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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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389/389

ど根性令嬢、お子様な王様に嫁ぐ

 結婚しろと父にほざかれた。

 ザッケンナ。現実みろ。


 我が家は貴族とは名ばかりの貧乏一家である。



 とりあえず我らが城、我が四阿あずまやを見てほしい。

 そこらで拾った薬草の匂い。

 誇り高い家というか埃臭いおうち。


 妹たちが頑張って飾っている花も所々萎れて元気なく、光あふれるうつくき様子はすなわち隙間風放題。昨日はニワトリから卵をもらい今日は川から弟がカニを取ってきた。

 かくも瀟洒しょうしゃな食卓を囲む『貴族らしい』生活を。



 わが家の食費は私の裁縫にかかっている。

 その状態で幼い弟や妹を捨てて結婚しろと……ん?


 まさかまさか。

 お父様わたくしに娼館に勤めろとかおっしゃいませんよね?



「ねぇよ」

「そうですか」


「腐ってもうちは『ゴミのオルディール』だぞ。この『車輪の王国』が三国時代の頃から続く魔導士の名家だ」

「私にはその才能、一切ありませんけど」


「案ずるな俺にもない」

「自慢することではないでしょう!」


 なんせ女好きで浮気性の父はあちこちで遊び歩き、莫大な借金を作って時々現れては私に無心しまたどこかへと消える道楽者である。


「我は悲しき歌うたい。岩を枕に恋をしとねに草の上に横臥おうがし薪を数える……」

「一瞬身内とはいえ美声に惚けてしまいました。つまり歌って誤魔化すな」


 これでも詩才と音楽は誰にも負けないのだから厄介で、この歳になっても老若男女から熱いラブコールを受けて請われるままにどこにでも行く。


 あ、もちろん彼は男も女もイケる方である。

「アッアッー!」


 喉の調子を取り戻した父曰く。

「まぁ『ゴミのオルディール』の娘が娼館に勤めたらバカ儲かりしそうだが」

「否定は致しません。この美貌ですし」


 私はオルディールの典型でそばかす顔だが、先祖代々面食いなのもあって顔立ちとか体型には自信がある。

 オルディールとしては背丈はそこそこに落ち着いてしまったが庶民を含めれば平均身長だ。


 そこ。チビとか言うな。



「おまえを嫁にもらいたいという酔狂な……コブラツイストはやめんかぁ!!」


 ぎりぎりぎり。

 これぞかつてイノーキとかいう転生者が先祖に授けた、家伝の宝刀である素手による捕縛技。

 素手の技に関してはグリンアースにも一家言あるというがうちの方が歴史は長い。


 とはいえ、私に縁談あるなら。

「ん? ケイブルですか?」

「あそこは景気いいだろ」


 ケイブルさんちは新興の子爵位だが、織物の売り上げが好調だ。


「じゃケイブルさんの本家のアイアンハート」

「うちの先祖がやらかしているから絶対ない」


 男爵もしくは騎士家は、公にできないがうちの先祖が跡取り息子暗◯して断絶しかかったのを残された婚約者(※うちの本家の生き残り)が継いだといういわくつきである。


 理屈の上ではオルディールとケイブルとアイアンハートは親戚ではあるが、父の述べた通り我々の窮状に対して私が何度もお手紙して親戚のよしみで徳志や技術提供を頂ける以外の交流はない。


「ミトンさんち」

「あそこは爵位は高いが元は陪臣家だしなあ」


 伯爵家はもともと別の家名を名乗っていたが、『夢を追うもの(ぼうけんしゃ)』たちに関わってしまったせいで不正の数々を暴かれてしまい、追求を免れた跡継ぎのボンを陪臣たちが盛り立てる形で再興した時に、『真銀の隼』と『零の女神』から一族郎党がかつて賜った妖精の髪を編み込んだたくさんの手袋の加護にちなんで『ミトン』を名乗るようになった経緯がある。


