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終焉都市の雑草~凶悪な魔物達に侵略された都市で、たった一人の生存者~  作者:
第二章 森の守護者編

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47話 後始末

 森の中を歩く集団。

 足取りに迷いはなく、明確な目的地があるようだった。


 集団の先頭を担う男の名前はアメリオ。

 この森に居住している森人。その村の現村長である。


 そして後ろに続くのは、彼と同じく村を離れていた同行人と、王国から派遣された兵士達だった。

 瘴気の発生という異変に対して、王国に救援を要請。

 兵士と共に森を移動して、本日ようやく村に帰還してきた。


 アメリオは内心の焦りを隠しきれず、徐々に脚が早くなる。


「なんだあれは・・・・・・?」


 朧げに村が見えてきた所で、アメリオは自身の記憶の中にはないものを見つける。

 門の両脇に立つ灯篭。通常石材で作られるそれは、機械的な見た目をしており、一見して魔道具であろうと判断できるものだった。


 ということは、魔道具を作製できる人物を逆算して、娘であるイナが作ったものだろうという結論に至る。


「見ない魔道具ですね。灯篭ということは夜の道標の役割でしょうか?」

「どうだろう。僕も魔道具には疎いからなあ。アメリオ殿はあれがどういう役割かご存知で?」


 進むにつれ村までの道が鮮明になる。


 兵士の一人がやはり気になったのか、灯篭について疑問の声をあげた。

 その声を拾ったのは、この一団でトップの男、名をリヴィエルといった。

 彼もまた知識にはないと疑問符を浮かべて、村長のアメリオに尋ねる。


「いえ、私が村を出た頃にはそのようなものはなかったので・・・・・・なにか知っているか?」


 同行者も一様に首を振って、知らないと肩を竦めた。


「おそらく娘が作製した魔道具だとは思うのですが」

「そう言えばアメリオ殿の御息女はそちらの方面に明るいと言われていましたね。まあなにより、村に被害がないようで良かった」


 リヴィエルの言葉に村から来た一同は同意する。


「お久しぶりです村長!」


 村の手前で、門番が嬉し気な声をあげながら大きく手を振る。


「ああ、元気そうでよかった。他の皆は」

「全員無事ですよ。詳しい話はユナンさんから聞いた方が確かだと思います」


 門番の口から大丈夫だと言われて、村から来ていた一団は安堵の笑みを浮かべる。


 王国から救援を呼ぶのに約一年。

 最悪のシナリオも想像していた彼らだが、助けが間に合わずに全滅という結果にはならなかったのだと、少しだけ肩の荷がおりたように脱力する。


 そのまま村長宅へと移動する中で、見かける村人が笑顔で帰還を歓迎する言葉を投げかける。嬉しい反面で、あまりに緊張感のない空気に各々が疑念を抱き始めた。


「なんだかあまり危機感がないような・・・・・・?」

「もしかしてユナンさん達で解決できたのか?」


 疑問を抱きながらも答えは得られず、そのまま村長宅に到着。

 リヴィエルは残りの兵士に待機を命じ、自身は広間で事情を知るユナンの元へ。


 広間にはアメリオとリヴィエル、ユナンの三人が集まった。


「お久しぶりです。ユナン殿」

「久しいね。まさか君が来てくれるとは思わなかったよ。私が王都に居た頃とは見違えた姿だ」

「いえ、まだこの役職にも慣れておらず、お恥ずかしい限りです」


 リヴィエルとユナンは軍に居た頃からの付き合いだ。

 数年と顔を見合わせてはいなかったが、お互いの姿はあまり変わっていない。二人して僅かに笑みを浮かべながら軽く挨拶を交える。


「旧交を温めたいところですが、非常事態と聞いています。内容を聞くに私が参戦する必要があると女王様が判断されました。まずはお話を聞いても?」

「勿論だ。まず結論から言うと、村の脅威は既に取り除かれている」


 ユナンの台詞にアメリオが驚きの声をあげる。

 憶測が浮かぶが、疑問を口にする前にまずはユナンの続く言葉に耳を傾けた。


「これを見てくれ」


 ユナンが隣に置いていた箱。

 厳重に魔法を掛けられ保管されているそれを前に出し、見えやすい位置で箱の蓋をあげた。


 中には壊れたカンテラがあった。


「ッ?!」

「これは、カンテラ? 壊れているようだけど、魔道具かなにかでしょうか?」


 重い雰囲気の中で出されたそれに首を傾げるアメリオに対して、リヴィエルは驚愕に目を見開いた。

 動揺のまま口元に手を持っていき小さく呟く。


「魂光・・・・・・どうやら女王様の懸念は的中していたようですね。人族の神殿が襲撃を受け、保管物が幾つか奪取されたとの情報は入っていましたが・・・・・・よりによってこれが」


