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終焉都市の雑草~凶悪な魔物達に侵略された都市で、たった一人の生存者~  作者:
第二章 森の守護者編

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33話 侵食

 驚愕、未知に対しての畏怖を抱いた少年たちは一様に目を見開いて眼前の現象の解を考え、混乱する。


「魔法は凄い。が、このように万能ではない」


 四人の少年少女達の魔法。

 中級に迫る多種多様のそれらをフォルナは全て無傷で当然の如くさばききった。


 最初の一撃を除いて闘気すら纏わずに、手刀と辺りに転がっている石と枝のみで魔法を消失させる技は傍からみれば手品にしか見えない。


 そして驚きを露わにしたのは子供達だけではなかった。

 傍で見ていたカローナもフォルナがどうやって防いでいるのか理解できないでいた。


(魔力を使っているようには感じない。どのようなスキルかしら?)


 カローナ自身も子供達の魔法の対処は可能だ。中堅の冒険者達も赤子をあやすように容易にこなすであろう。

 ただし、スキルや魔法を用いてという枕詞が来る。

 スキルは言わずもがな、魔法は相性のいい魔法をぶつけるだけで相殺できる。


 対してフォルナは一切の魔法とスキルを使っていない。

 研ぎ澄まされた超感覚で魔法の粗となる部分をついて術式を分解しているのだ。高速で迫る魔法に対し弱点となる部分を一瞬で把握し、誘爆しないように一寸のぶれもなくつくなどという神技。それが分かる存在は限りなく少ない。


「はぁ、はぁ・・・・・・」


 魔法を幾度となく放ち息も絶え絶えになる子供達。

 それら全てを受けているはずのフォルナに疲れは全く見れない事に口を堅く結ぶ。


「この程度のことならこの村の大人たちなら容易にできることだろう。それだけの実力者が揃っているということだ」


 俯く子供の頭に手を乗せて視線を合わせるようにフォルナがしゃがむ。


「大人は強い。少しは信じてみてもいいと思うぞ」


「でも・・・・・・」


 それでリリクおじちゃんは帰らなかったじゃないか。と口元まで出かかった言葉を少年は呑み込んだ。死んだリリクは講師であるカローナの弟であったからだ、親族が死んだことをここで発するべきではないことをなんとはなしに理解している為に少年はどうしようもない揺れた視線を向けるに留まる。


「お前たちが考えるべきは敵を倒すことじゃない。どうやって生き残るかだ。今その脳で考えられる最悪の展開になった時の備えは必要だ」


 敵を倒すという発想は、優位に立っているか、逆に窮地に追い詰められている時に発生する思考だ。そして子供たちが考えているのは明らかに前者の場合の思考である。


(この場所が安全だと信じ切っているのだろうな)


 分からなくもない、とこの地に訪れて感じた穏やかさを思い出しながら目を伏せる。

 しかし、それが逆に最悪の結果が起こるはずがないという気の緩みに繋がっている。


「ユナンさんの思いを汲むに、全滅だけは避けたいようだからな」


「え?」


 フォルナは立ち上がり、空を見る。

 視線の先には一羽の鳥類。先程まで村を見下ろすようにして木の上で立っていた鳥だ。


 その行く先は崖の方面だった。







 澱んだ空気の中をしばらく進んだ先、木々に隠れながらエルフの斥候が崖上から見下ろしていた。


(何だ、あれは)


 村の中でも秀でた能力を持つが故に進んで異変の状況を伝える役に志願した彼は、自身の知識にない存在を目にして鼓動が早くなるのを感じていた。


 見た目は人型、ただし全身が黒い。

 総じての共通点はその2つ。それ以外はばらばらの特徴を持った異形が、複数体、崖に挟まれた地で蠢いていた。


 目が複数あるもの、腕が異様に長いもの。

 その造形はわざと恐怖を引き出そうとしているかのように醜悪で、嫌がおうにも怖気を振り払うことが出来ない。


 エルフが集団の後方に視線を向ける。


(・・・・・・取り分けあいつは異常だ)


 集団の後方で岩の上に鎮座する一体。

 体長は三メートル程、他の異形と比べ五体の比率は均等がとれており最も人間の肉体に近い。


 その一体の周囲は目に見えて分かる程に濃い瘴気で満ちていた。

 目を凝らさなければ異形の輪郭しか分からない濃密な瘴気の中、石の上で鎮座し微動だにしない異形。


 しかし、瘴気に触れた周囲の環境はその様相を変える。

 地は色を変え、植物は生命力を失い、動物は行動が苛烈になる。

 触れた先から風化するかのように死んでいく大地を見れば生命力を吸収するようにも見え、暴れる動物や魔物を見れば新たな力を授けているようにもみえた。


(あわよくば発生源の確認と思っていたんだが、あんなのがいたのでは難しいな)