「ワイズマンだけは勘弁」

「安心しろ。俺もそう思う」


 代々仲良しではあるが、代々右手で握手しながら左手でボクシングする間柄だ。

 もっともあちらは魔導帝国のあった時代から王家以上の大金持ちである。今や落ちぶれたうちとは縁がない。

 私が信じられないほど賢明だったり一芸持っていればあのアルファベットの一族に加えられる可能性はあったが。



 うーん。うーん。

 繰り返すがうちは歴史以外売りのない家である。



 家伝を鵜呑みにするなら魔導帝国時代に遡る。

 絶えた家名を初代が名乗るようになったのだ。


 一度断絶しなけりゃ大陸西部にある『栄光の国』王家であるマーリックより古かっただろう。

 あっちは魔導帝国伯爵に対してこっちは一応侯爵だし。


 つまり、王家の関係者である公爵とかではないなら、単純に貴族としていえばうちは爵位だけならもっとも高い。



「相手は『我が国』王な」

「ガバァ!?」


 思わずお茶を吹きかけた。


「成り上がりのミスリル王家ですか!」

 グリンアース王家と大差ないじゃん。


 うちは代々『夢を追う者(冒険者)』と縁あるからなあ。


 もっともグリンアースは平民でありつつ血筋の上だけなら魔導公爵の直系だが。『吸血公爵』は魔導帝国が滅びた後も生き続けたため、彼の本拠地であった地の村人は全て彼の直系おてつきと言って良い。


 良縁……ではある。

 うん。


 血筋と歴史だけなら由緒正しい私と成り上がり王家ならまぁお互いメリットしかない。

 問題はかの方を私は知らない。なんで指名した。



「そりゃ俺あちこちの王宮で音楽と声楽の才能を」

「家に金入れんかいボケ親父!」



 ここで当然ながら結納金名目で割と大金が入って来ていたことが判明した。


 父が既に半分使い込んでいたが。

 私は彼にアイアンクローをかけた。



 とりあえず名前だけならうちは侯爵様である。


 領地売っぱらって長いし、陪臣たちも愛想をつかして去って行ったが侯爵様ではあるのだ。


 村のみなさんの慈悲に縋って養ってもらい、山賊や怪物が出れば率先して戦い、夜は内職昼は畑仕事を姉弟でやっていても侯爵様ゆえに必要なものは揃えねばならぬ。


 ああ。膨大な結納金が消えていく。


 この金があればおうちもなおせるし村の人たちにいいもの食べてもらえるし川から水引いたり井戸だって掘れるのに。



「おめでとうございますだ! おぜうさま!」


 村人たちは私を純粋に祝福してくれた。


 穀潰しの名前だけ貴族の私たちはこの村に住んでいるだけで徴税権などない。


 ぶっちゃけ徴税権などを代行している村長さんの方がホントは偉いのだが、村長さんは彼の経営する酒場兼宿屋でなけなしの催しを行って私を送り出してくれた。


 綺麗な糸束を編んでドレスを作ってくれた村長の奥さんはマジ尊敬する。

 こんなドレスは王都でも買えないだろう。

 まるで異国の姫君である。


 って私異国に嫁ぐのか。



 正直『我が国』の独立を名目上では『車輪の王国』は認めていないので微妙だけど異国には違いない。

 未だ『ローラ伯国』と呼ぶ人がいるくらいなのだから我らが『車輪の王国』とかの国の関係は察して知るべき。



 まぁ、そういう外交的なあれこれの懸念もあるが、『車輪の王国』の王様の名前でお祝い書いた紙を父が持ってきている以上臣下の我々が断れるはずもない。


 そんなこんなで『緑の海』と呼ばれる草原しかなく街道を作っても即草に覆われてなくなってしまう不思議地帯を越え私が嫁いだのは数カ月後だった。



 え、王妃教育?