 立場上、様々な書物を目にするリヴィエルはすぐに呪具だと気付いた。

 もしも戦時利用された場合の対処も考えなければいけないため、中でも要注意として把握していた代物であるというのも大きい。


「これは呪具ですね」

「っ・・・・・・これが。そうかもしれないと会議の中で出てはいましたが。でも、こうして壊れているってことは、父さんがどうにか対処できたってことか?」


 その発言は当然の帰結。ただし、呪具の特性を知らなければの話だ。

 知っている者からすれば、答えは迷わず『不可能』だ。


(幾らユナン殿とはいえ、小村にいる人数だけで、しかも戦闘の難しい者達までいる。まとめて対処できる代物ではない)


「少し外に出ようか」


 ユナンが二人を連れてきたのは、異形達との戦闘があった場所だ。

 所々に見られる戦いの跡を辿りながら、時折リヴィエルはその場に留まってじっとなにかを凝視する。


 傍から見るとただ立ち止まっているようにしか見えず、アメリオが声を掛けようとしたところで横からユナンに制止される。


「あれは彼がスキルを使っているところだがら問題ない」

「スキルというと鑑定のような?」

「そんなものじゃないさ。彼は今、過去を視ているんだ」


 【過去視】。名前の通り過去を視る能力。

 非常に希少なスキルで、この世界で見ても保持者は五人といない。


 犯罪が起こった際の現場確認から不正の有無まで。使い道は無限に考えられる。

 その一つだけでも唯一無二だ。しかし彼の価値の高める要因はそれだけではない。


 希少とされるスキルの複数保持。


 中でも、一度訪れた場所になら距離を無視して移動になるスキルによって、王都に報告しながらの単独行動が可能になっていた。

 彼の存在で森人の王国での犯罪率は急激に減少、強力な抑止力となっている。


 連携と魔法の技量を重んじてきた守り人の今までを根底から覆した万能。

 過去、未来を通して最も万能な騎士団長であり、次期覇王候補とまで言われているのが彼だ。


(父さんの指揮した戦場は盤石だと、その偉業を散々他人に聞かされてはきたが・・・・・・やはり突出した個がいるというのは安心感が大きいな)


 無論、元団長の地位にいたユナンを誇らしいとは思っている。

 それとは別に、負けないと信じられる存在がいるというのは精神的な支柱となる。

 現在まで、森人から覇王に至る程の存在が現れなかったその反動というのもあるかもしれない。


 尊敬の眼差しの先、最強の森人は、過去を凝視していた。

 自分達とは異なる種族の、剣士の姿を。


「なるほど」


 先程までの落ち着いたものとは違う、堅くどこか緊張を孕んだ声音。

 視線を鋭く巡らせ、そのまま洞窟へと足を運ぶ。


 過去に洞窟へと移動した二人の姿をそのまま追って行きつくのは洞窟の最奥。


 想定よりも遥かに魂を吸収している魂光と対峙する剣士。

 僅か数度の衝突。その後は特異なスキルで二人の姿は消え、次に姿を現した時には、魂光の無尽蔵とも言える無数の輝きが全て消えていた。


 悠然と歩く人族を凝視しながら、リヴィエルは口ずさみながら小さく数字を口ずさむ。


 ・・・・・・

 ・・・


「あの呪具を置いたのは少年のような見た目をした存在ですね。種族は定かではありませんが、人族に近いように見える。私の把握している凶悪犯の中にはいないことは確かです」


