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 3人が帰った1週間後、ツイッタ様からは大量の手紙が届いた。

 簡易的な挨拶に続き、まず初めに書かれていたのは、ピソタリア王国にある毒物のデータベースには今回の毒は存在しなかったこと。そして調べた毒物の名前がズラリと並ぶ。

 さすが植物の国と呼ばれるだけあってその量は膨大だ。シルフォニア王国で調べられる数の遥か上を行く。

 その手紙を頼りに、シルフォニア王国、そして私個人で検知できる毒物が他にないか探ってみたものの、悲しいことにそれは存在しなかった。

 

 一番厄介なのが、自作されていることだ。

 先代と同じものが使われていた場合、宮廷医師ですらその正体が解明できなかったものと言うことになる。

 私の体内から毒が含まれる血液を採取して、解毒作用のある薬を作り出すことも手段の一つだが、それにはどれだけの時間がかかるかは定かではない。

 少なくとも、王子にバレずに出産予定日までには間に合わせることは出来ないだろう。

 

 

 それに今はこの子を産み落とすことが先決だ。

 私を妻として迎え入れたことで、王家が潰れたなんてことになったら大変だ。

 手紙の最後に書かれていた『子どもが産まれるまでは安静にすること。いいわね?』の言葉をありがたく受け取り、今まで以上に安静に過ごすことにした。

 

 一気に大人しくなった私を王子は訝しんだものの、母としての意識が芽生えたのだと熱弁すれば王子は優しく私の頭を撫でてくれた。

 嘘ではない。

 私は母になる。

 そしてその子が元気に産まれてくれた後は、この命を賭してさえもその子を守り抜くと誓ったのだ。

 

 

 その数ヶ月後、予定日ぴったりに元気な男の子がこの世に生まれ落ちた。

 私達の元に産まれてきてくれた男の子に『リオネス』と名付けた。

 体重も赤子の平均値よりも重く、城内に響き渡る泣き声は彼が健康であることを何よりも証明していた。

  目の辺りは本当に王子そっくりで、今から王子と陛下の心を鷲掴みにして離さない。彼はきっといい王子になることだろう。

 

  ……その時、私は彼の姿をこの目に収めることが出来るかは定かではないが。

 

 僅かな時間だろうと孫と離れがたいと顔にありありと書かれている陛下の袖を引いた。

 

「お話があります」――と。

 出産したばかりで身体はまだ疲弊しているが、この話は早いに越したことはない。王子が公務でこの部屋には居ない今しか、陛下にあのことを話す機会はなかった。

 

 私は陛下にお話しした。

 手袋が黒く染まったことを。

 原因は毒物であることを。

 その毒物はピソタリア、シルフォニアの両国が保有する毒物データベースには存在しないことを。

 

 そして我が子を私から遠ざけて欲しいと。

 

「シルフィー、お主は死ぬつもりか……」

 隠していた事情を話し終えた私に陛下は声を震わせながら問う。そう思われても仕方がないだろう。

 だが私はせめてもと瞳には力を込めて、陛下に伝える。

「私は死ぬつもりはありません。もちろん我が子を死なすつもりも。けれどその毒がどこからやってきたのかわからない以上、複数の毒物に抗体がある私はともかく、そうではない陛下と王子、そして赤子であるリオネスには『何か』があってからでは遅いのです」

 

 結果的に私は毒に負けてしまう可能性だってある。けれど王子と我が子を残して死のうだなんて思うはずがない。

 

 

「……わかった。だが決して無理だけはするな。お主は王子妃だ。その命が自分のものだけなどとは思うでないぞ」

「はい!」


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