 一応私は学問の覚えめでたいのよ。

 楽才は父の娘にしてはいまいちだったけど。



 ーーミスリル王家。


 破魔の勇者、天使の末裔、半人半馬の子、人魚の呪いを受けた一族。

 彼らのその姿は誰も見たことがないという。ーー



「おい、おい」

「なにぼうや」


 門の前で馬車を停め、入国を待っているとなんかガンガン馬車の扉が叩かれたので思わず下を見てしまったらちっこい子がべちべちと馬車の扉を叩いていた。



 なにしてるの。

 場合によっては誅される。

 とはいえ私には護衛の騎士すらいないのだが。


 どこか蜂蜜の匂いがする。

 高貴なおうちの子かしら。

 父はそんなこと気にせず娘に近づく不審な子供を一瞬で制圧した。

 しかしこの子には怯える様子もない。



「うん。この子見たことあるぞ」

「ぶらーんぶらーん?」


 父に襟首掴まれて遊んでる胆力はなかなかである。


「うーん。記憶にはあるが名前は知らん」「遂にボケましたか父上」



 父の目端の効きっぷり機転の速さそして何より相手の名前と顔と詳細なプロフィールを本人に会う前からことごとく覚える特技は紋章官も驚くほどである。



「伊達にえらい方々に媚び売って生きていないですよね」

「きみ、きみ、父にその態度どうかとおもうよ」


 もっとも彼はオルディール。その興味の対象はえらいひとに限らず庶民にも及ぶ。


 その人脈作りの才能は正直田舎娘の私のおよぶところではなくここだけは父を尊敬してもいいくらいだ。



「控えおろう。無礼であるぞ」



 父が雑巾かなにかのように首根っこ掴んでぶらんぶらんしている子供が抗議する。


 父が知らない相手それはすなわち暗殺者か何かだ。



「仮にも王の公娼だか妃だかになる者の馬車に乗り込んで来て何をいう」

 でも血の匂いはしない。したらわかる。



 暗殺者(?)にしては愛らしすぎ、子どもとしてはやたらムカつくお子様と父のやりとりで重大な事実に気づいた。



「そういえば私、妃として迎えられるとは限らないのですね」


 嫌な話だがそんなもんだ。

 わたしだって名前だけの貴族に生まれたくなかった。

 幼少期からの虐待に近い精進の数々を思う。

 その末路が妾だの側室だ。むしろ幸せなほうなのだが忸怩じくじたる思いだ。



 暗殺者で思い出した。

 今時ケイブルさんちも暗殺家業はすまいが、その首魁は我々の先祖なので大いに反省すべきであろう。


 この子が暗殺者でないという保証はない。


 齢六歳そこそこのうちの末弟を思い出す。

 見た目の歳は同じくらい。

 それでも暗殺者である可能性は捨てきれない。


 こう見えてもかつては暗殺者ギルドを裏で操っていたのだうちは。


 暗殺者と縁を切って以来見事に落ちぶれ、大陸に名を馳せたクッキー屋の方は何代か前に才能ある娘を冷遇してざまぁされたのでさらに落ちぶれこうなったが。


 うち、商才なさすぎて泣ける。


 それはそうと暗殺者でなければなかなか愛らしい子ではある。その子はわたしを見て宣った。



「オマエがアルディー『じゃ』か!」



 私の名前が異国風で発音しにくいのは今更だが、あえて表記すればアルディーアに近い。



 つまり『栗鼠りす』である。

 リス子姉ちゃんと弟妹は呼ぶ。



「??どうしてぼうやが存じているかわかりかねますが」

「オマエのことはなんでも知っている!」

 ふんぞりかえられても困る。



 余談だが同じように私の下の弟はライオン、その下の妹は子猫、さらに下の妹は虎、悪たれの弟はアナグマ(美人局)だ。


 全員母親は違えど、皆が皆とも、たちの悪い趣味人の血を引くオルディールの典型な性格である。



 私が裁縫と刺繍、弟が魔法(!)、妹は組紐、さらに下の妹は音楽、チビの悪たれは狩人志望でそれぞれ特技も異なる。


 もちろん男は痘痕顔の四角顔で背が高く、女はそばかす顔で鼻は低くやはり背が高い。背が低いのは私だけ……今のはなしだ。


 あと胸は。聞くな。

 ……先祖も小さかった。


 我が家において男は代々面食いかつ巨乳好きなのだが。



 ふふんと子供は私を見上げて一言。

 もちろん父にぶらんぶらんされたまま。



「ちっけぇなおまえ!」