 場所は戻って村長宅。


 リヴィエルは過去視で視た少年の姿を紙に書き写し、それをユナンとアメリオが覗き込む。


「知らない人物だな」

「後で村人たちにも聞いてみますが、この辺りに人族が来ることは早々ありませんからね」


 犯人の特定。そして村での聞き取りと今後の対策、再度起こった際の避難についての対応を話し合い、事件の概要と対策についてが一応のまとまりを見せた。


 ただ、犯人が捕まっていない以上は根本的な解決にはなっていない。


「神殿から盗んだ本人なら、まだ他にも面倒な代物を持っているでしょうね。王都の警備段階を上げる必要性があるか。はぁ、厄介なことになった・・・・・・厄介と言えば、まだお聞きしなければならないことがありましたね」


 視線は唯一あらましを理解しているユナンへ。

 なにをと聞かれるまでもなく、リヴィエルの心中を察したユナンは、飲んでいたお茶の器を静かに置いて口を開く。


「人族の青年が来た。名はフォルナ。その彼が今回助けてくれた」


 まさか他種族が村に来て、なおかつ手を貸したとは思っていなかったアメリオは驚きの表情を浮かべる。


「そして彼は、覇王リアムの弟子だそうだ」

「・・・・・・え、はっ?」


 フォルナの情報。

 ユナンは口外しないつもりでいたものだが、少しばかり口を滑らせる。この先のことを考えれば、穏健で立場のあるリヴィエルに伝える事で無駄な争いの芽を摘むことができると考えたからだ。


 思考による一拍を置いて声を上げるアメリオ。

 リヴィエルは疲れを思わせる深呼吸をして、必要な質問を投げかける。


「好戦的な性格ですか?」

「いや、むしろその逆だろう。リスクはなるべく避けて、平穏を好んでいたように思う。他人の機微に敏いイナが好意を示したことからも、悪人ではないはずだ」


(ならまだ最悪じゃない・・・・・・)


 ここ数年、森人の元老院では過激な発言が度々出ていた。

 内容は、『()()()()()()』。


 奪われた土地を取り返すや、密猟者に希少な生物が殺されているなどと理由を上げているが、彼らのその強気な姿勢にはある要因があることは明らか。

 そしてその要因はある噂に繋がる。


 ――人族の覇王は死んだのではないか?


 人族が恐れられる理由として、繁殖性と貪欲性の高さがある。

 が、今まで他種族との均衡を保てていたのには二人の覇王の存在が多分を占めていたのもまた事実だった。


 その二人の覇王の動向が全く掴めなくなって早二十年。

 希望的観測はあれど、少し動けば天変地異を起こす彼らの姿が皆無な状況に、そう考える者は徐々に増えている。


 ()()()()()


 一見安定したように見える世界の情勢は、ふとした弾みで崩れかねない状況に陥っている。

 言葉にはしないが、過去の大戦がまた始まるだろうとの予感があった。


「ちょっと釘を刺さないとだな」


 基本的にリヴィエルは王家や元老院に対して口を挟まない。

 それは彼らが、民のためを考えての発言を根底にしているためである。例外があるとすれば、その考えが明らかに森人にとって有益ではなくなるという確信がある時であり、今まさにその例外な状況だ。


「ちょっと待って下さい! 二人とも、全く疑っていないように見えますけど、本当に覇王の弟子なんですか?」

「私は【看破】で見たからね。偽装も考えられなくはないが」


 実戦の動きを見れば、その僅かな疑念も消えるというもの。


「私も【過去視】で視ましたから。それに覇王の弟子かどうかは、あまり関係ありません。警戒するに足るだけの実力者であったという事実に変わりはないので」


 厳重な保管をされている呪具を相手に、かなりの余力を残していた。

 洞窟内では、王家を逃がすために自分が稼げるであろう時間を思わず数えるレベル。


「ちなみにその後彼は?」

「旅の道中だったようでね、つい数日前に村を出たよ。色々と寄るだろうが、目的地は聞いている。中立国ザハールだ」






 余談だが、ようやく会えると思っていた娘がおらず、フォルナの旅に着いて行った聞かされた村長のアメリオは、あまりの衝撃で泡を吹いて倒れた。


 同時刻、対してイナは新たな世界の中で満面の笑みを浮かべていた。


二章【森の守護者編】了。

次章からは目的地の道中、まずは人族の都市での話からになります(*'▽')

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あ、更新されていた。 何気に更新期待している作品の一つ。
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