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短編集。『五分間の奇跡』  作者: 鴉野 兄貴


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『アニメじゃないんだから。……ばか』

 君の写真はアルコールの臭いと時々俺が吐いたゲロで随分くたびれたね。



 俺はハンドルを引く。まだ死にたくない。

 でも俺の視界の先で俺を囲む奴らも同じことを考えて引き金を引いているだろう。鉄の足で泥のようになった大地を削って走る。恐怖と鼻水と涙の味と共に俺たちは噛み合う。


 みんな家族や恋人の写真と向き合い、拡張視界の先に見える敵と殺し合う。少なくとも生きている限り。


 俺には最愛の甥っ子や姪っ子の写真は敵には死神なのだろう。

 もちろんそれはこちらも同じ。



 煙草の吸い殻で元の塗装色が褪せ、くたびれへたったペダルを踏み締め、ああシートの排便装置を作動させたままだったと思いつつ俺の機体は教導コンピュータに誰かがいれた回避行動そのままに宙返りをキメてくれやがった。


 よかった先に排便装置の蓋が閉まって。最近ズボンを洗濯できていない。



 拡張視界の残弾数がすごい勢いで減っていく。あゝやだこのシート安物すぎる。

 ロッキングチェアにしては鑿岩機かニホンのポルノスター並みの動きじゃないか。



 ビームソード? そんな気の利いた武器はもう使い切った。

 いまやタバコのライターにもなりゃしない。



 俺は誰のデータかわからない、女の子座り姿勢から急に飛びあがるモーションを使い敵が使っていた巨大なヒートトマホークを掴んで切り掛かる。


 確かこのアクションをニホンで聞いたぞ。

 シッコウ、膝行って書くんだ。

 ニホンの人便利なデータありがとう。


 でもシッコウよりうんこしたかった。



 ヒートトマホークで切り結ぶ。

 敵の武器使用データから俺のコマンド操作に応じて俺の機体が学習した動きだ。

 生まれも育ちもアメリカなのにネイティブじゃないってどういうことだよ俺。

 斧で戦う術など知らないことか? 今はそういうと差別なのかもな。



『君の乗っているジーエムに一個だけスーパーロボットの武装を乗せてあげよう。ただし使うと確実に動力炉がしばらく使い物にならなくなるし機体もどこか壊れる』



 任務の傍らで助けた、かつて重要人物だったらしい博士は俺にそう告げたもんさ。

 この酸欠ボケジジイめ。息子にすらゴミパーツを渡すくらいおかしくなったと軍では評判だ。当時の俺は答えた。


『いらない』


 汎用機体ジーエムは教導試作機ガーンダの操作情報を用い共用して我が軍全てのジーエムが強化される教育システムを持つ以外は冴えない量産機だ。いくら使い捨て量産型と言っても機体を自らオシャカにしてまで誰がガーンダ様の武装を無理に使おうと思うだろうか。



 あ、でもあのトゲ付き鉄球はほしい。ロマンがある。わかるだろ。



 ロマンのない俺の機体の持つシールドを敵の弾が打つ。


 さっきのが鑿岩機なら今度のは赤ん坊の頭みたくドデカイマッサージ機だ。

 あの映像は俺の息子もびっくりした。息子いないけどな。



 もう持たない。特に貧弱なフレームの腕はこの衝撃に耐えられまい。ああイクイク。



 近年発見された限りなく重さのない粉によって今までの物理学は過去のものとなった。


 この粉のせいで全てのレーダーが使えない有視界戦闘が標準になり、かつて宇宙空間で活躍していた腕付き移動機、人間型巨大兵器が地上でも台頭したのだ。



 泥を跳ね土煙を弾幕で切り裂き迫り来る敵。

 学生さんならそれだけでちびっちまう。


 俺がガキの時分に憧れたロボットに乗って戦うとかいう妄想は今は現実なのだ。



 あゝ、あの頃の俺よ。そんなにこれはいいもんじゃないぜ。

 タバコも酒も機体の相手をしている時はお預け。


 とんだワガママ娘さんだよおまえはジーエム。あいつだってタバコは我慢してくれた。



 投擲。

 俺の機体から離れて飛んでいくヒートトマホーク。


 敵機の首元のパイプを両断。頼むから核融合炉が悪さしてくれるなよ。



 停止したか否かはコンピュータに任せて俺はコマンド操作に戻り、振り返り際に2体のうち片方に足払いし、もう片方の振り上げたヒートトマホークの脇に潜り込んで敵機の肘を持ち上げ吹き飛ばす。



