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第109話 三千人のなかから選ばれた君へ


 場面はグレイスさんの視点へと移ります。


 レゼルとセシリアに追いはらわれて、俺はとぼとぼと街のなかを歩いていく。

 華やかに輝く街は雑踏(ざっとう)でにぎわっているが、そんなときこそ自身の孤独が際だって感じられるというもの。


 昔だったらヒュードを連れて歩いたものだが、街なかはシャレイドラの人びとと龍だけでひしめきあっている。

 騎士団員みんなが街に龍を連れこむわけにはいかず、いくら俺が寂しいとゴネても、ヒュードだけ例外というわけにはいかなかったのだ。


 騎士団の面々は皆、それぞれに人間関係を築いており、気心の知れた仲間とともに街の散策を楽しんでいる。


 先に述べたとおり、レゼルはセシリアと連れたって早々に『女子の秘密の買い物』にでかけてしまって、俺が入りこむ余地など欠片もなさそうであった。


 シュフェルはティランとともにでかけて、好奇心の(おもむ)くままにあちこち走りまわっている。

 初めて見るものばかりで楽しくて仕方ないらしく、暑さなど気にもならないらしい。

 仲がよくてわりといっしょにいるが、恋愛関係などは微塵(みじん)も感じさせず、ほんとうに遊び仲間といった感じなのもこいつらのよいところ。

 子どもっていいね。


 アレスとサキナは、いっしょにお茶の葉を買いにでかけてしまった。

 お茶が共通の趣味らしく、ヴュスターデでしか採れない美味しいお茶の葉を探しに行くとのこと。

 並びたって歩くふたりの姿はあいかわらず長年連れそった夫婦のような安定感を(かも)しだしている。

 しかし、これだけお似合いなのに本人たちは恋愛関係にないとのことであり、手をつないだことすらないというのだから驚きである。


 なにかにつけて付きまとってきていたネイジュは、日が昇っている昼のあいだはすっかり石箱(いしばこ)のなかで寝ているようになった。

 ホントに吸血鬼みたくなってしまったな……。


 ガレルはいつの間にかひとりでどこかに行ってしまったし、ホセははるか遠くのお空の向こう(死んだわけではない。カレドラルに残って一生懸命仕事しているのだ)。

 エルマさんは日頃お世話をしてくれているお付きの巫女さんたちへのご褒美として、彼女らをひき連れて歩いているようだった。


 ……俺が合流したとき、百人ほどしかいなかった騎士団員は、今では三千人を超えるほどの大所帯となった。

 そんな数多くの人びと、そしてそれとほぼ同数の龍たちが皆、それぞれに関係性を築きあげ、心を許しあえる友や恋人とともに楽しいひと時を過ごしているというのは、なんとすばらしいことだろう!


 そして俺も、ひとりではなかった。

 俺はほんとうに馬鹿だった、大切な君のことを忘れていたなんて。


 この想いを伝えよう。

 三千人のなかから選ばれた、君へ。


「おぅ、グレイスよ!

 オヌシもひとりで暇しておったか。

 せっかくじゃからワシといっしょに散策(さんさく)でもするかナ?

 わっはっは!」


 ……え? 嘘だろ? 

 俺はこのクソ暑い陽ざしのなか、こんな暑苦しい鎧を身にまとったジジイ(ブラウジ)といっしょに歩くのかよ……?

 絵的にもツラすぎじゃないか?


「オヌシとこうしてふたりでゆっくり話すのも久しぶりじゃのう!

 たまにはのんびり過ごすのも悪くないもんじゃナ。

 わっはっは!」


 ブラウジは俺がまだなにも言ってないのに、行動をともにする気マンマンであった。


 ……まぁ、いいか。

 俺もほかに誰かと過ごすあてがあるわけでもないし。

 いったいどういう仕組みなのかわからないが、うっとうしく暑がっている様子ではないのが救いではある。


 ちなみに重装龍兵五人衆はいつものごとく踊りの練習に明け暮れている。

 ようやく暑さにも慣れてきて、動きにキレを取りもどしつつあるとのことだった。



 どこに行くというわけでもなく、俺とブラウジは街のなかをブラブラと散策していく。

 シャレイドラの街のにぎわいを眺めながら、彼は感想を述べた。


「……たしかに、街の人間は皆明るく楽しそうじゃのう。

 経済的にも満たされておる。

 裏で帝国に支配されていても、この街に住む人間たちは幸福だということなのじゃろうか……」


 ……そう。

 俺たちは帝国の支配下に置かれたこの街のすばらしさを見て実感してもらうという名目(めいもく)で、自由な出入りを許された。

 ブラウジの言うとおり、この街に住んでいる人びとは一見して、幸福そうではある。


 だが、なにか違和感を感じるのは気のせいだろうか。

 街全体がつくられた虚構(きょこう)であるかのような、そんな違和感。


 なにより、真の楽園なのであれば、隣接する姉妹都市であるエミントスの人びとも幸福な暮らしを営んでいるものなのではないだろうか? 

 本来の王国の民たちから富を吸いあげ、その上で成りたっている幸福は、ほんとうに許されてしかるべきものだろうか。


 そうして俺とブラウジが歩いていると、街の大広場にたどり着いた。


 大広場には、より多くの街の住民が集まっていて、いっそうにぎわっている。

 広場の中央には派手な舞台が(しつら)えてあって、なにやら(もよお)しものがひらかれるようであった――。




 次回投稿は2023/1/31の19時に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。

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