく。仕方がないな」

「えぐっ、えぐっ。ひぐっ……。

 んん……?」

「……グレイス、さん……?」

「取られた分を取りかえしてきてやる。

 ちょっと待ってな」


 初心者にわざと勝たせて調子に乗らせ、のめり込んできたところでカモにする。

 見た目は子供(中身も。戦闘中以外)なので、なおのこと目をつけられたのだろう。

 カジノではよく見られる光景だ。


 しかし、どうやら相手が悪かったな。

 こいつらは俺のツレだった。

 元気印(げんきじるし)のこいつらに、涙は似合わないんだよ……! 


 俺は、ホールの中央へと戻っていった。


「ちょっと、そこのお兄さん」

「あん……?」


 俺はシュフェルとティランからチップをまきあげていた男に声をかけた。

 右目に古い傷跡がある、貴族というよりはゴロツキに近い風貌(ふうぼう)の男だ。

 今は大勝ちしたばかりで気分も上々に、仲間と蒸留酒(じょうりゅうしゅ)をあおっていた。


「俺とひと勝負してくれませんかね?

 ポーカーなんていかがです?」

「あんた、さっきのガキどもの保護者だな。

 金を取りかえそうってのか?

 いいぜ。さらに負けが込んで、素寒貧(すかんぴん)になっても知らねぇからな」


 そう言って、男は勝負に乗ってきた。

 そこそこ腕に自信がある男のようだ。


 俺たちはポーカーのテーブルへと移動して向かいあって座り、勝負を始めた。

 まずは勝負をもちかけた俺が親だ。


 最初のひと勝負は俺がツーペア、男がハイカード(役なし)。

 手始めにチップをいただく。

 今度は男が親で、カードをシャッフルしてもらう。


 男がカードをシャッフルするフリをして、カードを一枚、手のひらの裏に忍ばせたのを俺は見逃さない。

 先ほどの勝負で場にでたカードから、男の狙いを推測する。


 ふた勝負目。

 男はスリーカード。

 俺はフラッシュ。


「なっ……!?」


 男は立ちあがった。


「てめぇ、イカサマでもしてんのか!?」

「おっと、じゃあ俺がなにをしたって言うんだい?

 そんなに疑うなんて、もしかしてなにか仕込んでたのはあんたのほうなんじゃないの?」

「……!!」


 男は言いかえすことができず、再び席に着いた。


 その後も男はイカサマをしようとアレやコレや小細工をほどこしてきたが、たいした腕ではないので、すべて見抜いて裏をついていく。

 第三者から見て怪しまれないように、時おり負けを挟みながら。


 男もイカサマでやり返されていることに気づいてはいるのだろうが、その手口を見抜けず、指摘できずにいる。

 格の違いを理解したようで、やがて男は負けを認めた。


「……わかった、俺の負けだよ。

 ここいらで許してくれねぇか?

 このままだと、こっちのほうが素寒貧になっちまう」

「今日はツキがなかったみたいだね。

 こちらこそ気分を害して悪かったよ。

 お好きなところへどうぞ」


 男は肩をすくめ、席を立った。

 去り際に、「嬢ちゃん、悪かったな」と言ってシュフェルの頭をポンポンしていく。


 男が去っていったのを見届けると、シュフェルとティランが寄ってきた。


「す、すごい!

 グレイスさん、いったいどうやって……!?」

「アンタ、どんな悪いことしたの!?」

「べつに悪いことなんてしてないさ。

 ちょっととっちめてやっただけだよ」


 そう、俺はシュフェルたちが巻きあげられた分を取りかえしてただけ。

 だが、まだ取られた分をすべて取りかえせてはいない。


 俺はシュフェルたちをだました奴らを中心に声をかけ、きっちり取られた分を回収していく。

 セカンドディール、ボトムディール、フォールスカット……。


 俺はありとあらゆるイカサマの技術を駆使(くし)して、勝ちまくった。

 もちろん、怪しまれないように適度に負けを挟んで、少しずつ賭け金を集めていく。

 だが、負けられない勝負どころのゲームはすべて勝ちを拾っていった。


 ……正直、賭けごと(ギャンブル)で生計を立てられるだけの自信はあった。

 しかし悪事はやりすぎればいつかはバレる。

 それになにより、俺は人の役に立つ金の稼ぎかたをしたかったのだ。

 俺は、賭けごとより商売のほうが好きだった。




 ひとしきり勝負を終え、俺はシュフェルとティランが負けた分のコインを分け与えてやった。

 俺も久々でつい楽しみすぎてしまったようで、それでもまだ余りあるほどの勝ち分が残っていた。


「ほれ、お前たちがまきあげられた分」

「オ、オッサン……!!」

「ありがとうございますありがとうございます。グレイスさんは命のオンジンです」

「今まで勝手にオッサン呼ばわりしててゴメンね。……オッサン!!」


 オッサン呼ばわりは変わらないんかい。


 シュフェルは瞳をうるませながら俺の手を両手でにぎっている。

 ティランはひたすらに頭をさげまくっていた。


 普段からこれぐらい殊勝(しゅしょう)な態度を取ってくれていると、こちらとしてもありがたいんだけどな。


 しかし、さすがに荒稼ぎしすぎたようで、周囲で俺たちのことを(うわさ)しているのが聞こえてきた。

 ……そろそろ引き時だな。

 そう思い、勝負を切りあげて立ちあがろうとしたときのことだった。


 俺に、話しかけてくる者がいた――。




※セカンドディール:カードを配るときに、トップカード(1番上のカード)から2枚目セカンドを配る(ディールする)というカード技法


 ボトムディール:カードを配るときに、トップカードを取ると見せかけて山の下のカード(ボトム)を配るカード技法


 フォールスカット:混ぜているようにみえて混ぜていないシャッフルの技法



 カジノ編はもうちょい続きます。


 次回投稿は2023/2/12の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