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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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正義

 正義とは誰かに与えられ盲信するものでもなく

 この世や来世で栄達するための手段でもなく


 ただ、恐怖と悲しみ、苦しみの荒野の中、罪に塗れ悪心に染まりそれでも父祖が残したその荒野の中、種を残した一輪の花を見出すことなのだ。


 その花は有益なもの、美しいものとは限らない。


 彼のものはささやかなるその身を小さく震わせ臭いを抑え君から逃れんと息を潜めているやもしれぬ。


 君が彼に近づく時彼また彼女は

 (はなはだ)しき悪臭で君を遠ざけるかもしれぬ。

 あるいは甘い薬の味にて君を幻惑せしめんと目論むやもしれぬ。


 または鋭い刺を持って君を拒絶するかもしれぬ。


 ついにその身を掴んだと思いきや

 君はその身が幻惑と知り悪態をつくだろう。

 見えぬ正義を求めて荒涼を求むる君を彼のものはそっと見守っているかもしれぬ。



『正義かくあるべし』


 智者は君に説く。

 あるいは恥者か。


 古来より論語読みの論語知らずと人は語る。

 兎角人間は五感の歪んだ認識を砕けた心で受け取ったいわば水に映った美女の姿身を真実と呼んでありがたがるものである。


 君の正義は何処にありや。

 君の正義は僕の正義にあらずか。


 されど人は正義を求めてやまぬ。


 悪を打つはは正義か。これを善しというものは一度も悪を成さぬものにあらずか。

 悪をだますことは正義か。善しというものは詐欺師と痴れ者なり。

 悪を打つために手段を択ばぬものはさらなる悪である。


 悪と断ずるのは正義か。それは視野がせまいだけかもしれぬ。

 悪を見逃すものは本質的に弱者である。


 正義の反対は悪ではないと私は思う。

 悪の反対は善か。いや死ぬことではないだろうか。


 生きることは悪ならば死ぬことは善か。

 いや人は因業から、己の無知から、そして偏見から逃れることはかなわない。

 逆もまた真実はこの場合適用すべきではないだろう。


 正義はこの世にないのか。

 いや、それはおそらく存在する。

 ただ、悪も善も本質は目に見えないものである。


 例えば、ささやかな善行を強靭な意思を持って成し続けるなら、それは正義かもしれない。

 そのうえで、他人に迷惑をかけることが少なければなおさらだ。


 例えば、正義を標榜する者たちから距離を取り、臆病ながらも穏やかに過ごすのも悪いことではない。


 正義は君の背後から、いつも君の行いを見守っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「されど人は正義を求めてやまぬ。」から下の文章に、すこし兄貴さんの感情を見た気がします。 色々考えさせられます。 [一言] 「例えば、正義を標榜する者たちから距離を取り、臆病ながらも穏や…
[一言] 重きかな。
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