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アラクネさん家のヒモ男  作者: 花黒子
中央町の生活
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47話「旅のテーマ」


 3日ほど宿場町で過ごし、ターウの足が動くようになったところで、辺境へ送り出した。


「本当に一人で辺境まで行くの?」

 ターウは単独で旅をするのが怖いらしい。


「大丈夫。かわいい子には旅をさせろという諺があるくらいだから」

「でも、私が逃げ出すっていう可能性はあるでしょ」

「あるけど……、他にどこに行くの? 山賊になったりするより、辺境の会社を訪ねた方がよっぽど安全だよ」

「そうだけど……、コタローが辺境に戻ってきたら、私はいないかもしれないじゃない?」

「事情が分かれば、それでも別にいいけど」

「人間って変わってるのね」

「人間が変わってるんじゃない。コタローが変わってるんだ」

 ロサリオがターウに教えていた。ロサリオはターウと話せたことで、旅の緊張も解れたらしい。


「俺たちも行こう。北に向かう荷馬車の護衛の仕事を見つけた」


 リオは路銀を稼ぎながら、修行する方法を見つけていた。


 馬車にはリンゴや小麦粉の他、雑貨やお菓子なども積まれている。露天商が少ないため、時々大森林の中を回って、食料品を物々交換しに行くのだとか。


「やあ、君らが学校の精鋭かい? 小麦の袋以外は小分けにして売るから。人手がいるんだよ。全員、計算はできるって聞いたけど……」

 化け猫の店主が馬車の中を見せてくれた。


「少しはできますよ」

「そうか。ならよかった。ドラゴンに、サテュロス、君は……?」

「人間です」

 化け猫の店主はギョッとして、俺をじっと注意深く見てきた。


「本物の人間かぁ。聞いてはいたけど中央は進んでいるなぁ。魔物にもいい者もいれば悪い者もいるから気をつけるんだよ」

「わかりました」


 店主は看板を荷物が落ちないように荷台に嵌めた。店の名は『センリ』。店主の名前か。元々は化け狸がやっていたが、引き継いだのだとか。


「馬も年取っているし、大森林は道が曲がりくねっているからそれほど速くは進めない。ゆっくり歩いて付いてきてくれればいいよ」

 店主は優しかった。早く売らないといけない商品があるわけでもないのだろう。


 馬車は本当にちょっと早歩き程度の速度で進み、カーブを曲がる時はかなり速度も遅くなった。  時々、野盗に襲われるそうだが、それほど高価な商品があるわけでもなく、いつもは荷台を見せて僅かなお金を渡すのだとか。


「それが、ここ最近は、荷台ごと盗もうとする奴らも出てきてしまってね。貧乏は大変だよ」


 貧困が山賊になるルートになっていることが問題だと、化け猫店主は理解しているのか。


「でも、産業が見当たらないってことですかね?」

「まぁ、そうなるな。昔は中央に家を建てたり、船を作ったりするために、随分木を切ってたんだけど、家も船もできてしまったら、何年でも使うだろ? メンテナンスで少しは仕事もあるけれど、職人も年老いちゃってね。しかも、中央がここまで活気づくと若者の成り手が少ないんだよ」

「自然に都会と田舎ができるんですね」


 どこの世界でも似たようなことが起こるのか。


「ありゃ、これはマズいな……」


 突然、センリの店主が御者台から森の中を見回した。

 森の中に狼が3頭、こちらを窺っている。


「どうする?」

 リオは歩きながら剣の刃を研いでいた。

「皮だけでも金になるぞ」

「やるかい?」

 ロサリオも肉に切れ込みを入れて眠り薬を突っ込んでいる。俺たちの昼飯が……。


 俺もアラクネの紐を取り出した。紐は火で炙って硬くしてある。


「やろう」


 リオの声で、俺たちは一斉に動き出した。


 グゥオオオッ!


