藩王さまのお悩み
「王。あの女を処しましょう」
乳母の息子は愚昧を申し。
まぁ理解はできる。
私の街は国というには実にお粗末な都市国家である。
え。貴族身分かって? さぁ。
確かうちの先祖はレデンとか名乗る猟師だったと思うぞ。姉上が教えてくれた。
先ほどは『お粗末』と評したがこれでもよその国では藩都とか『自由の国』などと呼ばれる結構な街だと私は思うし、民も同じ意見であってほしいとは思っている。
同じような国がこの周囲には私の国含め三つ。
外国勢力には認められていない町が四つ。
公式に認められていない邑を含めればいくつあるやら。
その全てが独立国家を名乗り、当然ながら周囲の外国勢力に対抗する力を持っていない。
外国に朝貢を行うことで独自裁量権を持ち、我々三人は『藩王』と呼ばれている。
具体的には北の藩王、東の藩王、西の藩王。そして我が姉が治める南の町だ。姉はあくまで自分の町は藩都であると主張している。
一応私たちは同じ国という扱いです姉上。たまには甥っ子と遊びに来てください。
(※不本意だが、我々を全てまとめて『藩王領』と他国は呼ぶ)
かつて存在した西部都市国家群の末裔のほとんどは『太陽王国』によって統一されており、我々の支配地域は実にささやかなものでしかない。
一応私は『王国』に、友人は『帝国』に。幼馴染は『太陽王国』に朝貢してそれぞれの領主ということになっているが、ぶっちゃけサイコロで分配した。
馬車や船を飛ばせばお互い遊びに行く(※外交という自覚は我々にはない!)のにそれほど支障はない。戦争? まさか。おっかない。
他国にとっても我々にとっても我々の支配地域はその程度の重要性であると言えば理解できるであろうか。
金? 資源? なにそれおいしいの? こちとら延々と続くジャングルだか森だかしかないようなど田舎です。
あ、水は名水だから買って帰ってくれ。
切手も忘れるな。ワインもまぁまあいける。
ワインは太陽王国ほど有名ではないけどね。
そもそも我々は税金すらまともに徴収できていない。そのくせ仕事は多いのだから悩ましい限りだ。
そのやたら多い仕事の一つ。
そして国を名乗る以上最低限必要な仕事は治安維持である。
これがまた悩ましい。
簡潔に述べると予算がない。
各藩王都は栄えている。
間違いない。民の笑顔を見ればわかる。
問題は、税金をみんな払ってくれない。
我々の収入の実に七割が人々の善意による貢物。
残り二割が個人的財産収入。
最後の一割が大きな声では言えない政治的収入というやつだ。えっ。それは貢物と違うのかだって。
朝散歩してたら、ちっちゃい子に『みつぎものですおうさま!』と言われるような存在にいちいち賄賂を送るものはいないだろ。飴はおいしかったありがとう。
……ちくしょう。
ちなみに私は税金を徴収する官吏を雇うのは本末転倒だと考えている。
父の時代からそうだし、藩王国周辺は西部都市国家連合の生き残りの原住民が支配しており、そのため独立独歩の精神高く。
要するに王なんていらない。ばっきゃろー。
要するに原住民マインドのままなのだ。
勝手にみんなやってるが族長である私に責任だけが押しかかる。
油断してたら暗殺者が何を考えてかやってくる。やめてほしい。私は名ばかりの王だぞ。確かに友人や幼馴染は私一人に色々よその国関係の仕事を押し付けてくるが。
帝国という無税国家の影響も大きい。
人々は生活が苦しくなったら『ちょっと帝国行こうか!』とか言い出す。
一狩り行こうくらいのノリで言うな。
あんなクソ寒いところは行かない方がいい。
厄介なことに気の利いた船を出すことができさえすれば海賊どもが支配する『ひざのくに』半島を無事に横断し、国境の山脈を越えれば帝国本土に到達するため、難民流民そして食い詰めた冒険者や山賊に代々悩まされている。
『正直どこの国でもいいから併合してくれ!』
これが我々三人の正直な意見である。
いやほんとその程度なんでうちの地域!
しかしサイコロで綺麗に分けてしまったのでどの国の支配下に入るかで揉める。さらに各邑や町は勝手気ままに三国の保護を求め実際朝貢していたりする。勝手に。繰り返す。勝手にである。
帝国貴族にして外交官『あぎと』くん(※何故か気が合う)は『化外の地には興味がない』とはっきり言う。
うっさい。
彼は帝国銀行によりこの地域のクソややこしい朝貢を管理している。
うちの支配地域なんだがなあ。
しかし帝国銀行がないと我々も資金を確保できない。
国として大事な仕事である、あるいは教会の仕事である戸籍調査もやれない。やれるはずがない。なので帝国情報銀行に照会をしてやっとどこの邑にどんなおっさん(王)がいるかわかる程度だ。
教会にお金を借りたくても、本来の仕事しろ戸籍とれと抗議しても奴らはここ二十年司教ひとり寄越さないのだ。
おかげで『慈愛の女神』だの『幸運神』だのよそでは画題や幸運のお守りになっている古い神の信仰が残っている。たまには来ていいぞ宣教師。歓迎してやるから。
よく言えは独立独歩。
悪く言えば外国から常に流れてくる連中で治安はマッハでやばい。
その外国から流れてくる奴らを雇ったり宥めすかしたり冒険者として使うことで治安を維持して国の形を保っている。
手に負えないときは王国だの帝国だの太陽王国だのを宥めすかして軍を出してもらう。
いやうちにも常備軍はあるぞ。なんと百人もいるのだ。すごい!
