うえwwっうぃいいwww悪役令嬢を操っちゃっうぜwwwうはwwおkwww
『うっそー! 悪役令嬢にとりついちゃったよ!(驚)
まず死亡フラグを回避して~~!(切実)
ヒロインちゃんと親友になって~~!(願望!)
王子様とイチャコラするヒロインちゃんを見て~~!(萌)』
麻薬かしら。この草は。
紫の葉をもつヨモギのような草からはそのような思念を感じました。
とりあえず危険ではありますが臭いを嗅ぎます。有害な臭いを放つならば侍女のアンナに影響がないはずはないのですが。
「あっ! あっ! 巨乳! きょにゅ! バスト推定93のG! G! ~~グレートですよぉ~~!」
私は黙って胸元を扇で覆ったのち、手元にあったポットから茶をその植木鉢に注ぎ込んだのです。
「……つまり、あなたはその芳香で人間を操る不届きな植物ということですね。麻薬より性質が悪いですこと」
幼き頃より仕えてきたくせに裏切ったアンナには大きな石を抱かせて『セイザ』をしてもらいます。泣いていますけど無視ですわ。まったく。
「お嬢様後生でございますお許しください~~!」
「トム。石を追加」
トムは我が家に三〇年来仕えていますが容姿は五歳ほど。妖精族の血を引いているらしいですが詳細はお父様に聞かねばわかりません。
そのトムは体格に似合わぬ怪力でアンナの膝に石材を乗せました。
「仕方なかったのです! お父さんとお母さんを人質に取られちゃって~~!」
トムは情け容赦なくさらに石を追加しました。寛大な措置だと思ってほしいわ。
「トム。もうアンナは無害よ。殺せるならいつでも私に毒を盛れるわ。そろそろアンヌとアリウスを助けに行って」
「もう助けました!」
相変わらずの手際の良さね。流石『駆け抜けるもの』といったところかしら。
両親は無事という嬉しい報告と、ひざと足の裏の激痛に泣いているアンナですが別に縛っていないので逃げることはいつでも可能です。私はこう見えても長年仕えている使用人には慈悲深いのですよ?
これからもよろしく。アンナ。
「で、あなたの処遇です」
『燃やすのは勘弁してください』
オジギソウという植物は触れると反応してしおれるしぐさを見せるというのはトムの知見ですが私はそのような植物を見たことがないので何とも云いかねますね。目も鼻も耳もないのに私の言葉を正確に理解しているようですし、脳髄の類もないようですし……。
「トム。バラバラにして調べて」
「はい。お嬢様」
『あんたは血も涙もないのか~~! あんたのウエストが56センチと植物仲間に言いふらしてやる~~!』
わたくしの先祖には妖精や天使の末裔とされる『我が国』のミスリル王家がいるせいか、一族にはわたくしを含めて植物や動物の思考を知る力を持つ者が稀にいますが、ここまで明確に人間と同じ精神構造を示す植物は初めてみました。興味深い資料ですわ。
「そもそも、花でもないのにアンナが持ち込んだ時点で怪しかったのですよ」
『おみそれしました令嬢様。必死でお仕えしますのでどうかバラバラだけは勘弁してください! めっちゃ俺がんばってめしべに受粉したいのです! もうまだ一度も花粉とか作ったことない身なのですお願い許してくださいなにごとでも申し付けてください!』
とりあえず、人間を操る植物というのは穏やかではありませんね。一応カマキリを操るカマキリムシという線虫のような生き物の思考を読んだことがあるわたくしですがあれはなかなかおぞましいものでしたわ。
「そうなのですか? お嬢様?」
アンナは代々平民。先祖がわたくしの陪臣になったのもたった三代前。純粋な人族だからわからないのでしょうね。
「簡潔に述べると繁殖や自種族を含め外敵の殺戮しかほぼ考えていないわ。この草のように複雑な思考もないし、大きな胸が好きなどといったフェチズムは……あるようね」
意外とあるのよ。クジャクとかは立派な羽根を持たない個体はダンディズムでせめるのよ。人間と同じね。
「相変わらず博識ですね。お嬢様」
それでもこの植物(?)の知識はなかなか有用のようよ。私の先祖のミスリル王家のようにいわゆるチャネリングを持っているようね。知識は偏っているけど。
『いやぁ! なんかほら! 俺って素敵なVtuberを目指しているのですけど、なんか植物に転生したようなそんな感じでして!』
