めちゃめちゃ◯ックスしたい!
「姉上!」
「なにかしらセド」
「めちゃくちゃ◯ックスしたいです!」
「儚くなりませ」
姉は冷酷であった。
「だーかーらー。僕みたいなクソ野郎に惚れる女なんていないでしょう姉上〜〜」
「おどろかしめ。常ならむ」
姉は現在16歳もうすぐ17歳。俺今年でもうすぐ14歳。
姉は美人なのに釣書を悉く断り、ついた渾名は『傲慢』『引きこもり』。
そして領地を継ぐべく勉強に武術に邁進しており、ドラ息子の僕とは一線を画す優秀な娘である。
「よって今こそ一線を」
「超えるなら他のものがあるでしょう」
姉は扇で口元を隠したが耳は赤かった。かわいい。
「例えばサラに頼むわけにはいかんでしょ」
「かは私の専属です。気づいたら生きながら冷たい棺の中かもしれませんね」
世の中には家に仕える陪臣の娘やめしつかいたちに無理矢理関係を迫ったり(※中には娘の意思を無視して差し出す輩もいるという)、妊娠中でその手のことをしかねる妻の代わりに彼女が連れてきた側使に対して三者同意の上でその仕事を頼むうらやまけしからん領主もいるというが少なくとも僕らの周りにはいない。
田舎貴族の父はその噂を真に受けて母にそれを告げ新婚そうそうボコボコにされた。姉が母のおなかの中にいた頃の話である。
「まぁ、おかげで領地は発展したけど」
「三女とはいえ母の方が優秀ですからね……奇しくも両家の意図通りに」
ちなみに貴族の娘が嫁ぎ先に連れていく娘は大抵陪臣家や貴族の次女以降であり、手を出すとマジで戦争になりかねない。
話を戻そう。
サラは9歳の頃から近くの農家のコックスさんの牛乳配達のついでに務めるようになった子だ。
最初はアレだったが最近はよく頑張っていて朴訥な感じがかわいい子だと村でも評判だ。
毎朝牛乳配達のついでに来て、姉の身の回りの世話をして姉の勉強を手伝うついでに姉が復習を兼ねて勉強を教えていたら先日王立学園の推薦状をもらった。
我が村期待の星である。
ちなみに都基準ならば美人とは言い難い典型的な田舎娘であるが、我々にはとても良く気がつくいい子である。
彼女は純朴を絵に描いたような娘で村祭りではすみっこでドキドキして誰とも踊らず藪の中をチラチラしているような娘である。
王都で悪い虫がつかなければいいが。
「すでにあなたがついています」
「誤解です姉上! サラは幼馴染ですがそんなこと!」
なんで知ってるかって?
村祭りの焚き火の奥、藪の中で色々やっている村人尻目に話し込んでいた。
村祭りでは死んだ人や今はこの世界から去りし神族たちが夜闇と共に現世を生きる人々と踊りにくるという伝説があるが、要するに田舎の村ではベビーシーズンである。
その特性ゆえ子供の頃はさておき(※相手は僕で固定だ。断ったら足を踏まれた)姉はさすがに村人たちとは踊れないが、僕は顔を出して設営を手伝わねばならない。貴重な若い男には違いない。
……アマウラさん、旦那さん亡くしたばかりであんな。
いやいい。コックスさんだって娘抱えて12年。むしろよく亡き奥さんに操立てて我慢した。
自分の父と隣の若い未亡人が藪の中あんなことやこんなことをしている真っ只中、サラと僕は色々話していた。
とりあえずめちゃくちゃ◯ックスしてえ。
アマウラさん色っぽすぎる。
僕の内心はこのままだが、だからといって雰囲気に負けてサラを押し倒すわけにも行かない。
後々大変すぎるのだ。
「あなたにしては頑張りました」
「お褒めありがとうございます姉上」
ちなみに、平民に手を出した貴族というやつはめちゃくちゃ軽んじられる。
物語では割と身分違いを乗り超えて結ばれる歌曲があるし僕も姉上も好きだが実態はというとわずかなお金を渡して放り出すことが多いらしい。
「というわけで」
「どうしてズボンをなおしているのか、その粗末なものを出したら如何なることが起きるかご一考願いますわ愚弟」
繰り言申し訳ない。
『平民に手を出した貴族はわずかな金を相手にわたして放り出す』
これは嘘である。
俺たちがそんなことをしたら最後、村人たちに縛られて生きたまま燃やされるからだ。