ちなみに姉のところを含めた。
ホントは70人しかいない。
それすら予備役で水増ししている。
おかげで給料払わずにすむ。エコだね。
くそう。
確か友人のアステリオンくんちが40人で幼馴染の『教授』アクアマリンちゃんちが45人じゃなかったかな。予備役含めたら三つの街でなんときっかり300人になるぞ。すごい!
というわけでだ。
この地域において『王様』や『女王様』を名乗る存在はとてもこう……ゆるいといえばいいのかな。とにかくそう言うことだ。
露店で芋買って射的楽しんで酒場で喧嘩して帰るやつがどっかの邑長(※邑は村サイズの『国』である)なことは珍しいことではない。
彼らは『暮らしやすい』と言うことで田舎に住まず、帝国銀行に資金寄越して朝貢してここに住んでいる。当然我々に『小さいが一国の王として扱え』と無茶苦茶言いやがる。
つまり、藩王である我々ですら他国でいう貴族身分ではないこのど田舎において、帝国貴族や太陽王国貴族みたいなガチの貴族身分の人が街中でそれに相応しい振る舞いをしていれば当然めちゃくちゃ目立つ。
あ、帝国貴族にして外交官である『あぎと』くんは別だぞ。
あいつは超例外。
最近忙しいらしくて遊べないけど。
冒頭で、いや実際俺も忘れかけてた。マジどうでもいい。
冒頭で乳兄弟が世迷言を言う相手はそんな王様もどき、いや実際王様なんだろうが真摯に認めたくない連中の中でとりわけ高貴で物腰穏やか。
そのくせ悪党には苛烈に戦う娘のことである。
歳をとっているように見せかけているが十五やそこいらの可憐な少女。
正直言ってズギュンときた。
物腰も礼法もしっかりしていて彼女が自称するようにあと五年十年すれば王妃様でも通る。
まぁ人妻にしては若すぎるが。
おそらくいずれ名のある名家のむすめなのだろうが、田舎には不相応としか言えない華麗なファッションに身を包み、美男子の騎士を引き連れてあるく気品あふれる彼女の姿。
通称『物狂いの王妃』。
ぶっちゃけ私より人気者である。
おっすオラ藩王。
俺にはわかる。
あれは王妃になるような教育を知っていないとできない物腰と見識だ。
あれは太陽王国最新のファッションに詳しくないとまとうことできぬ装いだ。
あの頭おかしい戦いっぷりは武門で鍛えてなければできないことだ。
「で、あの方を殺すの? バカなの死ぬのおまえ」
「王?! あの物狂い王妃を誅せねば王の権威は!」
んなもんないよ。
おまえ二十五年もこのど田舎で何してたのよ。
ああ、俺は一応王立学園に留学して、卒業まで王国という新興国の発展を目にしていたから少しはものの見方が広いのかもしれないけどね。
彼女は悪党には苛烈に戦うが救世救民を掲げて慈善活動に励んでおり、とても尊敬されているのだ。
俺だって自転車乗って治安維持だか散歩はしているぞ。あっちほど人気ないけどさ。
たまにデート……もとい王同士の意見交換をしようと誘うのだが、だいたいいいとこでかわされる。
あと彼女の騎士が割と怖い。
ダメィルくん。ホントすまん。
話してわかるのは彼女はマジで色々知っているし、王妃を名乗るだけのことはありその知識教養見識の深さそして非の打ち所がない人格は俺ですら感心せざるを得ない。
予算さえ! 予算さえあれば!
彼女が商会や教会へむけて出しては無視される勅令を俺自身が今すぐ実行したいくらいには彼女は解明的である。
ちくしょう。かねがないのが悪いんだ。
個人的には結婚したいなあと思っているので殺すなんてとんでもない。
今日?
うーん。自転車乗ってたらとりあえず見かけた喧嘩とめて、壊された屋台なおしてあげたらお礼にって渡されたアイスをちゃんと買って、乳兄弟と分けて食ったよ。美味かった。
明日は『藩王都観光大使』(※王様なんだけどなあ)の札つけて『あぎと』くんの仕事の手伝いをするよ。
王様って大変だよね。
君は王様になりたいかい。
僕はなりたいとは思ったことはないけど、それなりに満足しているよ。ホントだよ。