「……ぐりぐりしていいかしら坊や」


「やめとけやめとけ。そのちっちぇ胸じゃ大した力は……いでで」



 ぐりぐりぐり。



「まぁ妃に名乗って無かったな。朕は『真なる銀。黄金の鷹黄金の尻尾白金の鱗の三姉妹育てし者の孫。夢追う魔狼の血を引く勇士』……まじめにきけ」


 眠くなっちゃったもの。


「ローファルカなり!」

「嘘おっしゃい。この国の王様、私よりいくつ歳上だと思ってるのよ」



 正直身売り同然だと思ってきているのだこっちは。

 代替わりしたなんて話も聞いていない。



「たしか……四〇……えっと五〇にはなっていないし大した差では……」

「わたし17歳なんだけど」


 指の数が足りず足の指を器用にうみょうみょ動かす幼児に私たちは呆れている。



「思い出した。今年で48歳。たった31歳差じゃないか。ちっちゃいことを気にするやつだ」

「私の方が1.5倍背丈ありますけど」


 彼は生意気そうな顔で私を見つめる。

 いや正確には私の胸元を。


 組紐のドレスは微妙に肌が透けていて間近でみられる想定になっていない。

 流石にトップは隠しているが。


 思わず胸を押さえた私に彼はニヤリ。


「お子様だな梨沙子は」「だから! 家族しか知らない名前を何故坊やがしっているのよ!」


「家族だから?」


 また妙なことを。


「具体的には」

 彼は父にぶらんぶらんされたまま、どこぞよりなんか大きな図面を取り出してくる。家系図だ。



 ミスリル王家は成り上がりのくせに4つもの家系がある。

 ややこしいことにそのいずれも血のつながりがない。



 一は真なる銀の隼。言わずと知れた勇者ファルコ・ミスリルの直系を名乗る。

 二は黄金の鷹。彼に養育された天使の末裔英雄フィリアスを祖とする。

 三は黄金のたてがみ。彼にやはり養育されたケンタウロスの姫君を祖とする。

 四が白金の鱗。やがて魔法の力で大成した人魚姫の末裔である。


 歴史的記録ではファルコ・ミスリルは生涯未婚だったはずなのに何故か『夢追う魔狼』との間に9人もの子供を設けたことになっている。


 この辺、王家というやつはどこも怪しいものである。

 その9人の子供たちがどうなったかもはっきりしない。


 建国神話なんてそんなものだ。



 その4つの家のだれかが王様やっているはずだが、マジでミスリル王家の連中は人前に姿を見せない。


 なんでも城の中に初代が建てた『ぼくのおしろ』と立札ついた掘立小屋がいまだあり、そこで政務しているというのがもっぱらの噂だ。


 ……話が長くなってしまったが、確かに私たちにはミスリル王家の血が少し混じっている。らしい。



 正確には建国王ファルコの腹違いの兄の血筋だ。



 建国王が兄君の娘が、どこにでもいそうな魔導士の研究員と結婚し、その二人の子供が暗殺者関係で我々の先祖となっている。

 姓も違うがそういうことらしい。


 そんなこと言い出したら貴族なんてみな家族になってしまう。



「尊敬する伯祖父、ピエトロの血を引くだけあって、なかなかの娘よ!」


 ……うん?


「父上。ピエトロって、『ピート(※ピエトロ)・フォン・アイスファルシオン・ミスリルシールド』とかなんとかやたら大仰な名前名乗ってる子?」


「……他にいねえな」

 昔からやたら偉そうな子である。


 頼んでもないのに『子孫を守るため』だとかいって居候を決め込んでいるのだ。


 そりゃ各種薬草への造詣の深さ、キジやシカやイノシシ、時としてクマふん縛って引きずってきてくれるのは助かっているけどさ。


「ピートのことなら、あの子今日もうちの弟のアナグマと村の人へ悪戯して村長さんからミノムシごっこの刑を喰らっているはずよ」


「建国王の兄君に何無礼かましてんだ!?」

 そんなこと言われても。


「あいつ女の子たちのスカートめくるしチーズ盗み食いするし。うちの姉も酷い目にあった」

 父の言葉に私も続く。


「離れに住んで家の手伝いをしてくれる姉のマイラはできた子で親友だけどさ」


 ん?

 私も小さい頃にあの子……ピートのそばをピーピー泣きながらついていったことがあるぞ。おかしい。


 とにかく。あいつが王族なら私は皇后様よ。

 あ、今日から公娼だか王妃だっけ?