 ロボットの手足は精密機器だ。

 壊すと整備班にめちゃくちゃ叱られる。


 アイキドーは人間には高等技術だが教導コンピュータによるデータリンク前提ならその限りではなく、普通に便利なガードキャンセルの範疇である。

 前世紀の格闘ゲームコマンドは今や標準的な操作システムだ。


 ちっちぇわりには弱いわ、装甲は甘いは、全くイカした棺桶だよおまえは。俺はイカしたねーちゃんは好きだが地獄逝きはごめん被るね。


 奪った巨大マシンガンを乱射。


 疲れて闘うとどうにも集中してない馬鹿なことも考える。


 巨大ロボットが扱うデザインとしてこのドラムマシンガンデザインでいいのかは俺もよくわからない。

 もっと理想的な形状ももありそうなものだ。


 人間の装備と同じデザインにする必要あるのやら。

 でも認証システムがないのはとりあえずありがたい。



 ジーエムにもいいところはある。

 ガーンダと違い超能力みたいなものがなくても操れる。


 教導コンピュータの性能はほぼ変わらないし、戦艦並みの大型ビームは打てないが拡散スプレーガンのような接近戦向けのいい武器がある。


 装甲以前にフレームが安上がりだが、ガーンダと同じく小型戦闘機を任務に応じて換装できる上半身パーツと下半身パーツで保護しドッキングして使用する基本構造は同じであり、脱出機能兼戦闘機は多少の戦闘継続も可能とする。



 まあ、俺はそれを操る使い捨て兵士なのだかね。



 超能力者様のようにいかないさ。


 おかげで『俺はニュータイプなのさ』と揶揄うつもりだった彼女といけすかねえやつがキスしているところを見るハメになった。


 軍に入ったのはヤケになりすぎたと反省している。すまん姉ちゃん。



 すまんと言うべきはさっき踏み潰した機体の主かも知れない。


 あっちは学徒兵らしい。

 性能は向こうが上だがいかんせん練度がない。


 お母さんに会えないまま死なせてごめんよ。

 そんな偽善より煙草が吸いたい。



 舌打ちとともにハンドルを押し込みコマンドを押し、敵の機体をぐるんと投げ飛ばす。



 あと何体……いやはや笑えてきた。もう無理だろこれ。



 可視光通信を用いた探査によると、敵さんは旧式となったとは言え装甲厚く強力な砲を持ち速度もある戦車。装甲車両に乗った随伴歩兵ども。そしてヘリまで出してきやがった。



 わりい。姪ちゃん甥ちゃん。

 おじさんオトシダマをやったことなかったなあ。


 クリスマスの絵本、もうそんな歳じゃないとオカン無理、もといお冠だったっけ。



 振動、嫌な煙。鳩走るスパーク。

 シールドを持つ機体の左手フレームが限界を迎え、シールドごと飛んだ。

 右手にはもう武装などない。ティッシュでも持つべきかい?