「仕方ない。我はこの釣書受けようと思います姉上!」
「『餓鬼族令嬢』と有名な方でしょう。それほどまでに欲望に負けるのですか」
貴族と名前はついているが王国は反乱で成立したばかりの新興国。
下剋上バリバリの気運残る状態で、厄介ごとを好んで引き受ける一家が代々貴族を名乗っているというのが貴族平民共通の認識である。
「向こうの方が家格は上、そして確実に処◯!」
「今日にでもサラの淹れるお茶に毒が混じっているやもしれませぬが、彼女には反乱の意図なき事故とします」
もちろん身分差を乗り超えて結ばれたカップルは意外と尊敬される。
「だからといって姉弟で一線を超える気はございません」
「さよですか」
詩ならいいけど人間は物語のあとも人生長い。
貴族と結婚しても文字も読めない子はそのあと地獄だが、まぁ貴族と結婚したからって領地を任されることはない。
王都になるべく顔出さず『病気療養』とか言って引きこもってイチャイチャしてればいい。
「ではいちゃいちゃしましょう姉上」
「あなた最低では」
だいたい貴族に生まれたからっていいことほとんどないよ。うちみたいな田舎だけかもしれないけど。
戦争に出たら最前線だよヒャッハー。
それで生きて帰って来た父上はすごすぎるが。
しかも良縁のむすめに惚れられて帰ってきた。
「正直僕は美形と言い難いし、姉に迫るくらいには性格もアレですし、貧乏ですし家格も大したことないし、王立学園にも通わないだろう極道息子ですからね」
「……あなたの家格はわたくしからすれば……いえ、それはさておき育て方間違えてしまったかも」
「姉上はおっぱいそこそこあるし、ウエストラインは超セクシーだしちょっとそばかすあってもかわいいし、性格といい武術といい勉強といいほんとうに完璧な方です」
「ちょっと待ってくださいまし! このタイミングで抱きついてきても別の意図しか感じませんわ!」
父上や母上は僕も結構優秀とおっしゃってくれるし、先日山賊どもをまとめて生け取りにした時はお褒め下さった。
姉ならおしえさとして配下にできる。
僕はまだまだであろう。
「わたくし、武装した男どもを傷つけずころさず捕える自信はございません」
「ご謙遜を。それに姉上が万一捕えられれば玉体に傷がつくまえに僕が」
「玉体って……王族ではないのですから」
はるか祖先は侯爵も務めたらしいオーデュール家だが我々は分家も分家、『ゴミ』の名前通りの泡沫一代貴族(法服貴族ともいう)。
領地持ちなのではなく王都では生活費がかかりすぎるから田舎暮らしをしているだけで実は領主でもなんでもない。
村人たちの認識は異なるかもしれんけど。
「姉上の操は僕が」
「うちすえますよ」
そばかすは痘痕顔の父上に似てしまったが母似の美形である姉と僕を一緒にしないで欲しい。
「武人の父似の僕とマリ姉とではモテ度がどだい違うのです」
「少しあなたの自信を奪いすぎたようで反省して……責任を取る気はございません、ほっぺたにチューはやめなさいセド!」
姉は僕の腕をとり脇を潜って見事な投げをかましてきた。
きょうびの貴婦人は不届きものを制圧するのは嗜みである。
「あなたが不届きものです」
「結果、ブラコンシスコン姉弟が爆誕したというわけで姉は照れ屋さんと」
「誰に向かって話しかけているのですか。あなたと一緒にしないでくださいまし。さっさと立ちなさい。それとも頭をぶつけて儚くさせた方がよかったでせうか」
「とりあえずですね。姉上」
「はい」
「めちゃくちゃ◯ックスしたいという一言に」
「窓はあちらです」
「ええ、アイキャンフライ。姉上となら飛べます。きっと相性バッチリです」
「……」
姉は黙ってしまった。
場を繋がねばならぬ。
「あっ。姉上先ほどからツッコミ役ですけど、やっぱりそのような倒錯したご趣味が……そのような器具が御所望なら僕、ひそかに取り寄せましょう。
そういった趣味はないのですが姉上が相手なら……優しくしてください」
姉上、ごめんなさいごめんなさい!
御先祖様の胸像はだめです!
投げないで投げないで!
僕死んでしまいます!
イクなら床の上!
