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終焉都市の雑草~凶悪な魔物達に侵略された都市で、たった一人の生存者~  作者:
第二章 森の守護者編

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37話 想像上の剣

この頃仕事が忙しくて更新が遅れちゃいました(>_<)

 大剣を一つ振り払い、肩に担いだフォルナが戦場を見渡す。


『良かったですね。まだ死者はいないようですよ。そこまで強い異形ではないのでは?』


「さあ、どうだろう。都市の異形とは明らかに異なっている。ここを抜けて奥の異形を見るまでは断言できない」


 アルテの軽口を流しながら、ユナンと対峙していた異形へとゆっくりとした足取りでフォルナは歩き出す。


 その後姿を見つめるバーシュはただただ声にならない衝撃を受けていた。


(なんだ、それは)


 全身に一様に流れる闘気。

 闘気を扱える彼だから気付けたその精密性。才能だけでは説明できない狂気的な精密性は芸術といっても差し支えない。

 それだけではない、体に留まらず武器にまで及んでいる事実が信じられなかった。


 闘気の習得は一定の区分で呼び名がある。

 体の一部に闘気を纏うに至ったものを【剛毅(ごうき)】。

 全身に纏うものを【不撓(ふとう)】。

 そして自身以外のものにまで闘気を伝播させるものを【武天(ぶてん)】と称する。


 習得難易度は言わずもがな、最初の剛毅に至るにも限界近くの修練を要することから、不撓の数は全生物の中でも数パーセントの留まる。

 武天に至っては手を使って数えられる程度の数しかいない。


 ――その一人が今、眼前にいる。


 敵として現れたなら絶望そのものだが、運命のいたずらか、偶然に村へと立ち寄った人間の青年はエルフを背にして異形と対面する。


 闘気のことを理解しているかは分からないが、異形達は動きを止めて観察するようにフォルナを凝視する。

 種族、武器、身長、全てを嬲るように、どうすればその脅威を絡めとり蹂躙するかは、異形の根幹が理解している。


 その様子見の間にユナンは、年若いエルフ達を下がらせて軽く治療を施す。

 『どうして来たのか』『すまない。ありがとう』『君は一人で逃げるべきだ』様々な言葉が脳裏を過る中で、一度深く呑み込み深呼吸をする。


 そして振り返り、戦場の経験が少ないエルフ達に、強く言葉を放った。


「決して目をそらさず見ているんだ。この先の未来で正しく状況を見極める指標となるだろう」


 様子見はそこそこに、異形が動く。


 数人のエルフが相手にしていた速度に特化した人型の異形が地を駆け疾走する。

 撹乱するように地と宙を縦横無尽に飛び回り狙いを定めさせない。


 対するフォルナは疾走する異形には目もくれずに歩みを止めない。

 視認できないか、はたまた諦めたか。視線すらよこさぬ姿を傍から見ればそんな思考が過る。


 背後、フォルナの死角から最高速度に達した異形が首筋を一点に狙い腕を伸ばす。


 左足を支点に、すり足で右足を下げて体を僅かに半回転するフォルナ。

 地面すれすれから大剣を運び、振り上げる。


「ん、え?」


 年若いエルフが思わず零した言葉は、己の疑問を周囲に解説してもらいたいと無意識に出たものだったか。彼は、あまりにも当たり前に、そして無駄のない動きで一閃したフォルナの剣術に、数テンポ遅れて、ようやく攻撃した事に気付いた。


 脳は無意識化に相手の動きを予測する。

 それは経験が重なるにつれてパターン化され、適正なものに区分されていく。戦闘の中では特に重要な能力であり、勝敗を大きく分ける部分の一つであると言える。


 その予測が数テンポ遅れたということは、その間の時間に死んだことと同義だ。

 それ程までに、あまりにも滑らかで、自然体の行動に収まっていた。


『剣の覇王きは兎に角止まらないんだ。ずっと動き続けて・・・・・・そうさなあ、一言で言えば区分がない。奴の剣術は一筆で終わるんだ』


 かつて、エルフの女王が住む森で剣の覇王の戦闘を見たという父が言っていた言葉を彼は思い出す。まるで想像の中にしか存在しない様な完璧な剣術を語る父に、話を盛って脚色しているのだろうと子供ながらに思っていた話。


