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夢幻の少女ラクラス  作者: 明帆
第一部 夢探し編 - 第六章 対極の二人

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第二十六話 対極の二人

 お姉ちゃんが調べてくれた情報。

 コルベットから聞いたアリヴィエールの過去。

 幼い頃の私の記憶……。


 どう考えても、アリヴィエールがアリヴィアであるのは間違いない。

 死んだと思っていた彼女が生きている。

 その真実に私の心が揺らいだことは紛れもない事実だった。


 リアンのことだって気になる。

 複雑な想いもある。


 二度と戻って来ないと思っていた日常。

 犯してしまった罪。

 あれはそう、七年前。私が物心着き始めて間もない八歳だった時のこと――。


 色々な想いが頭を駆け巡り、心を乱し、私を掴みどころがないふわふわとした雪みたいにさせている。

 雪が降り積もって重たくなっていくように、考えれば考える程、私の気持ちも重たくなる。

 冷たく暗い気持ちになっていく……。


 あれこれ考えても、『()()()()()()()()()()』という気持ちが晴れることはなかった。




 シャルロットでコルベットに面会した後、アリヴィエールの情報を一つでも多く知りたかった私とニアは、闇の聖域、月明りの里にいるオルドシークの力も借りることにした。


 彼のもとへはニアが単身で向かい、私はこの特別な場所、星砂糖の森でニアを待っていた。小雪混じりの暗闇で、あの時の残酷な現実に想いを重ねながら……。


 ――神様って本当に不公平……。


「……い。おい……。ララ」

「ニア、おかえり」


「落ち着いたか?」

「……うん」


「いつまでもここにいたら冷えるし、もう行こうぜ」


 そういってそっと私の手を取ってくれたニアの手の感触がとても温かかった。


「それで、オルドシークの話は?」

「あぁ……。進展はない。アリヴィエールについては知らないそうだ」

「そっか。ありがとう……」


 真実から目を背けないと決めた日から、前だけを見て進むという私の意思は決して折れることはない。


 アリヴィエールがアリヴィアならきっと私との再会を果たそうとするはず。

 そう思い、コルベットにも彼女とコンタクトを取りたいとお願いした。


 結果、こちらの思惑通り、もしかしたらアリヴィアの思惑通り、セイントルミズでの再会があっさりと実現する運びとなっている……。


 ――懐かしめるようになったと思ったのに……。もう大丈夫だって……。



 ――そして、再会の時はやってきた。


 海色の瞳。懐かしい声。忘れるはずのない愛くるしいあの子が記憶の奥底でモノクロになっていた私の大事な思い出を鮮やかな色に染めて行く。

 止まったまま、凍ったままだった世界が今動き出した。


 ああ……、アリヴィア。


「ア、アリ……」


 私が重たい口を開こうとした時、それを察してかアリヴィアの声が私の言葉を遮った。


「久しぶりだね、お姉ちゃん」


 アリヴィアの声は穏やかで、波が立たない静かな海のようだった。


「生きていたんだね……?」


 あの時、お人形だなんて思ってゴメンね――。


「そうなるね。見た目が少し変わったことに驚いた?」


 白銀の髪と、少し大人びた容姿以外、私の知っているアリヴィアだ……。


「どんな姿をしていたって、私がアリヴィアを間違うはず……、あるわけない……」

「お姉ちゃんは、少し背が伸びたね。金色のサラサラの髪、内から感じる温かさ、懐かしいな……」


「うん。アリヴィアもすっかり美人さんになったね。雪のように白い肌と、腰まで伸びた絹のように艶やかでサラサラの白銀の髪がとても綺麗……。桜色の唇に、桃色の頬もあの時のまま」


「巡る季節の中、同じ時を、違う道に沿って歩んできたんだね、私達」

「そう……、だね。ところでリアンは?」


「知りたい?」


 今、アリヴィアは『知りたい』と確かにいった。

 私が助けられなかったことを恨んでいるのだろうか。

 二人はかけがえのない友だったから……。


「うん……。あの時、私は二人を助けられなかった。自分が無力だった。二人との約束も果たせなかった……。でも、アリヴィアは生きていてくれた。なら、リアンもきっと……」