はー。はー。
姉を落ち着かせるには苦労した。
きっと彼女は激しい。
これからの生活が楽しみでならない。
「意味なく笑顔ですね」
「意味はあります! 我々の仲は良好ゆえ!」
ごめんなさい。
その剣は壁飾りですけど刃はついています。
しまってください。いやまじそのニコニコ顔でキレるのやめてこわいかわいい。
「では『餓鬼族令嬢』と呼ばれるかたと婚約すると」
「ええ。姉上も婚約しませんし、わたくし領地などいりませんが我が家は分家も分家とはいえ1000年続く家。
このまま断絶するのも御先祖様に申し訳たちません。
次の当主は姉上として、姉上がもしお隠れになったら当主となる者を用意せねばならないのです。
端的に言えばめちゃめちゃ◯ックスしたいです」
そのゴミを見るような目にゾクゾクします姉上。
「いやほんとやべーんす。
こうここが苦しいしガチガチだし特に姉上をみるともうダメです死にそうですほんと儚くなりそうで。ちょっとだけちょっとだけ。ちょっとさするだけでも」
「けがらわしい。近づかないでくださいまし。そもそもわたくしだって適齢期ですよ。場合によっては配偶者をとるかもしれません。わたくしだっていつまでもわがままは言えませんゆえ」
お互いの息を感じて少し離れる。
やっべ。姉上めちゃいい匂いする。
声もかわいい。
怒りに潤んだ目も綺麗。
「恒常的にセクハラを働く弟にも姉は献身的かつ温情厚く。そしてふたりはついに一線を」
「謎のナレーションはやめなさい」
「ほら、秘密ゆえに相手も知らないでしょう。僕墓の下まで持っていくので問題など起きません」
「わたくしの婚約者の立場にもなりなさい」
わがまま極まりない弟をさとす姉上はやはり面倒見が良い。
「『餓鬼族令嬢』……ミンシア様はわたくしも存じております。
ご病気ゆえにご不幸にもはからすして腐臭を放ち見目も悲しくなっていらっしゃる方ですがとても素晴らしい方」
「えっマジっすか。それならご飯三倍イケます」
ひきこもりで交友少ない姉は友人想いでもあった。
一言で言えば『絶対渡さない』とのこと。姉のいぢわる。
実際、僕も手紙のやりとりしかしていない。
彼女は知的でやさしいマジいい子である。
「でもさー。いい人ですよね。だったら僕顔は気にしません。ご病気で顔中にコブがあっても本人のせいじゃないっしょ。臭いだって病気なら仕方ないですし慣れればコーフンするかも……で、おっぱいは姉上よりありますよね」
「……」
ごめんなさい、その家伝の鎧は貴重なものなので!?
「とりあえずウエストラインからのお尻の形が姉上よりセクシーな女性はこの世の如何なる女性と比べてもありえないためそれは期待しておりません」
「鎧の追加が欲しいでしょうか」
僕は家伝の宝にさらに溺れるハメになった。
溺れるならば姉上と夢の中で溺れたい。
「とにかくぅ! 僕はめちゃめちゃ◯ックスがしたいんですぅ! 姉上のいぢわるぅ! ぐれてやるう! 家出してヨットで世界一週してやるぅんだぁー!」
「そのまま健全な精神を養ってくださいまし。願わくばそのまま海の藻屑に」
僕はキリッと襟をただして姉に相対する。
「健全です」
「性欲に忠実なのは確かに殿方として健全ですね」
姉上。ごめんなさいほっぺたをつねって拗らないで。
「とにかくぅ! 僕は姉上以外とするなら家格のいいとこに婿に行った方がマシだぁ!」
「駄々っ子ですか。床の上で暴れないで……」
すみません。下から見ていたからってそこ踏まないでください姉上。天国にイキます。
両足首を握られ逃げられないまま僕は命乞いする。
「このような愚かなやりとりは不毛です」
「はい姉上。おつかれでしょう。ベッドはこちら」
僕の顔に引っ掻き傷ができた。
ひどいです姉上。
「だいたい姉上だって『僕と結婚できないなら死ぬ』と父上たちにおっしゃったじゃないですかー!」
「童のたわむれゆえ」
サラが食事に呼びに来た。
もう夕食か。早いな。
「息子よ。その顔は」
「あ、猫です。特大の」
「どうしたの……むすめや」
「少し持病の癪にて、食欲が」
姉は僕が知る限り子供の頃は木刀持って羊を追っかけ回した挙句うんこぶっかけられてギャン泣きしていた健康優良児で癪どころか風邪ひとつひいたことなどない。
「ところで重大な話がある。セドリアス。おまえは私の息子ではない」
「わたくしども……王都にいたとき……友人だった今は亡き侯爵家の後継となる予定でした身寄りなき赤子を預かり育ててきましたが……あなたも今日で14歳ゆえそろそろ真実を……」
……ふぇ?