 可視光通信システムで放った救難信号。

 得た情報の限りではこの近辺に味方なし。



 結論。



 俺が生きて帰らなくば、味方は全滅する。

 しかしながら残念なことに俺はスーパーロボットに乗った主人公サマじゃないのだ。



 ミサイルが不発だったのは不幸中の幸いなのか更なる地獄か、機体の左膝が吹き飛び、俺の機体もかしいでいく。


 ハハハ。走馬灯って見えるもんだな。



 姉ちゃん。母さん。

 クソ女に寝取り野郎。


 あと飲兵衛のクソ親父も結構俺のこと可愛がってくれてたのだな。


 今ならわかるよ。俺、おまえらのこと結構好きだったってな。

 でも寝取り野郎は別だ。死ね。



 俺はキィを強く押す。


 きっと奇襲を受ければ超能力者サマ主人公サマでも御陀仏だろう。



 機体がぶっ壊れることをニホンではオシャカっていうと聞いてブッティストどものバッドジョークのセンスを知ったもんさ。



 俺はいい子じゃなかったから、人を、学生さんをいっぱい殺したからきっと地獄行きだろう。

 酒もタバコも随分やったもんだし。


 あ、女は泣かしたことはないぞ。泣かされたが。



「ーーはは。ジョー。神が救わない、いや、全知全能の神様がいるなら、こんな世の中を作った以上、悪党だっていつかお救いになるさ」

「ハルカナル、おまえの話はまあ、面白いけどなあ」


「それがダメなら、人がなったホトケサマが救ってくださるさ。自分が基準だから人間幸せが遠ざかる。信仰は人に困難に感謝する勇気と力をくれる。おまえも科学でも数学でもいいから何か信じとけ」

「……それ、敵さんの学生さんたちにも教えてやれやーー」



 機体がどんどん傾いでいく。



 俺は残った足で大きく飛んだ。

 背中のジャンプブースターをぶっ放してさらに横滑りに。



 ボタンはまだ押したまま。

 軽い脳震盪をこの時起こしていたらしく、細かいことは覚えていない。



 しかし、機体のメモリは覚えている。

 教導コンピュータは俺を生かし続けるために機体を動かし続ける。


 上部パーツが弾けて敵の一体に特攻。

 滑る下部パーツはバタバタのたうち、上を向いて停止する。



 取り囲もうと殺到する敵また敵。



 あおいあおいそらのした。

 ころしあいをするてつのへいし。


 ブースターパックがカラになった上部パーツは爆発し、煽りを受けてかしぐ。

 その泥と血とオイルに塗れた爆発は煙幕になってくれた。



 拙い火が残った機体のどこかでつく。

 それは小さく、そして素早く。

 やがて轟音とともに小さな戦闘機を天空に射出した。



 コアシステムは確かに俺のコクピットを飛行機の形にし、戦場から飛び去らせてくれた。



『ーーそうだな。ジーエムを破壊するような無茶な改造前提でガーンダの装備を入れるなら』


 俺は博士に告げた。


「脱出機能を強化する、ワープみたいなのが欲しい。やってくれ』



 博士は大笑いした。大規模破壊装置、味方の修復や補給、死者の意思の反映、なかには自爆のようなものまで要望した奴はいたが俺みたいなのは初めてだと。



「だって機体を壊したり、それどころかちょっと気の利いたジャパニメーションガールのマークを描いただけでも整備班のあのガキ……そうだよ女だけどありゃガキだ。Cカップしかねえんだぞ? おい笑うな酸欠ジジイぶっ飛ばすぞ」



 ……記録を見ると俺はあの時のようにこの戦闘時、馬鹿みたいに笑っていたらしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。



 意識が戻る。ロッキングチェアには向いていないシート。ひび割れて泥だらけのコクピットガラスの向こう、鼻水垂らして泣いてるガキンチョと目があった。


 ーーああ。超能力なんかねえけど何言ってるかなんかわかるわ。すまん悪い。機体壊しちまった。うんうんごめんなーー



 この戦闘で得た教導コンピュータデータは直ちに全軍に反映されるだろう。



 俺はスーパーロボットの主人公サマじゃない。

 どこにでもいる。使い捨て。

 そして死ぬことをとことん避けて味方のために生きる。



 一人の兵士だ。



 でもまあ、機体の膝を砕いたし、今度除隊して父親になるけどな。ははは。

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[良い点] よきでオマ♪ 色々とツッコミドコロあるなー、と思いつつ読み進めてたら、主人公がしっかりツッコんでやがったwww ヤルな!wwwwww [一言] あー、小学生になったくらいで、また戦争がが…
[良い点] 素晴らしいのです(´;ω;`) 格好良かった(*´艸`*)
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