 確かめろよと言われそうだが結納金しかもらっていない。

 この『我が国』の行政書類の少なさは異常なのだ。


 口約束で大丈夫かしら。

 なんでも司書魔法なる魔導帝国が滅んだ後に成立した珍しい系統魔法を採用しているらしいというのが通説である。


 建国の頃から王族たちは生きているから不要なんていう話は胡散臭すぎる噂に過ぎない。


 空飛び魚を見上げて風の流れから天気を占う。

 ーー今日酸苺の手入れをしたらよく麦が育つはずだーー



 とにかく、不遜にも王様を名乗る悪ガキが兵士さんたちに余計なこと言って騎士さんたちに誅されぬよう胸元にホールドした私はなんとか検問を抜けて入国できた。


 やたら兵士さんたち含む皆様が恐れ入っていたのは不思議だけど。



「あれが『我が城』?」

「正確には城壁に過ぎないのだが、概ね」


 高価な月石や鉄木をふんだんに用いたその威容。



「ふぅん。立派なもんね」


 嘘だ。

 質実剛健を是とした武の家ローラ伯を祖とする市国を編入した『我が国』の国力は立派どころではない。



 街中は伝統的なテントであるゲルばかりだが、ところどころにある城壁や櫓などにローラの伝統が残っている。



「もっと見るが良い。お前の城でもある」


 私の胸に挟まれ(※嘘だ。そんなにない)ながらなんかほざいている子供を無視して田舎娘であるわたしはしばしその立派さに感心していた。


「うん。あれはローラ様式が主なものだが長年敵対国家であった『鉄と血の帝国』様式も入っている」

「詳しいな梨沙子。頼もしいぞ」



 かの帝国の姫君とグリンアースの実質的な初代王にして魔剣士ロー・アースの息子を名乗る男とが敵国同士の王子と皇女の間で繰り広げた熱愛のものがたりは有名だ。


 男側の「トーフノ カドニ アタマ ブツケロ」と女側の「フーンダ アンタナンカ ハシラデ コユビノサキヲ ブツケテ、モンゼツスレバイーワ カイセツサシアゲマス」なる愛の呪文はわたしでも覚えている。



