第103話 空中庭園
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騎士団員たちは皆、視察を名目にシャレイドラを自由に訪れることが許可されることとなった。
しかし、本格的な視察を開始する前に、幹部衆が先んじてシャレイドラの主に挨拶に赴くこととなった。
そう、自分こそがこの国の現在の王であると主張している、『富国王』マレローのもとにである。
俺たちは使者の娘たちに案内され、『太陽の楼宮』を目指してシャレイドラの街なかを進んでゆく。
暑くて大変だが、騎士団の龍たちには街の入り口で待機してもらい、今回は歩きでの移動となる。
エミントスと違って都市の内部に歩行者が多く、たくさんの龍を連れていくだけの道幅がないためだ。
上空で遠くから見おろしたとおり、シャレイドラの街並みはまぶしく光りかがやいていた。
――陽の光を浴びると美しく輝く『陽光石』でつくられた都。
主に『月光石』を用いてつくられたエミントスとは真逆である。
街にはほかの帝国領出身の外国人も数多く訪れており、非常ににぎわっている。
現地人であるシャレイドラの人々はエミントスの人々と顔付きや骨格こそ似ているものの、よく日に焼けていて、見るからに陽気な人たちが多い。
商取引も盛んで、街のあちこちで市場がひらかれ、競りの声も聞こえてくる。
街には黄金があふれ、数多くの貴石を身にまとって歩く資産家の姿も見かけられた。
貧しくさびれ、静かな昼間のエミントスとはまるで正反対な街。
明るく活気に満ちた街である。
当然、若者にとってはシャレイドラのほうがよほど刺激的で魅力的に映ることであろう。
「う~ん、コレコレ!
夜のエミントスもキレイだったけど、やっぱりにぎやかなほうが楽しいよね!
はやく歩いてまわりたいなぁ~」
「ウハハハハ!
輝く黄金、ド派手な街!
アタシの新たな活躍の場にふさわしい街だわ!」
うちの元気印、ティランとシュフェルが「イェイ♪」と言いながら互いの手のひらを叩きあった。
「ちょっと、ティラン。
私たちは遊びにきたわけではないのよ?
浮かれすぎだわ」
「うむ。
我々はあくまでこの街の視察にきているのだ。
視察に招かれたこと自体が、帝国側の罠という可能性もある。油断は禁物だ……」
「えぇ~……」
サキナとアレスにたしなめられ、しょげるティラン。
「ガッハッハ!
だぁ~いじょ~ぶよっ、サキナにアレス!
なにせこのアタシと姉サマが付いてるんだから。
大船に乗ったつもりでさ、難しいこと考えないで楽しもうよ!」
胸を張り、あいかわらず自身満々のシュフェルに、サキナとアレスも思わず苦笑いしてしまう。
さすがのサキナたちも、『シュフェル様』には強く言えないのだ。
そんなやり取りをしながら進んでいき、俺たちは太陽の楼宮へとたどり着いた。
太陽の楼宮は、月の楼宮と肩を並べるほど巨大な歴史的建造物だ。
雲を超え、本物の月にまで手を伸ばそうとしているかのような月の楼宮ほどの高さはないが、その分横に広い。
月の楼宮が繊細な印象を与える分、重厚感はこちらが上だ。
もちろん、外装も内装も絢爛豪華そのもの。
ヴュスターデの歴史上の偉人や、砂漠独自の動植物、龍神を象った像や彫刻がところ狭しと詰めこまれ、陽光石の光に包まれて見る者の目を楽しませてくれる。
そして太陽の楼宮でもっとも特徴的なのが、屋上にめり込むようなかたちで造設された天球状の構築物だ。
陽光石の働きで輝く巨大な天球はまさしく太陽そのもの。
よく見ると、天球は細かく格子状に石梁が張りめぐらされて構築されている。
梁の水平部は植木鉢のようになっていて、色あざやかな花々がぎっしりと植えられていることがわかる。
「あれはこの太陽の楼宮ご自慢の『空中庭園』なんですよ♪
石梁にそって世界じゅうから集められた熱い地域の草木や花が植えられているんです。
なかから見てもとても綺麗ですから、あとでぜひ一度、ご覧になってみてくださいね♪」
――うぅむ。
俺もヴュスターデには何度か訪れたことがあるが、さすがに楼宮のなかを自由に出入りすることは許されていなかった。
外から見て気にはなっていたので、ぜひお言葉に甘えたいところである。
俺達は楼宮の内部へと立ち入った。
もちろん、太陽の楼宮の内部もかなり広い。
ここでようやく楼宮内で飼っている龍に乗せてもらい、王の間まで連れていってもらえることとなった。
……そして、俺たちはとうとう『富国王』マレローと対面することとなったのであった――。
あけましておめでとうございます。
本年も粛々と継続してまいります。
次回投稿は2023/1/7に予約投稿の予定です。何とぞよろしくお願いいたします。