 リオの雄叫びが森に響く。威嚇と言うよりも注意を集めるのが目的だろう。


 俺は木々の間にアラクネの紐を結び、罠を仕掛けていく。動きにくくするだけで十分だ。

 ロサリオが罠の手前に肉を投げた。草木が揺れて、狼たちが落ちた肉に飛び掛かった。


「食った」


 ロサリオが拳を握っていた。

 肉はしっかり狼の腹に収まったようだ。しばらくすれば眠り薬が効いてくるはず。


 リオが大声を上げながら、背の低い木を切り飛ばして狼たちを追い込む。

狼の群れが一旦体勢を立て直そうとしたところに、俺が仕掛けたアラクネの紐が絡みつく。


後ろ足が引っかかり、アラクネの紐を口で取ろうとしてまた引っかかる。こんがらがった狼たちが、子犬のような声で悲鳴を上げた直後、徐々に瞼が閉じていく。


「最後の一撃はなるべく苦しまないように」


 リオは、狼三頭の頸椎を剣で突き刺した。


「ちょっとだけ待っていてもらっていいですか?」

「ああ、構わんよ。急いじゃいないさ」


 センリの店主に断りを入れて、狼の死体を抱えて川原まで行って血抜き。解体を済ませた。肉は、また魔物に襲われた時のために油紙と獣の革に巻いて取っておく。


「すみません」

「いや。もういいのかい?」

「ええ。皮もしっかり取れましたから」


 リオは肉屋でバイトをしていたから、作業は速かった方だ。


 大森林の奥は起伏も激しく、雨が降れば増水して渡れなくなる道もあるらしい。その日はなるべく寄り道せずに進んだ。


 日暮れ時に宿場町と言うには少し小さな、5件の宿と茶屋がある集落に辿り着いた。東西に分かれる道の分岐にあり、休憩のための宿のようだ。狼の皮は宿の女将さんが買い取ってくれた。


「狼が3頭も獲れたなんてここら辺じゃ珍しいからね。しかもこんなに黒くて艶のある毛並みは若い狼だろう。鞣してしばらく飾っておくよ」


 僅かな銀貨と大量の料理に寝床と交換した。

 夏ではあるが野菜と猪肉の味の濃い鍋が溜まらなく美味しかった。柑橘の皮と山椒を混ぜた調味料が特産なのか、いくらでも食べられる。


 センリの店主は集落でも店を広げ、商い中だ。少し荷物を減らして、馬を楽させたいという。道がきつくなるのは、まだまだこれからだそうだ。


 俺たちは満腹状態でベッドに寝転がった。


「なぁ、これって修行になっているかな?」

 リオが天井を見上げながら聞いてきた。


「なっているんじゃないか」

「今日の狼は戦いではなく狩りだからそう思うんじゃない?」

 ロサリオは戦闘と狩りを分けて考えている。無理に戦う必要はなく、相手を仕留めるのが狩りだ。戦闘はお互いに命やプライドを賭けていると説明していた。


「だったら、戦闘の修行ではないのか……」

 ぼんやりとリオは修行の効果を疑い始めていた。


「鍛錬と修業は違うっていうしな」

「どう違うんだ?」

「目的があって達成するのが鍛錬。覚えたらそこで終わりさ。目的を達成しても精度を上げるために何度も繰り返しやるのが修行かな」

「なるほど、どっちがいいんだ?」

「どうなんだろうな。この世界は明確にスキルがあるからなぁ。目指しやすいよな」

「コタローは、違うのか?」


 レベルとスキルがこの世界では重要なはずだ。それによって、魔物の町では住む場所すら変わってしまう。だからなのか、レベルがない世界を生きていた俺には違和感がある。


「俺が前に住んでいた世界で、総合格闘技っていう何でもありの肉弾戦があったんだよ。そのチャンピオンがさ『精度はパワーに勝り、タイミングはスピードを凌駕する』って言ってたんだ。俺はそれを信じていて、修行も鍛錬もどちらも大事だけど、目指していることをはっきりさせた方がいいと思うんだ。ずっと木を切っていても家は建たないだろ?」

「そうか。目的か……」

「何を身につけたいのか。強さっていう漠然としたものを一度解体していけばいいのか」

 ロサリオまで納得していた。


「打撃もちょっと打つ箇所がズレるだけで、全然痛みが違うだろ?」

「確かに。精度とタイミングか……。実戦があれば、圧倒的にそっちだよな」

「精度を上げるのに修行が必要で、タイミングを知るのに経験が必要なんじゃないか?」


 ロサリオは論理的な思考能力が高い。

「その通りだ」

「ちょっと待ってくれ……」

 ロサリオが跳ね起きて、ノートを取り出して木炭で狼の狩り方を順番に書き始めた。


「狼を仕留めることが最終的な目的だとして、ここに至るタイミングを考えるといくらでも方法があるじゃないか」

「俺たち3人は何となく狼を狩れてしまったけど、準備ができればもっと効率的な方法があったよな?」

 リオもベッドから跳ね起きた。

「逆にまったく準備も武器もなかったら、どうやって狩りをしていた?」

「それを想像しだすと経験値が溜まっていくんじゃないかな……」


 腹いっぱいで眠くなっていた脳みそが、急激に働き始めた。


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