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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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パンツ先生

 この物語はパンツを見せたい不良少女野々宮奈美(ののみやなみ)と彼女のパンツを見たくない生活指導教師遥理雄(はるかなるみちお)が繰り広げる攻防戦をきっかけに、公立東横第四中学の生徒たちがブラック校則に立ち向かう物語である!



「先生! 今日はいちごです! 見てください!」



 雀も黙る大音声。元気いっぱいだけはハナマルキ、だけども成績最底辺。

 ーー野々宮奈美は今年14歳。現在恋しています!ーー


 とは、『野々宮の勝手な懸想である』とは生活指導にあたる遥氏の意見である。


 暦の上では春なれど、遥の態度は冬の如き。


「黒タイツ、脱げ」


「やだ。ぬげってみっちだいたん……」


 古の伝説に残る山姥のような振り乱した頭ワックスで固定し、二時間かけて仕上げた黒い肌とそれを覆う奇抜なメイク。

 野々宮奈美は不良少女である。たぶん。



「なんだその顔。山姥か!」



 遥は内心ぼやいたつもりだったが声に出てしまったらしい。内心舌打ちし、手汗の臭いのついた竹刀をとりあえず後ろに回す。


「だってだってみっちお化粧しても相手してくれないジャン!

 このメイク、みっちも振り向くくらい目立ったし、絶対ヒットするって!」

「そもそもうちの学校は化粧禁止だ」


 奇抜なを通り越して大道芸? 何で描いてるコレ?!

 視線の意図を敏感に悟った彼女は告げた。


「マジック」

「せめて消せるのにしろ!」


「マジックは化粧じゃありませーん! ついでに他のもいろえんびつとクーピーだもーん! これなら石けんなんて通用しませーん! 残念!」


 銀のアイラインはマジックの金と銀。


「シンナーとおなじだろ! 健康に悪いだろ!」


「えー。みっちあたしの健康に気をつかってくれるんだー。やったー」


 野々宮いうところ『朝起きたら抜けてしまった』という眉毛はマジックの赤。日焼けしたという肌はなんかよくわからない塗料(?)によって指定制服の襟首が茶色になっている。


 髪の毛はご丁寧にもカツラを彼女の母が営む美容院から拝借してきた。大事なカツラは廃棄処分決定である。

 先日、哀れにも『茶色が本来の色』と彼女が主張するところの地毛を黒染めされた上、バリカンでおかっぱにされついに南無三。

 懲りたかと思いきや、母譲りのメイクテクニックを駆使して今日も来た模様。



「それにそれにぃー! 鼻筋の銀色は『写るんです』したら綺麗なラインになるの! これ外国の女優さんの技だし、炭を使ってこの目の周りを処理して、あとあと、セロテープでフェイスリフトしたの!」

「その情熱を勉強に向けてくれ……」



 遥の知る不良はロングスカートだったが、何故か彼女はスカートをたくし上げてパンツが見えかけており。


 またタバコを吸ったり飲酒したりシンナーをやったりせず(※『タバコを吸うと丈夫な赤ちゃんが産めないってマンガでいってた!』『ハイハイ超能力』)他の生徒とつるんで万引き窃盗カツアゲなどの悪事も行わず。


「これなら風が吹けば見えるし、思わずわっしの美脚にみっちが注目」

「しない」



 周囲の生徒たちは遥に捕まる前にさっさと校門の中へ。

 野々宮奈美はそんな理由で他の生徒にはバカにされつつありがたがられる存在だ。


 漫画やジュブナイル小説の代わりにゲームブックを持ち込んだ美鶴木みつるぎまもるはとりあえず野々宮に感謝している。これでも学級委員長。



 バリカンと竹刀持って、生徒たちの校則違反を巻尺にてミリ単位で計測し、時として髪を切ったり黒く染めたり、服を脱がせたりパンツが白かをチェックするバカバカしい職務をサボタージュするために、遥が野々宮を使っている可能性については既に校長や教頭の指摘するところであるが、遥が職含めて辞めたいというと生徒たち及び一部保護者による教室占拠座り込みデモが発生し今に至る。



『遥先生を辞めさせるな!』

『剣道部全国大会出場には遥先生が必要!』

『みっち以外にパンツ見せたくない!」



 最後の一生徒の個人的意見は蛇足であるが、遥教諭は本人が知る以上に生徒に慕われ、保護者たちに信頼されていた。


「オレはロリコンじゃない! 野々宮奈美はノーサンキュー! なにガキどものパンツチェックって。本人が白って言ってるのだからいいだろう。これセクハラだろ。オレにも!」


 と、彼は同僚である真鑑美智子(みかがみみちこ)に酒席にて叫んでおり。されどこの時代において男性に対するセクハラという概念はない。そもそもセクハラ自体が新しい略語だ。

 とりあえず真鑑の恋が実ることはなさそうだ。遥は女心に疎く、幼馴染を男友達と同列に見ている。


『いいのか彼女はFカップだぞ』


 校長以下は遥に激しく嫉妬している。遥と飲むといっては悉くセクハラ回避するのだから仕方ない。

 が、遥はそのことを知らずにして校長以下に憎まれている。



 説明しよう!

