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 昼の時間にルイが加わるようになってから数日が経ち、王子はすっかりルイと馴染んだようである。


「ルイ、それ取ってくれ」

「あア。卵焼キも食べるカ?」

「ああ、よろしく頼む」


 今では中心に置かれたお弁当箱からお皿に取ってもらうように頼むほどにすっかり仲良しさんである。


「シルフィーは何ガ食べたイ?」

「唐揚げとサンドイッチで」

「わかっタ」


 ……というよりもルイが世話焼きであることが大きく反映している。今ではすっかり私も彼に頼りっきりだ。



「あ、そうだ。明日から1週間留守にするが、くれぐれもツィッタの誘惑には乗るなよ!」


 一足先に食事を終えた王子は口を拭うと、思い出したかのようにそう切り出す。

 相変わらずツイッタ様への対抗心はメラメラと燃え盛っているようだ。


「誘惑ってそんな……」

 それにしても誘惑とは。もっといい言い方がなかったのだろうか?


「研究施設なら帰ってからシルファニアの王城にも作ってやるから」

「……王子の目には私がそんな研究施設でホイホイついていくほどアホな女に写っているんですか?」

「ああ」

「そうですか……」

 

 王子の目にどう映っているのかはこれ以上言及すると、私への打撃が大きそうなので受け流すことに決める。


 彼がいつもよりもしつこくそう言い聞かせるのは明日から生物専攻の生徒達が揃って学園を留守にするからだ。1週間かけて国中の施設を回るらしい。もちろんそれは留学生の王子であれど例外ではない。

 

「いいか? くれぐれも俺の婚約者であることを忘れるなよ! 後、どうしても何かある場合はルイを頼ること! いいな?」

「任せテおケ」


 なぜこうも私には信用というものがないのだろうか。


 強く念を押す王子と、とても頼りがいのあるお兄ちゃんといった様子でまっすぐな視線を私へと向けるルイ。そして「何かあったら遠慮なく頼ってくれてもいいのよ?」とツイッタ様とフィリップ様にも名乗りをあげられた私は渋々ながらも頷いた。


 最後にもう一度「お前は私の婚約者だからな!」と念を押してから、今日の午後の授業は全て休講となった王子は最終準備をするべく、その場を後にした。

 彼は私に王子の婚約者としての自覚を持って欲しいようだが、私はこの1週間、私という婚約者を忘れて欲しいとさえ思っている。


 なぜならこの1週間の旅には王子の運命の相手候補の方も参加するのだから。

 

 生物専攻科に特徴的な頭髪の女子生徒を見つけたのは今から3日ほど前のことだった。

 私がこの国に来た時には確かに居なかったはずのその少女は、気づけば当たり前のようにそこに居た。

 今までのヒロインさん達と同じように。

 そして彼女は無闇やたらに近寄るのではなく、いつが王子と接近できる絶好の機会なのかを窺っているようだった。

 王子の視界には今のところ入っていない様子だが、1週間もあれば人の気持ちなど変わる。運命に決められた相手ならなおさらだろう。

 今回の遠征は生物専攻科の生徒しか参加できないため、私は何もサポートをすることは出来ないが、その方が王子のためにも相手のためにもいいのかもしれない。

 なにせ私はシルファニアでの1年間、ここぞとばかりにヒロインさん達を王子の前から退け続けたのだから。

 

 おそらくこの1週間がピソタリア留学での最も重要な期間となることだろう。

 

 私が出来ることといえば、私の目の届かない場所で2人が結ばれることを願うことと、国王陛下への事後報告くらいなものだろう。

 

 自分の無力さに打ちひしがれる身体をベッドに沈めるが、深いため息と共に出てしまった睡魔は一晩中戻ってくることはなかった。


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