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終焉都市の雑草~凶悪な魔物達に侵略された都市で、たった一人の生存者~  作者:
第二章 森の守護者編

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32話 授業

 翌朝の村の動きはどこか慌ただしかった。

 少し村の中を歩けば緊張で表情を固くしている人物の姿が幾らか目に入る。


 中でも最も変化が顕著であるのはイナであろう。

 昨日の夕飯でユナンが漏らした情報に手を止めて唇を僅かに震わせる姿は傍から見ればただ事ではない。


 今日は早朝から離れ家に籠っているようで、朝食だけは机に置いた状態で食卓には顔を出さなかった。


(防衛に回ったか)


 全体の動きを見てそう判断する。

 そしてフォルナは会議のおおよその結果を思い浮かべた。


 まずは調査隊の増加。

 村にきた当初から狩人のルグ以外にも動いている人物がいることは察していたが、今日は加えて数人が防具を固めているのが分かる。


 そして崖の周囲を調査していたであろう人物。

 フォルナが村にきてからまだ顔合わせをしていたないエルフが一人、防具を固めたエルフ達を統率するように声を掛けているのを見れば明らかだ。


 不意に視線が合い、当の人物が会釈する。合わせてフォルナも頭を下げるが、すぐにエルフは移動に移った。


(警戒されているな)


 ただでさえ喫緊の問題に注力しなければならない中でフォルナのような異分子がいれば警戒も増すというもの。フォルナもそれを理解しているため声には出さない。同時に混乱を招かないように自分から解決しようとも動かない訳だが。


「おっ、旅人の兄ちゃんじゃないか」


 喋りかけてきたのはイナに連れられ村に来た際に門番をしていた男だ。

 確かイナにはフリックと呼ばれていたことを思い出す。


「どうだ、村には少し馴染めたかい」


「おかげさまで」


「そりゃよかった。イナは押しが強いからな、もしかしたら迷惑に感じてるんじゃないかと思ったが、取り越し苦労ならそれでいい」


 軽い世間話を何度か交わし、フォルナは先程から気になっていたことを質問する。


「それは?」


 指さした物はフリックが手に持っている箱だ。

 そこまで大きいものではない。片手で持てるサイズの箱型のなにか。おそらくは魔道具であろうそれの用途を問う。


「こいつは人払いの魔道具だ。人の認識を誤認させる事で無意識のうちに対象の場所から離れさせる効力を持っている」


「そんな効果が」


 効果範囲は兎も角その効果を聞けば是非とも一つは入手しておきたいが、これもまた高価なものなのだろうと渋面になるフォルナ。


 この村を離れた際はまずは金銭面の調達をしようと、目標の一つに加える。


「しかし、魔物にはどの程度の効果が?」


「人にもたらす程のものは見込めないが、この広い森であれば特定の範囲を見つけること事態も難しいだろう。そう考えれば若干認識しづらい程度でも十分なのさ」


「・・・・・・なるほど」


 本当にそうだろうか、と魔物が取りうる行動で打破してくるようなものがぱっと幾つか思い浮かんだものの、森の生態を完全に把握していないためフォルナは口を噤んだ。


 背を向け門へと向かうフリックを見送り、フォルナはまた村の中を歩き始める。


 ただ観察のために歩いている訳ではない。

 朝方にユナンからある事を頼まれ、その目的地に移動しているのだ。


 というのも、一次的に狩人の仕事は見送ることとなった。

 理由としては崖が不穏な状態であることと、森の生物の様子に異変が生じているため、少数での行動が危険であると判断したためである。


 そして狩人の仕事を手伝えない代わりに新たな手伝いを頼まれた。


『フォルナ君、よければ子供達の面倒を見てくれないだろうか』


 ようは子守りである。


 ただ、フォルナに頼んだ最大の理由は“もしもの時の保険”だ。

 ユナンとしてはフォルナを呪いに巻き込むつもりはない。しかし、もしこの村のエルフだけで勝てないと判断したのなら、子供達を連れて逃げて欲しいとの意味を込めてフォルナに頼んだのだ。


 頼まれたフォルナはその真意には気付いていない。

 が、なにかしらの意図はあるのだろうと思いながらも、提案を受け入れた。


「ここか」


 門とは反対側に位置する木造2階の建物。

 腰高の柵で囲まれた修練場と連結されたここは村の集会所になっている。重要な会議等はここか村長宅で行われる。その他の用途としては、子供達への教育の場として活用している。