 それよりも、現状は敵の戦力を正しく村長代理のユナンに伝えるのが先決だと異形に注視する。

 僅かな動きも見逃すまいと目を細めると同時、森の草木を掠め、振動を起こしながらなにかが迫って来るのを感じた。


 緊張を高め周囲に警戒を回したエルフの視界に映ったのは白い毛で覆われた四足歩行の魔物。それが対崖の崖上から飛び出し鋭爪が異形達に振るわれた。


「ッ!!」


 鋭利な爪と牙を持つ魔物。

 この森では脅威として知られるAランク、【キコ】と呼ばれる虎型の魔物である。


 特徴として挙げられるのは、この魔物は一つの生態として炎を操る性能が生まれた段階で備わっている。空に溶け込むかのような蒼炎。その炎は並みの防具を触れずとも熔解させるほどの熱量を持つ。


 加えて恐るべきは、しなやかに動く肉体の柔軟性と並外れた筋力である。

 地面を割る脚力で飛行する魔物さえも狩る姿が度々観測され、直線状にいる対象はキコの爆発的な初速に転移しているようにしか見えないとまで言われる。


(こんな所にAランクか! にしても様子がおかしい・・・・・・)


 他の生物と同様に目が血走り平静を失っているようだった。

 しかし、己に干渉している不快ななにかを感じ取っているのか無差別に攻撃する訳ではなく、その憤怒は異形共に向けられる。


 蒼炎が爪と一体化するように纏わりつき熱が周囲の光を屈折させ陽炎が見える。

 低い唸り声を上げながら踏み込みの動作が見え、次の瞬間にはキコの前方に位置した三体の異形の体が両断された。


 流石の戦闘力に感嘆するように苦笑を漏らすエルフはバラバラにされた異形にまだ息があることに気付く。


(あれで死なないのかっ?! 三体全てがということは、まさかその再生力は生物としての機能の一つなのか)


 バラバラにされた部位だけで蠢く姿はまさに異様。

 地獄の亡者が苦しみに藻掻きながら生者に取りつこうとするかのような執念のようなものすら感じられる。

 体が完全に戻らないのは断面が炭化して体の一部として認識できていないからだろうか。


 キコが吠える。

 異形共は恐怖を抱かないのか、恐れる様子なく続々とキコに飛び掛かり各々が攻撃を起こす。


 エルフから見た異形共の戦闘力は魔物のランクで見ればCランクといったところ。

 数は多いが決して対処できない相手ではない。回復能力は脅威ではあるが、どうしてかスキルを使う気配がない。


(スキルがない、のか? 楽観はできないがわざわざ使わない道理などないだろう。それに、決して不死身という訳ではないらしい)


 数体程動かなくなり、灰のようにぼろぼろに体が崩れいくものが見える。

 死に際に僅かに見えたが、壊れた球体のようなものが見えた。臓器は見えない中でそれだけが体内に存在する理由は活動する中で必要であるからだと当たりをつける。


 キコが一際大きく怒声を放ち、周囲に炎の渦を発生させる。

 成すすべなく異形共が文字通り灰と消える中で、後方に控える異形へと目を向けた。


 後ろ脚を強く蹴り出す構え。

 客観的に見て圧倒的な強さを持つのはキコだ。それに再生能力の効果を半減させる炎の操る特性は相性がいい。


 ここでようやくキコは己のスキルを発動した。

 数は3つ。それぞれ速度を倍にするもの。接触時に相手を腐食させるもの。さらには光を屈折させて姿を眩ませるスキル。


 姿の見えない駿足の一撃を初見で対処するのは至難の技だ。

 異形がスキルを使えないのなら尚更の事どうしようもない状況に見えた。

もしかしたら森の生態系だけで解決できるかもしれないとエルフが僅かに希望を抱く。


 割れる大地。

 歪む光に、振るわれる巨爪。


 その一撃は崖に巨大な三つの爪痕をつけた。


 ただ、それだけ。


 頭部だけになったキコを片手で掴む異形。

 攻撃による衝撃か宙を舞っていた体がどしゃりと音を立てて地に沈む。


 同ランクの魔物では相性を考慮してもここまで一方的な展開になることはない。

 僅かの一合で決着が着いたという事は即ち、この異形がキコよりも上位のランクに位置する事を意味する。


 エルフの男は迷うことなく懐の魔道具を手にする。

 恐怖も気配を押し殺した動きではあったが、異形は無造作に腕を振り衝撃がエルフがいた場所を吹き飛ばす。



「・・・・・・はぁ、はぁ」


 死んだかと思われたエルフの姿は村にあった。

 手には先程懐から取り出した石、魔道具の一つである転移石が握られている。一度限りの貴重品で役目を果たし石に亀裂が入った。


「おいっ、なにがあった?!」


 男に気付いた村人がそう呼びかける。

 心配と驚愕がない交ぜになった声音の理由は、男の左腕が根元から無くなっていたからだろう。


「ぐっ、くそっ鈍ったかね。代理に話がある。崖の状況について話がしたい。少し肩を貸してくれ」


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