「そっか……。あの時は仕方がなかったことだからお姉ちゃんは悪くない」

「うん……。ごめんね……。ごめんなさい」


「リアンはね、生きながら死んでしまった……」

「どういうこと?」


「赤い悪魔に襲われた時、彼の心は恐怖の余り壊れてしまったの。感情が消えてしまった。そして、悪魔に一度は殺された」


「一度は?」


「そう。私も同じ。一度死んだ。でも、リアンと違って私の心は平然を保っていた。私は目覚め始めていた。だから、酷く冷静なまま悪魔に殺された……」


「今ここにいるアリヴィアは死んでいるってこと?」

「生きている。不死者でもなければ、れっきとした人として生きている」


「どういう……こと?」


「私は、秘属性、つまりシークレットとして生まれ変わった。心臓の鼓動と魔導の核が失われる寸前のところで踏み留まった。初めは奇跡と思った。けどね、違った」


 髪の色が変わったのも合点が行く。


「どうして違うって分かったの?」

「お姉ちゃんの魔力が私の秘めた力を引き出す鍵だったことを体が自然に理解したから。だから、必然だった」

「ごめん……。よく分からない」


「こういったらいいかな。私はお姉ちゃんと同じ絶対領域の力に目覚めたの。私は、死と対を成す『生』に祝福され、『光の加護』を持ち、憧れたお姉ちゃんと同じ『水』の力、そして人に活力をもたらす『陽』の力を持つ対極の存在になった。その鍵は、対極にある魔力による干渉」


「私と長い間共に歩み、少しずつ力に目覚めていったのかな」


「多分。そして、生命活動を脅かす事件があの時訪れた。この力は運命という必然。私の力が目覚める時、傍に居たリアンにも何らかの干渉があって、リアンも一命を取り留めた。だけど、失った心は戻ってはこなかった――」


「そんなことが……。リアンは今どこに?」

「私の従者として、彼にしか活躍できない仕事を担ってもらっている」

「生きていてくれたなら、私はただそれだけで……」


「お姉ちゃんの知りたかったあの時の真相はこんなところかな?」

「どうして……、それを?」


「私はシフォン国の中枢を担ってはいるけれど、所属は中央……といえば分かるかな?」


 そういうこと……、か。

 私は、返事をする代わりに軽く頷く。


「もう一つだけ分からないことがあるけど聞いていい?」

「うん。何かな?」


 アリヴィアは、再会してからずっと同じ波長で会話を続けている。その姿が脳裏から離れない。


「あの時、私達の故郷を襲った悪魔は、誰が仕向けたこと?」


「そうだね。知りたいよね。私も調べてみた。でも、『ただ強い力に魅かれて誘発された』以外の答えに辿り着けなかった」


「ありがとう。これですっきりした。私の長い物語の一つの章を終わらせることができた。これで次に進める。ところで……」


「ところで何?」


「アリヴィアが私をここに招き入れたということは、懐かしい再会を果たすことや私の個人的な私情を満たす為ではないでしょう?」


「お姉ちゃんは……、流石だね」


 アリヴィアの穏やかな心という海面に微かな揺らぎが生じたように感じた。


「アリヴィアは、私がここに来た理由を知っていた。きっと、私がアリヴィアについて調べ周っていたことも知っていると思う。それはつまり――」


「その通り。この生命真理の書を巡る一連の流れ、闇精霊のこと、シャルロットの治安についてなど、私に知らないことはない」


「そっか。そういう道を歩んできたんだね。アリヴィア、いいえアリヴィエール」

「アリヴィアでいいよ」

「言い直すね。アリヴィア、率直に聞くけれど、私をここに呼んだ目的を教えて」


 アリヴィアは少し間を置き、ゆっくりとこう答える。

 それはそれは冷たく、重たく、怖い口調だった。


「魔導研究者に成りたいというお姉ちゃんの願いを奪うため……」

「どうして?」

「………………」


 アリヴィアは、口を閉ざしたまま何も答えてはくれなかった――。

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