「やった! 姉上、いえマルローネ様! 結婚しましょう! それに僕は先祖同様侯爵位らしいです!」
「父上! 母上! ばらしちゃダメでしょう!」
「えっなにこわい。全然ショック受けてない」「セド……ちょっと落ち着いて」
「……あいつもこんな奴だったな」
「好いたかたには押せ押せでした……ね」
両親改め養い親たちが呆れる中、僕はそれどころじゃないハイテンションである。
僕は叫ぶ。
「ええい! 父上、いえ法衣貴族オーデュール騎士伯爵様! 娘御をくださいませ! 一生幸せにしますゆえ!」
「ものすっごく心配なのだが」
父上、不良息子とはいえひどいです。
「ではミンシア様との釣書は如何に」
「母上、もとい騎士伯夫人。
姉の、もといマルローネ様と結ばれないのならと否応なく釣書合わせ文通重ねてしまいましたが……あの方の知性と見識、そして品性に惹かれたことは事実です」
それは認める。
超良縁だがそれ以上に本当にいい娘だ。
顔なんてどうとでもなる。
それに僕の見立てではあの病は治る。
彼女を蔑んだ者達はひとしくむくいを受ければいいのだ。
海賊やってる成り上がり侯爵家の当主が先日帝国貴族の超絶美人を嫁にもらったが、彼女とミンシア様は実に良好な関係を築いている。
帝国の薬と医療機器を用いれば完治すると侯爵夫人は断言されていた。
「あの方には好きあっていらっしゃる方が……それに彼の方の方がくやしゅうことにイケメンです」
ミンシア様は治療が終われば、伯爵様ご夫妻に似ていらっしゃるかと。
つまりイケメンと美女だ。もげろあんにゃろ。
「えっ、ミンシア!? 聞いてない!」
知らない方がおかしい。
姉、もといマルローネ様はもう少し引きこもりを改善すべきである。
もう言っていいか。
言って良いよね!?
先日フラれたんだよくっそう幸せになれ!
『両親が無理に結婚を進めてくる』
泣き出す女性にいい雰囲気醸す友人をうっかり見ちゃったんだよ!
だいたい、あんな良縁がうちにくるはずがないのである。
あちらの両家が埋まりそうで埋まらない二人を近づける策謀として僕を利用したのが真実である。
むしろ後で謝られたのはこっちだった。
あそこのオヤジ、後で抗議したらニヤリと笑って『お互い良かったな』である。
ムカついたから足を踏んどいた。
無礼? 家同士で戦争? だから何?
ミンシア様、マジ幸せになってください。
僕もやけを起こしかけましたが、なんとかします。
ワイズマン。てめーは許さん。
毎年子供愛でるついでに殴りに行く。
そして月日は流れた。
「……不本意です」
姉は『未婚のオーデュール騎士伯爵』として采配を振るい、僕は『未婚の養弟にして王都勤めの一代騎士侯爵オーデュールのまま』彼女を支えている。
われわれはコックスさんとこから『養子』をとった形でサラを迎える(※彼女も学園で良縁に恵まれたので我が家に迎える形で嫁に行くことになった)とともに『どこかで生まれた赤子』を後継者とした。
一時期姉が『体調不良で』姿を隠していたがほんとにある意味体調悪かったし。
というか死にかけて俺めちゃくちゃ姉の手をとって泣きまくり『死なないで』とお願いしまくった。
子供が無事生まれ母子共に無事だった時は二人でめちゃくちゃ泣いてめちゃくちゃ喜んだ。
ハイテンションで二人で変な名前つけかけて養父母に『決まった名前あるから落ち着け』と叱られた。
なんでも代々そういう失敗を仕掛けたらしくあらかじめ名前を決めておくらしい。
オーデュール家って……まぁ言うまい。
娘の名前はミリア。
食料供給においてかつて大陸を制覇した偉大なる先祖の名前である。
元気すぎて幼くして先祖と同じくクッキーブランドを立ち上げてしまうが、先祖の興した店はとっくに絶えている。
かようにちゃっかりものだが愛らしい自慢の娘である。
なんか辺境にも店を出すつもりらしいのでお小遣いをせびってきたが、ここまで読んでくれた方もおひねり程度をお願いしたい。
お礼はもれなく新作クッキー非売品来年発売予定10種詰め合わせ。お得です。
とりあえず姉……もといマルローネと僕は今もこれからも仲良しであり。
今日も明日も明後日も。
「めちゃめちゃ◯ックスしたい!」
「いい加減にしてくださいまし! 吾子が起きまする!」