 私が建築様式や彫刻について父と語り合っていると胸の谷間でいちいちうるさい声が聞こえる。

 なんか地味に私より詳しいかも。地元の子なら当然か。



「なかなかの造詣にございますな。陛下」

「なんか、クソオヤジ……もとい父より詳しいなんてちょっとキモ……もといすごいわね」


 父が急にこの子を持ち上げる言い方をする中、私は物理的に胸元に彼を持ち上げて発言を封じている。



「むごご。しとねはまだ朕らには早い」

 あまりにもませたことをいう。

 わたしの耳が熱くなる。

「このエロガキ、ふざけたこといってたら叱るわよ。


 私一応、今日から公娼だかなんだか知らないけど、この国に身売りしてきた身だし、どうなるか知らないけどさ……って、あなたとどこかで別れないと困るわね」



 んなこと言ってたらぱかっと馬車の扉が開いた。

 正直お尻が限界だったから助かった。


 揺れで時々子供にしては石頭な少年のこうべが私の顎を直撃してたし。

 生意気だけどそれなりに心配はしてくれたからちょっと楽しんだ。

 結構うちは村の子を預かっていることが多かった。ちょっと増えたところで変わらない。


 ……。

 きれいなひと。


 冒険者みたいに露出の多い実用性が低い鎧。

 額の上に引っ掛けたゴーグル。

 皮のヘルメットから出ている綺麗な赤い髪。



 馬車の扉を握っている美少女が一言。


「ローファルカ、あなた何してるの」

「フィリアス、梨沙子がいじめる」



 彼女は「てぃ」というと殴るように彼をはたいてぐずる彼を無理矢理私から奪いとる。

 なんかもうちょい持ってたかった。



 すこし離れて改めて彼女を見る。



 赤と言っていい宝石めいた茶色の髪に皮鎧を着ていてもスレンダーとわかる美人さんだ。


 重たそうなアクセサリーは一切付けておらず、その動きは『羽根が生えたように軽快』である。


 なんかあまりにも軽快だからか背中に翼が見えたくらいだ。んなはずない。



「姉さん、ローファルカがお嫁さん連れてきたって……あ」


 今度はどことなく銀色めいた白金の髪の美人が現れた。

 先の少女が活発を絵に描いたような女性なのに対して彼女の方が五つは歳上に見えてしまうが。



「ん……なんかどっか伯父さんに似てて生意気そう」

 あら!わたくし、ブチギレますわよ。


 同性でもときめく美女に両頬掴まれて至近距離でおもて()を覗かれて動悸が酷い。


 頬がちくちくする。爪切れ。長すぎ。


 あと何故か手が濡れて……いや彼女の服すらまだ濡れている。変な子なのかしら。髪が濡れたように美しいと思っていたら本当に濡れているのだから。


 そのずぶ濡れのまま私の頬を掴んでいた彼女は赤毛の少女におもてをそらす。


 うなじがすっごく綺麗でびっくりするが、鱗めいた飾りを貼り付けているのも見えた。



「姉さん、姉様は?」

「ローファルカがこんなんだから執務中。

 あと私の方が姉様よ」

 赤毛の少女は私から奪った子供を「参ったか」と締め上げている。

「威厳の問題」


「ちぇ。お転婆はみんな一緒じゃない」


 姉さんと呼ばれる方が見た目は若いのに歳上らしい。



「あの子、やっと女王辞めれたと安心してたのに、この子がこんなんだもんなぁ。

 父さんの爪の垢を飲めばいいのよローファルカ」

「やに決まってんだろフィリアスおばちゃん!」



 赤毛の少女がこの国では将軍を務めているわけを私は知った。

 私も彼女をおばさんなどとは口が裂けても言わないことにする。



 赤毛の彼女はフィリアスを名乗った。


 奇しくも父ファルコと共に疫病竜を滅した英雄と同名である。

 銀の美少女も名乗ったが、いくらなんでもできすぎた。



 なぜなら彼女らの話を聞くに、下の姉様とやらも『黄金のたてがみ』と同名だと判明したからである。伝説の『銀の月』『白金の鱗』を名乗る少女に私はなんといえばいいのやら。



「ミスリル王家は襲名制なのかしら」


「そうかもしれない」

「そう言うことにしておいてください」

 疑問が口に出てしまったらしい。



 前後するが姉妹を名乗る二人は王家の方々らしく、咄嗟に臣下の礼を取ろうとした私たちを二人は制したものだ。



「経緯は色々あれどいまは家族ですので……くるしゅうない」「ははっ」


 媚を売るのが仕事の父は立ち上がる。


「膝を払っていいわよ。私ってそういうの苦手だから。

 ラフィエルとおじさんに育てられたようなものだから、結構礼法は苦手なのよ侯爵。

 それよりあなたの先祖の話がしたいわ」


 父とフィリアス様は知り合いなのかしら。


 父はちゃんと許可を得てから膝を払った。

 我が父ながら媚を売るのにに如才じょさいない。



 そんなこんなで執務にかかりきりの『黄金のたてがみ』を名乗るゴージャスを絵に描いたような美女に挨拶を済ました我々はあれよあれよと婚礼の儀……にしては質素な集まりで杯を上げることになる。



 ところでローファルカちゃんがなぜ隣にいるのか謎だ。

 自称48歳児は面倒そうに鼻をほじっており。



 神父と思っていたら宰相だったらしい美青年が穏やかに微笑んで私に結婚の誓いを求めてくる。

 宰相というより執事みたいな服装である。



「誓います」

 正直言って婚礼の儀に姿を見せない輩にこれからの人生も身体も委ねるのは業腹だが。


「誓うぞよ。さっさと終わらせろラフィエル」

「おぼっちゃま、真面目にしてくださいませ」


 ローファルカちゃんが面倒そうになんか言ってる。


「そうよ。結婚式で適当なことされたら一生ソイツを恨むわよ私なら」

 小声なのによく響く声でフィリアス様がおっしゃると『黄金のたてがみ』大后殿が静かにうなづくのが見えた、



 ところでなぜ巨大な水桶がここにあるのか。

 その中からなぜ『白金の鱗』様がこちらへ手を振っていらっしゃるのか謎だ。



 太妃が政務やっている国に妃が必要なのか。

 それも田舎村でびんぼう生活していたわたしがこんなお金持ちの国に必要なのか。


 そんなことを憮然ぶぜんとして思い寄せているとグイグイグイグイグイグイドレスを引っ張られて「なによ」とローファルカちゃんにぼやく。



「しゃがめ」

「は。あんたが登れ」


 よちよち膝から登ってふんす!と腰に抱きつき私を睨む彼。


「持ち上げろ」

「やだ」



「ラフィエル、こいついうこと聞かない」

「はい、おぼっちゃま、私語は慎みましょうね」


 ぶーたれた横顔がちょっとかわいい。仕方ないな。


「これでいいかしら」


 胸元に抱き上げると結構重い。

「もっとちこうよれ」

 バタバタ手足を動かしてうっとおしい。

「うん」

 強く抱きしめる。



「ぎぎぎ。ちがうちがう。上だ上だ」

「上が何よ」

 ステンドグラスしか見えないわよ。



 もぞもぞと抜けられて。

「いやっ?!」


 ラフィエルさん他が目を閉じた。

 なんてとこ持つのよ!