 遥教諭は熟女好きであった!



 どちらかというと野々宮奈美の母である野々宮春香の方が彼には『どストライク』である。


 すらっとした長身、少し重力に抗い難くなりつつあるボインとヒップ。いい感じにくびれつつ柔らかそうなお腹周り。豊満な太ももと柔らかそうなふくらはぎ。日本人女性らしい伸びた骨盤。


 シングルマザーとしてハサミ片手に娘を育てる肝っ玉母ちゃんであるが、彼の前ではしおらしい。


 地域差別により学校に行けなかった話を生徒の前でする授業において快く協力してくれたし、給食無料の運動にも参加してくれている。それだけなら理想的なPTA会員である。

 その化粧技術と知識を娘に仕込んでいることは問題だが。


「うちの子天才では……」


 キラッキラな瞳で娘の独自センスを語る彼女は間違いなく子煩悩であり、『ママとあっちとで親子丼おっけー!』といって遥に1時間教諭される奈美も奈美である。


 とりあえず野々宮春香は亡くなった夫一筋なので奈美の邪悪なる企みは回避された。遥だって児童虐待で捕まりたくない。いやしないけど。



「はい。お化け屋敷は学年につき1クラスだかんな! あくまでうちは平和教育の学園発表会であって学園祭ではない! そのところ改めてよろしく! ……一人気合い入っているヤツいるけど」


「え、私展示でいいな。何もしなくていいもん」


 最初からお化けと暗喩された一人はかように放言しており。



「A組は差別問題の劇をやるはず」

「B組は反戦歌の合唱とみた」

「D組はまあ、穏当に障害者教育と石けん販売、すいとんだろ」


「すいとん、強い……」

「ほかに食べ物出せないしな。なんか川上の親父がすいとんのレシピに参戦するという噂だ」

「バリバリ台湾と華僑の料理じゃねえか! それもうすいとんじゃねえ! でも楽しみだな!」


「真鑑先生の料理はマジモードだからな」


「また校長にすいとんは水煮しか認めないと怒られそうだけど」

「『戦争の悲惨さを教える教育なのになんだ君はたるんどる』って正座させられてたもんな。一緒に何故か遥先生も付き合ってたけど」


「つきあってなーい! 真鑑っちなんて敵じゃないもんー!」

「黙らせろ学級委員」



 人気のお化け屋敷は学級委員たちの熱い戦いによる苛烈なる取り合いなので、第二候補を決める必要があり、これが実質出し物となる。



「いや、今年こそはお化け屋敷とりたい」

「おーい。野々宮! おまえのお母さん、メイクしてくれるよな!」


「ハリウッドバリバリのメイクしてくれるって! 最近流行ったゾンビのやつとか、ジェイソンとか!」

「……PTA会員といえ、いいのかそこまで」


 ジェイソンは明らかに手抜きだろ。遥教諭はタバコを教壇上の灰皿に突っ込もうとして自分がココアシガレットを噛んでいたことに気づいた。



「タバコ禁止といって生徒の私物を取り上げるのだから、遥先生も禁煙してくださーい!」


 別に中学生の理屈に屈したわけではない。

 社会に出ればあらゆる不条理が襲ってくるのだから、その前に校則を守らせ慣れさせるのは大事だ。


 でもまあ健康にいいらしいし。


 遥教諭はニッキの木を噛んだ。

 これはチョーク代わりになるし、美鶴木の実家である駄菓子屋でたくさんもらえる。曰く『先生にはお世話になって』だ。


 美鶴木家は校門前に立地し、文房具店を名乗っているため、美鶴木は『ビンポーグ』とあだ名されているが、『サイボーグみたいでいいな』と本人は前向きに許容している。


「いった! みっちがチョーク投げた!」

「ニッキの木だろ」


 二人のいつものやりとりを見て早くも生徒間では手話や大韓帝国文字による電信……手紙のリレーが始まった。


 遥が取り上げた電信は文字こそ大韓帝国文字だが『めっちゃ好き』『遥先生と野々宮、夫婦漫才!』とおもいっきり日本語。


 それでもまあ、必須科目の日本史と古典の時間とホームルームを削って実施している手話と大韓帝国文字を覚えてくれるきっかけになっているので遥教諭はこれらを黙認している。校長や教頭は反帝国思想の実践として生徒保護者や教師に覚えさせるくせに自分で学ぶ気ないようだし。実用せんとする生徒たちの方の方がよっぽど前向きだと考えているのだ。


 とりあえず竹刀で教壇を叩くのを控えた遥教諭はバンバンと掌を使う。



『採決を取るぞ!』



 東横第四中学には学園集会、その下部組織として学年集会、学級集会がある。


 とある障害者の生徒が成績不足により支援学校に進学する際、『みんなとがっこうにいきたい』と発言してより、地元集中運動が起き、その結果よほどの問題児でなくば地元の高校には進学できる制度が東横ひがしよこ市にできた。