転生ねぇ……。それは異界渡りで六道から外れ神々の力を受ける異端の教えだったかしら? おそらくあなたの本体意識はそちらの世界にあると思われるわ。だってこの構造のどこに脳があるのか私にはわかりかねるもの。真菌、キノコの類なら山一つまるまる本体ということはあり得るからそのような存在が魔物化しているならば納得だけど。
「こんなショボイ草ですから」
「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwうはwwwwwwwおkwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
アンナはそういって警戒しつつつんつん。
わたくしはぱちんと指を鳴らします。
「トム。草刈り機をお出し」
『やめてくれぇwwwwwうえwwっうぃいいwww』
とりあえず私が破滅する運命はいただけないわね。その辺は詳細に聞くことにして、あの男爵令嬢に婚約者を取られるとかあまりいい未来じゃありませんね。
『だから、俺がお嬢様の意識をあれやそれやして胸を揉んだり尻を触ったりあんなことやこんなことをたのし……』
『炎の矢』
このような時代ですが、一応わたくしめも少々魔法の力をもっています。護身用とするにも拙い力なので黙っていますが。
『やばい。根だけになった』
地中深く埋めてしまいましょうかしら。
兎にも角にも異世界の知識とやらと引き換えに私は彼の協力を受け入れることにしました。
『俺に全くメリットありませんよ!』
アンナがニコニコしながらスカートを抑えています。
スカートの中身を覗いていたことをわたくしが教えたからですが。アンナは木靴でかの不埒な草を踏みつけており。
「あっ! あっ! いいっ! 新しい趣味に目覚めそう!」
そういえば麦は冬場に踏み込むことで生命力を増しますね。興味深いですわ。
わたくしには動植物の心を読む力はありますが、先祖のいう『でんぱ』を知る力はありませんので草の語る『あにめ』などの知識はなかなか楽しいものです。
婚約者に『彼』を紹介しました。
どうもわたくしの事を頭のおかしい女と我が婚約者は信じかけたのですが、アンナがギターラをかき鳴らし、トムが太鼓を鳴らすとツイストダンスを披露するようになったので認識を改めたようです。『彼』のチャネリングは第三王子にすぎない彼の命を繋ぐにはずいぶん貢献してくれましたわ。あと、男爵家には軽く釘を刺しておきました。
「で、夜のniceスポットを教えてくれDJ!」
『いいぜ! どうも最近のトレンドは東通りの娼館……お茶を注ぐのまじやめてえええええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
婚約者は後で折檻ですわ。
DJというのは『風小屋』専属の神族のような存在のようですが独特のイラっとする口調をするそうで。
こうして人を操る嫌われ者の草を得たわたくしたちは様々な国難を人知れず解決することになりました。
ですが、花の命は儚いものですね。
彼が花と呼ぶにはあまりにも拙い小さな花をつけるころ、わたしたちは長年貢献してくれた彼の番となる魔植物を見つけることはできなかったのです。
「『嫌われ者の草』さん。せめてあなたの名を教えて」
今まで世話をしていたアンナが泣いています。彼のおかげで粗忽なアンナは何度も命を救われたのですからなおさらですね。尤も多くの局面は私の寛大な措置なのですが。
『なまえ。……なまえ……あったはずなのに……』
しおれていく紫の草を私たちは見つめることしかできません。
『ヴィルヴィーダです。お姫様。俺の名前はもうわかりませんから……せめて』
わたくしは微笑み、彼に告げました。
「あなたの名前、こころに刻みました。これからはわたくしがその名前を名乗るでしょう」
ゲーム『夢の欠片の輪舞』の悪役令嬢はプレイヤー自らが命名することになっている。
おおよそろくでもない名前……同僚や親や兄弟の名前を付けられる『彼女』のデフォルトネームは存在しないが、最近の資料ではその世界における『華やかな人生』を意味する『ヴィルヴィーダ』が設定されていることが増えた。開発者はその経緯については『なんとなく』とのみ答えている。