 そのまま奴は私の肩を梯子のようにして脚をかけると、わたしの唇を奪った。



「……」


 がくっと膝の力が抜ける。

「おい、妃」

「……」


 ぴょんぴょんと奴はわたしの足元を飛んでいたが、軽く耳を掴む。

「あっ」

 フィリアス様が止めに入るが少し遅い。


 ちゅ。


「これでいい?」

「いいわけないでしょう!」


 わたしは彼をはっ倒した。


 水桶の中から爆笑が聞こえた。

 理知的な雰囲気をしていて笑い上戸らしい。



 フィリアス様と『黄金のたてがみ』様に吊し上げられたクソガキは反省している様子がないが、乙女の唇をなんだと思っているのだ。子供でも許さない。



「では、よろしく頼む妃よ」


 見た目に反して怪力な『黄金のたてがみ』様に逆さ吊りされたままクソガキ、ローファルカはのたまった。



「よろしくって、なによ」

 屈辱に瞳の端が濡れているのを感じる。

 私の涙越しに奴はさらに宣った。



「妹背としてお前の寿命の限り愛すると誓うぞ」


 いもせ?

 いもせ……。


「おい? おーい?」

 彼は逆さ吊りのままわたしの頬をぺちべちしている。



 いもせ。めおと。ふうふ。



「王様ってあんた?」

「何度もそう言ってる」



 フィリアス様以下、皆が首をうんうんやってる。

 父も気づいていたらしい。



 改めて見る。



 栗色の髪は黒とも金ともつかない輝きを持つ。

 少し吊り目だが愛らしい顔立ち。成長したらとんでもない美形になるがしれない。


 少年らしい細くしなやかな手足はよく引き締まっている。

 口元は自信ありげだが、逆さ吊りなので威厳なんてありゃしない。


 どこからか聞こえる質実剛健な音楽は、この国の主神である古の神『戦神』を讃える旧い唄だ。



「我こそ真なる銀。黄金の鷹黄金の尻尾白金の鱗の三姉妹育てし者の孫。夢追う魔狼の血を引く勇士』ローファルカ。


 今後ともよろしく頼む妃よ。


 共に1000年の都を築こうぞ」

 はぁ?



「えっと……あんた何歳?」


 なんとか逆さ吊りから解放された彼は空中で優雅に、猫のように受け身をとって舞い降りる。


「48歳」

「うっそ。うちのアナグマやピートより歳下に見えるんだけど」

 思わずしゃがんで彼を見る。



 彼は自信満々と全然質問と関係ないことを抜かす。



「我々は歳を取らん。閨の心配は不要ぞ」

「ミスリル王家が引きこもりって」

 いかんわたしも脈絡ない。


「余らは民と常に共にあるのだが、他国の連中は我々が王族と言っても納得せんのだ」



 彼はそう呟くと。

「なんでだろじっちゃん」


 ローファルカが私から目線を外して振り返ると、いつまにかきゃあきゃあと栗色の髪の超絶美形でかわいい男の子を奪い合っているフィリアス様たち王族三名の娘たち。



「ね、ね、じっちゃん」

「ローファルカ、たずげて」


 超絶美形の幼児は半泣きになっていた。

 あとで知ったがこの方が建国王様だった。


 放浪王なる建国王の神子は未だ冒険だか遠征しているらしくこの場には現れなかったが、建国王は田舎で農業しているらしく。


 きゃあきゃあ騒ぐ新しい『家族』から距離を取り、私はその場を去る。

 そっと差し出されたちいさな手を握って。



「わたしでいいの?」

「おまえが大人になるのをまっていた」



 そういうことで、わたしはここの妃となった。

 この動画でこの話を書くことになった。

https://www.instagram.com/reel/C83-SFdIIGM/?igsh=bWpzZHF5bG16dzc5

 かっこいい。

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