 この輝かしい勝利の証である制度を維持する大事な集会である。


 主に地元集中に従わない身勝手なるエリートどもを学級、学年、学園全生徒たちによって説得して転向を図る大事な生徒自治の場である。


 また、解放運動のため、一部の生徒は差別されている出自や民族を自ら告白し、他の生徒にどれだけ他の皆は恵まれているかを教えさとす必要がある。これも差別に抵抗する精神のために必要な制度だ。



 そのオルグの矢面に、なぜかPTA会員を母に持つ野々宮奈美が立っていた。


 遥教諭は不可解な彼女の行動に頭を抱えたのは言うまでもなく。



『野々宮さん。あなたは地元集中に反抗し、東横西校に行こうとしています』

『失礼ながら、野々宮さんの成績ではとてもではないですがいけないのでは? 弟はバカなのですから内申考えたら辞退すべきでは?』

『美容院を継ぐのなら専門学校に行けばいいでしょう。それならば反対する要素はありません』


 これら学級、学年、そして全校生徒によるオルグで身勝手なるエリートは転向するのだが、野々宮奈美はそもそも成績が足りない。


 何故か美大に行きたいからと自由な校風の東横西を彼女は志望した。ここぞと級友は彼女を叩く。


 はずだった。



 先だって生徒会長に就任した美鶴木は『制服を標準服に』と訴えて生徒会の実権を握る教師と一部PTA会員たちに黙殺されたが、『生徒による陪審員制度を学校集会、学年集会、そして全校集会に導入したい』と訴えて認められた。


 悪辣なる司法、特定出自や思想を持つ法曹の出現を試験にて邪魔する帝国主義に対抗すべく学校が支援する陪審員制度を生徒自ら実施するという美鶴木の主張に遥以外の教師たちは二つ返事で許可した。


 その時の議事はテープレコーダーで記録されていたはずだが、テープが破損しており、生徒たちの私物であるビデオカメラでは、手話にて会話している生徒会長たちが映っていた。


 遥は他の教師たちと違い『あ、こいつら手話と言動が違う』とそうそうに気づいた。さらに口頭では『これは私の個人的感情でして』と議事と関係ない会話と取れる発言を生徒会は皆実施していた。



 本来、全校生徒と教師がオルグをする場であった全校集会は、この変革からは判事を務める生徒が認定したものしか発言できなくなった。それも証人としての発言なので、文書にて証拠も弁論も事前に用意しなくてはならない。


 これは学内における直接民主制度への侵害とは教頭の意見である。


 そのような周到な美鶴木たちの根回しにより、学年集会は野々宮奈美には弁護士がつくこととなった。今まで彼女を責める立場だった教師たちはこの学年集会裁判では判事が証人として認めた場合のみ発言が許されるようになっていたのだ。


 生徒たちは判決の結果に善悪を出さず、お互いの利害からの嘘を見抜き、真実を調整しあう陪審員裁判制度を見事に成していた。


 野々宮奈美の主張。反対する者の主張。それらを皆が新たな真実に導く過程を遥教諭は見た。



「お前ら、見事だわ。俺はお前らの担任になれて、お前らの存在が誇らしい」



 遥教諭は生徒たちに崇拝に似た想いを抱いていた。自治とは名ばかりの生徒会は今、真の自治を勝ち取ったのだから。



「だから、あたしは、自分が行きたいから行く、学校も好きな人も自分で選びたいのです!」



 野々宮奈美は、こんなに魅力的で強い女性だったろうか。

 中学生ながらハリウッドメイクを習得すべく留学したいという夢を持つなど、彼が同い年の時に抱けただろうか。



ーー「せんせー! 今日はテニスの見せていいパンツ……」

「ハイハイ。それなら見るまでもないな」


「あ、ピンクに染め……」

「あーあー。聞こえない」ーー



 お前、お前らはカッコいいよ。遥は生徒たちを尊敬する気持ちを持った。



 後日、野々宮は卒業証書を手に微笑みつつこう述べた。


「このまま無理矢理みっちにキスするのは簡単だけど、そんなのじゃないよね! ……もし私がステキな女の子になれたら、パンツ見てくれますか」

「見ないよ」


 遥教諭は苦笑いし、背を向ける。来年もまた、面倒なガキどものお守りがある。



 桜舞い散る季節。花の香を噛み締めて、彼は進む。



 後に二人の子供もまた教師となり、静岡県のとある進学校にてのちに『地球防衛組』と言われるクラスの担任となり、世界を救うのは後々の話である。

 

 この後、二人の子供である遥剣道(※はるかなる けんみち)さんが『17歳』『18歳』にて人口知性『17歳』とともに世界を救うことになります。名前に反して息子さんはリアルタイムストラテジーと格闘ゲーム、そして空手の達人に育ちました。

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