家族
自宅に戻ってみると、玄関が血に塗れていた。そこにいたのは1人の少年。金色の髪の毛が赤色に染まっていた。ただの木刀のはずなのに、こんなにも出血多量になるのだろうか。凛桜は優しく凛士の頭を撫でた。
「ありがとうね、凛士。ここを守ってくれて」
凛士はこちらを見て、少し安心した顔をしていた。
「ごめんね、1日以上この家を空けていて」
凛桜のその声に、凛士はプルプルと首を振った。
「お姉ちゃんはまだ帰ってきてないよ。まだまだ向こうやることがあるんだって。大変だね」
凛士はその時、凛桜の身体が変に発光し始めているのに気付いた。虹色の身体になっていた。
「とりあえず中に入ろうよ。もしかしたら追撃が来るかもしれないしね」
凛桜はそれには触れないように、我が家へと入った。凛士もそれに続いた。2人部屋に入った瞬間に、鳴り響いていた着信に応答した。
「はいこちら野口ですぅ」
「どこにいる!!!!!!!!!」
北里の全力の叫び声に、凛桜はのけそってしまった。
「自宅ですよ?ほら、私今回お役御免じゃないですかあ?だからここにいようかなあって」
「外に出たのか?」
「出ましたよ。めっちゃ身体発光してますね。なんでこんな色なんですか全く」
北里は少し絶句してしまっていた。それに対して、凛桜は励ましの言葉を送った。
「大丈夫ですよ。今回私は出撃しません。トップの命令を守ることこそ、部下の務めですからね。だから私のことなんてほっておいて、業務にあたってください。次電話するときは、戦闘が全て終わったか、負けた時のどっちかだけにしていてくださいね」
自分の言いたいことだけ言って電話を切った。本当はこの発光した身体をどうにかしたかったが、それはまた今度にしておくことにした。全てが終わった後に、凛姫にでも聞いておこう。
窓から戦況を見た。視界に入ってくるのは地下都市全貌のほんの少しだが、点々と自分と同じ色の物体がうごめいていた。そしてそれを、自衛隊員が捕縛していた。手際がとてもよかった。まるでこの日を、どこかで想定していたかのような動きだった。
後ろから凛士が近づいてきた。凛士も戦況が気になるのだ。侍として生きることを決めた彼でも、気にならないと言えば嘘になるのだ。
「そういやさ、凛士はハーフなんだってね。お姉ちゃんから聞いた」
呟くように凛桜は凛士に語り掛けた。そしていたずらっ子っぽい笑顔をしつつ、
「私は人造だけど純正。どっちにしても訳ありだね」
と笑顔を見せるのも忘れていなかった。凛士は細い声で言った。
「部屋に入りました」
「部屋?あああの実験部屋ね。見ても面白いものはなかったでしょ?ただの殺害現場だからね」
流石にここでおちゃらけるほどの余裕が凛桜にはなかった。ただただ窓から外を眺めていた。
「……私もさ、たまに悩んだらあの部屋に入るんだ」
そして悲しい告白を始めた。
「ほら、自分ってこんな出自なんだって、強烈に自覚できるからさ。でね、いつも思うんだ。自分は兵器なんだって。どこまで行ってもこの世界を救う装置なんだって」
街は銃撃と虹色の物体が行きかっていた。
「でもね、そんな装置を愛してくれる人がいっぱい居るんだ。それも、人間としてね。だから、本当に嬉しい。後ろ指を指されて唾棄されてもおかしくないのに、贖罪で死ぬべき存在なのに……Sakuraっていう外側をくれた。この荒廃した世界を変えるっていう使命もくれた。そして、お姉ちゃんができた。家族ができた。この世界で生きていこうって、そう思ったんだ」
たまにはノスタルジックな世界に浸ろう。
「私は象徴アイドルになる。この国の象徴さくらとして生きていく。大事な人と、大事なこの国を守るためにね。まあ、いやなことを言う人もいっぱいいるけど、でも私の周りにはそんな人全然いない。恵まれている……と、思う」
そして窓から離れた。
「行かなくていいんですか?」
凛士がそう声をかけたので、凛桜は振り返って笑った。
「大丈夫だよ。人間さんは強い。私なんかいなくたって、これくらい解決できる。私達はね、人間さんが解決できなかった時に出ていくんだ」
凛桜は知っている。PCPJのみんなが優秀なことを知っている。そして今のPCPJには……世界最強のお姉ちゃんがいる。
「ねえ、凛士」
凛桜は提案した。
「私からも言うよ。家族にならない?」




