勇者の剣『性癖』
「ぼくはァー! てかおれはー! ブラコンだー!」(※やけくそ)
「びーと(うるうる)」
異世界より訪れた『勇者』の放った必殺技が魔王に『刺さり』平和は保たれた!
「ぴーと! ぴーと!」
「うっせ、ファルコ、テッメエーちょーしこくな」
平和は戻り五十年。
またしても世界に混沌が訪れんとした時、王家の末子が立ち上がる!
「やはりですなぁ。グヘヘ。ロングスカートからチラチラ覗くニーソ。あのガーターが絶対見えないのがたまらないのですよ。や、特に匂いが、昨日から忙しくて身体も履けないまま、脇やうなじはなんとかお湯で拭いても靴を脱ぐ間もなく」
「王子。もうあまりのキモさに相手、死んでます」
色々別のものも勃起っていた王子、身分を超えて長年の幼馴染にして想いびとである専属メイドを人生の伴侶にしてしまった。
その間もズブズブズブズブ、勇者の聖剣「性癖」は敵の皇帝の遺骸にハマり、抜けなくなったという。
時をさらに経て皇帝の遺骸と勇者の剣が観光名所となった今日でも。
「萌え萌えきゅんきゅん!」
「やはり、年上お姉さんと少年でしか得られぬ養分がありますね」「いえいえ、少女と守護者たる騎士たちの純愛と純粋な崇敬が」
と、時代によって決して語るわけにはいかぬ深く深く潜る想いが皇帝の聖骸を苛んでいた。
「ワシが何をした!」
せいぜい隣の国々を滅ぼして最後のキモオタ王子を組みしやすいとナメてかかっただけである。
他人の『性癖』を馬鹿にすると大火傷するのだ。
「しかし、われわれ正義の民は皇帝を蘇らせ『勇者の剣』を破壊して異世界に放逐せねばならぬ」
思想信条色々あるけど、正義はうつろいやすい。
「えっ! 私が勇者!?」
30アラサー歯科衛生士、福嶋知寿は自らをさしてこう述べた。
「これが勇者の剣」
「どこにもないすが」
「深く深くズブズブと」
「ダメでしょ。抜くとか取り出すとか以前よ」
「とにかく好きなものを天にも昇る気持ちで語れば姿を表す」
「好きなもの? えっえっー。アイス?」
反応なし。
「綺麗なお花。あっでも春セリの香りもなかなか」
反応なし。
「どうしろって言うのよ!」
「なにか、あなたの仕事に関わることとか」
しかし歯科衛生士はセクハラ野郎がいたり割とろくなことがない。
「例えば仕事のきっかけとか」
「あるわけないでしょ。あったらもっと割のいい……あれ?
そういえば」
「あるんかい」
「たしかあれは古典の先生が……。『十八九ばかりの人の、髪いとうるはしくてたけばかりに、裾いとふさやかなる、いとよう肥えて、いみじう色しろう、顔愛敬づき、よしと見ゆるが、歯をいみじう病みて、額髪もしとどに泣きぬらしみだれかかるも知らず、おもてもいとあかくて、おさえていたるこそいとをかしけれ』」
謎の呪文を勇者は唱えた。
その時、勇者の剣『性癖』は人々の前にその輝かしい姿を見せたのである!
「色白で可愛い子が、甘いもの食べたい気持ちと、歯の激痛に葛藤して、本来なら黒く艶やかな髪を振り乱して……あぁカワイイ……って意味だったと。
なんでみんな死んだ目で私を見てるのよ。『刺すぞ』コラ」
勇者の剣は伝染性を持つ。勇者とはいつも孤独な平和の伝道者なのだ。
彼女の『マクラノソーシ』なる祝詞は絶大であり。
「うおおお! 『十八九ばかりの人の、髪いとうるはしくてたけばかりに、裾いとふさやかなる、いとよう肥えて、いみじう色しろう、顔愛敬づき、よしと見ゆるが、歯をいみじう病みて、額髪もしとどに泣きぬらしみだれかかるも知らず、おもてもいとあかくて、おさえていたるこそいとをかしけれ』」
「グアー!」
「負けないで! スザンヌ!『うつくしきもの。瓜にかぎたるちごの顔。すずめの子の、ねず鳴きするに踊り来る。二つ三つばかりなるちごの、急ぎてはひくる道に、いと小さきちりのありけるを目ざとに見つけて、いとをかしげなる指にとらへて、大人などに見せたる。いとうつくし。頭は尼そぎなるちごの、目に髪のおほへるをかきはやらで、うちかたぶきてものなど見たるも、うつくし』」
「新技ぎゃー!」
「耐えろー! 勇者様の祝詞が完成するまで、我ら王国騎士団、命を捨てて勇者様をお守りするのだぁ!」
「みんなを殺させはしない! 私がみんなを守る! 『十八九ばかりの人の、髪いとうるはしくてたけばかりに、裾いとふさやかなる、いとよう肥えて、いみじう色しろう、顔愛敬づき、よしと見ゆるが、歯をいみじう病みて、額髪もしとどに泣きぬらしみだれかかるも知らず、おもてもいとあかくて、おさえていたるこそいとをかしけれ』」
「ぎゃー!」
次々と現れる強敵を打ち破り。
遂に最後の戦いにおいて、彼女は勝利して帰還した。
それはそれは、かの大魔王の骸は無惨な姿で、しかしなれど性癖の限りを解放され、地獄ならぬヘブンな喜びにかのものの顔は満たされ昇天しきったという。
「強敵、いやあなたは最大の友だった……」
勇者は同好の士と思う存分夜を明かして語り合う喜びを思い起こし涙した。
大魔王は年頃美少女の愛らしさを語り尽くし、その恥ずかしさに爆死したのである。
歴代最高のヘンタイ、もとい勇者は聖剣を持って歯科「伊勢会」なる異郷へと帰ってくれた。
そして各国は彼女が伝えた聖句『歯を磨きましょう』を実践している。
新たなるヘンタイ、もとい勇者をよりにもよって理解し難いおぞましきイセカイから招いた災厄を忘れないために。
ああ大人たちよ歯を磨いて健康を取り戻すのだ。
子供たちよ健やかに。
ほら、歯を磨かないと勇者がくるよ。
王国は勇者が伝えたという世界一の歯科医療技術及び歯科衛生士技能が今なお健在である。