 扉を開け中に入る。

 ホールの途中右手側が集会室、左手側が調理室や事務室、奥手が便所や物置だ。階段を上がって二階もあるが、いくつかの個室があるのみだ。


 そのままフォルナは声の聞こえる右手の集会室へと入る。

 並ぶ机、前面には木板に塗料を塗った黒板が見える。そして椅子に座っていた四人の子供が扉が開いた音を聞いて一斉に振り返った。


 いつか湖で見た四人の子供達だ。


「あっ! 人間のお兄ちゃんだ!」

「ほんとだ、何しに来たのかな」


 子供たちが各々の意見を言い合う中で、黒板の前にいた女性がフォルナの元へと近寄る。


「おはようございますフォルナ君。私はマローナ、ユナンさんから理由は聞いています。一緒にお願いしますね」


「こちらこそよろしく」


 三つ編みにした髪を片側から垂らし、どこか穏やかな雰囲気を思わせる女性はマローナと言った。


 子供のお守りと言っても遊ぶようなものではない。

 エルフが種族的に得意とする魔法の練習をするのだ。そのための教育係がマローナであり、フォルナはもしも危険があれば止めに入る役割である。


「さあさあ、まずは皆に自己紹介を」


 フォルナはマローナに促され、前に出る。


「名前はフォルナ、剣技を嗜んでいる。よろしく」


 言える内容と言えばこれぐらい。

 それ以上の情報は与えられないものが多いためかなり簡素なものとなったが、子供たちは興味津々の様子で手を挙げて質問を投げかける。


「何歳ですか!」

「確か今年で26だ」

「魔法はなにが使えますか?」

「いや、魔法は使ったことがない」

「魔物と戦ったことはあるの?」

「日常的に。何度か死にかけたこともある」


 たわいない問答が幾つか繰り返された後、頃合いを見てカローナが制止の声を掛ける。


「自己紹介はそれまでにして、そろそろ授業を始めましょうか」


 子供達に余程好かれているのか、彼等はまだ聞きたい事を呑み込んで授業の姿勢に入る。

 フォルナは講義の間は特にすることはないため、後ろの席で子供達同様に授業を聞く。


 魔法を使う魔物は多く見たが、己で使ったことがないフォルナにとって講義の内容は初めて知る事が多かった。


 まず魔法の発動。

 これは魔力さえあれば誰でも発動する事が可能であるらしい。


 問題は発動方法。

 魔法に関するスキルを手に入れる、もしくは詠唱する、それか魔方陣を用いることで発動できると、カローナが魔法を振り返りながら授業を進める。


(詠唱か)


 魔力はレベルによる恩恵で十分過ぎる程にある。

 後は詠唱を行えば発動するが、スキルによらない魔法は才能によって左右されるらしい。スキルは確実に到達できるものが保証されているが、スキルにない魔法を取得してもすぐに限界が訪れる可能性があるのだ。


 なるほど、どうりで師匠が魔法を教えようとしなかった訳だとフォルナは理解した。

 あの限られた時間の中ではそんな不確かなものを教えるリスクは省かれたのだろうと考え頷く。


 魔方陣については貴重な素材を魔力を通しやすい媒体に描くことで用いる。

 が、高位の魔法は陣が秘匿されているらしく、一般には流通されていないらしい。


「それでは演習に入りましょうか」


 一時間程度で講義が終わり、休息の後併設された修練場に移動した。

 修練場には四体のかかしが立っている。どうやら魔力に耐性が与えられているようで練習に用いても早々に壊れないようだ。


「・・・・・・凄いな」


 幾つもの魔法を眺めながらフォルナは一人呟く。

 年はそう高くない少年少女が苛烈な魔法を駆使している姿。都市にいた時では想像もつかなかったであろう。


 彼等が使っている魔法は初級の魔法ではあるが、スキルによる効果と日々使う事で向上した練度の高さによって、中級に迫る勢いを持っていた。


「この魔法で俺が崖の魔物なんて倒してやるぜ!」


 一人の少年が自信満々にそう叫ぶ。

 なにが起こっているか正確に判断はできていないようだが、なにかしらが起こっていることは子供ながらに感じ取っているようだ。

 カローナはその叫びに一瞬頬を強張らせ、すぐになんでもないように戻しながら少年の頭を撫でる。


「気持ちは嬉しいけど、危ないことは駄目だよ。今は大人の人が動いてるから、大人しくしておこうね」


「そう言ってもう一年は経ってるよ! 皆で魔法を使えば絶対解決することなのになんでか分からないよ!」


 村の大人たちを想っての発言なのだろう、それを分かっているからカローナは強く言えない。曖昧な表情でなんとか理解を得ようと言葉を紡ごうとするが、それよりも早くフォルナが口を開く。


「死ぬからだ」


「・・・・・・え?」


 突然の発言。なにを言われたか脳が咀嚼しきれないのか、少年は遅れて戸惑いの声を上げた。


「確かに魔法は強力で、見ているこちらからしても恐怖を感じる程だ。でも決して無敵じゃない。相手がどんな敵かも分かっていないんじゃ不用意に近づくべきじゃないんだ」


「で、でもっ何種類も魔法があったら一つは効果があるはずだろ!」


「少し試してみよう」


 後方で控えていたフォルナが足を進め、かかしと同じ場所に立つ。


「四人それぞれ魔法を撃つといい。加減はいらない」


「ちょッ?!」


 流石に危険だと感じたカローナが声を出そうとするが、それを制止するようにフォルナが手を出して止める。


「大丈夫。怪我の心配はない」


 暗にその程度の魔法では傷つかないというフォルナの台詞に苛立ちを覚えた少年がむっとした表情を作りながらじっとフォルナを見つめる。


「ほ、本当に撃つよ?」


「いつでもどうぞ」


 戸惑いながらも少年は魔力を操作し、魔法を発動する。

 初級であれば詠唱の必要すらなくなった練度の魔法。

 炎の初級魔法の『火球』。


 直径30センチほどの火の玉は一直線にフォルナに迫り、そして()()()()()()()


「・・・・・・え、は?」


 魔法の相殺ではない。

 単純に肉体のみで、使い方によっては容易に人を殺せる魔法を強引に掻き消した事実に子供達は目を見開く。火球を握りつぶした手が開かれるが、僅かな火傷さえ見れない無傷の掌が子供達の瞳に映る。


「色々と疑問があったのは分かる。だからその疑問に対しての回答を、理不尽な敵の姿を提示しよう。あとの三人も魔法を発動するといい」


 脅威と少年たち自身の尺度を正確に理解させる。

 かつての自分が生き残ってきた理由を教える事が子供達の今後に必要になるだろうと、目指す未来には夢物語では足りないことを伝えるために、フォルナは立ち塞がった。


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[良い点] 何回読み返したかわからないけど 本当に面白いですよ 毎日、更新されるのを楽しみにしております
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