 そう結論付けたはずの記憶に今、再び問を投げかけたくなる。

 眼前の光景が、机上の空論ではないと示していたから。


 フォルナが振るった大剣は異形を縦に両断し、宙で異形の体が左右に分かれる。

 落下しながらも断面が蠢き、再生しようとする左右の肉体の間に体を滑らせ、振るう大剣。異形の再生箇所に合わせて振るわれる剣術は途切れることなく流れ続ける。


 大剣が淡く光を反射しながら、滑らかに空を滑る。

 まるで舞踊。認識できない剣術の調子と、顔色一つ変えないフォルナの様相によって異質さが増していた。


 数センチ単位のブロック状にばらばらにされた異形は、軽い音を立てて地面に落下すると、体を崩壊させる。


(核がない・・・・・・。それでも絶命したのは、再生できる肉体の大きさに限度があるからか? そもそも種類が違うという可能性もあるか)




 フォルナが思考する傍ら、キコを屠った異形はじっとフォルナを凝視していた。

 思考はあやふや、ただ敵が最も嫌悪することを感じ取り、ゆっくりと内から蝕んでいくことだけを遂行する、病原体に近い存在。


 さて、目の前の存在をどうするか。

 エルフ相手には沸き起こらなかった選択肢が一つ。


――呪いを植え付ける


 高度な呪いは幾らでも使用できる訳ではない。

 制約と対価の中で、身を切り崩しながら行うものだ。

 そして今、天秤は眼前の強者と均衡した。


 フォルナが最後の異形に視線を定める。

 そして同じようにまた歩み始める。


 緊張感が高まり、誰かがごくりと唾を飲む。

 嵐の前触れ、激しく衝突し合う両者を想像したのかもしれない。


 異形が動く。


「リアム流、余韻嫋嫋(よいんじょうじょう)


 否、動こうとして、視界に異変をおぼえる。

 ほんの先にフォルナの姿が見えていて、それでいて己の体が動かせないことに気付いた。よくよく見れば、フォルナの背後に己の胴であったものが視界の端に見切れていて、フォルナの腕がこちらに伸びている。


 そこでようやく、首だけになった状態で頭を掴まれ持ち上げられていることを理解する。


 一つ瞬きをすれば、肩越しに見る胴は遅れて斬られたことに気付いたように、散り散りに崩れ落ちる。


「これも核がないか。それに・・・・・・」


 背中越しに、切刻んだ異形の動きを察知する。

 肉体は崩壊することなく、霧に近い姿をとる。掴んでいた頭部も同様に霧となり、フォルナの背後に回る。


 それだけではない。

 崩壊しきっていない他の異形の肉体も追随するように霧化し、一つに集まる。


「再生? それともなにかの集合体だろうか」


 およそ5メートル。見上げる程の巨大となった体躯。

 頭部に8つの目玉が生まれ、フォルナを視認するや、鈍重に見える肉体からは考えられない速度で疾走し腕を振るう。


 一閃、腕を根元から斬るが、再度霧化し瞬時に元の姿に修復される。


 幾ら攻撃しても無駄だと思わせる存在にエルフが息を呑む中で、顔色を何一つ変えずにフォルナは異形と対峙する。


 蹴りを回避し、【衝撃波】を伴う掌底で破壊、関節全ての切断、五体の分離。


 異形はフォルナに魔法の術がないことを確信した。


 悪意が膨れる。

 異形は嗤うかのように目を三日月に歪める。

 決定的な能力が欠けていると判断したのか、虫の足を千切り取り身動きができないようにと思考するに等しく、異形はこの場でのフォルナの守ろうとしている者達へと意識を向ける。


 同時に、この場で脅威となり得る魔法を操るエルフ達。

 異形の体から無数の虫の形をした小型の異形が飛び出した。大半はフォルナへと、しかし一部はエルフの元へと飛翔する。


 体力、魔力共に尽きかけているエルフ達では対処が難しい。

 確実に数人は致命傷を受けると踏んでの攻撃。


「くッ?! 簡単にやられて――」


「動くなッ!!」


 叫んだのはユナン。

 襲い掛かって来る異形に対処しようとしたエルフが肩をびくりと揺らして動きを止める。


――リアム流、叫嵐(きょうらん)


 鼻先になにかが掠ったような感覚だけがした。

 驚愕、疑問、絶望、そして畏怖。


 瞬時の間にあらゆる感情が錯綜する中、


「馬鹿、な」


 なにかを行動を起こす前に行使された技の結果にそう反応する。


 フォルナを中心とし、サークル上に全てが更地と化していた。

 あれ程猛威を振るっていたはずの異形の姿は形も見えない。霧になれるはずの存在が再生できない事態に理解が追い付かずに、脳を疑問が巡りながら地面に尻をつく。


「ある程度の特性は理解しました。少し奥に行ってくるので、皆さんは村で手当てをしていて下さい」


 異形の特性、そしてなにか狙いがある動きをしていたため少々泳がせていたが、一人ではない戦場ではこれが限界かと早々に終わらせ、フォルナは崖の奥へと視線を向けた。


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