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サムライ

「どうして…助けてくれたの」


 1日目が終わった時に、凛士は凛姫にそう尋ねていた。


「どうして?どうして…ねえ。どうしてだろうね。君みたいな半プルクハーフを、ほっとけなかったんだろうね」


 ハーフと言ったことはなかったのに、どうして気づいたのだろう。凛士がそんな首を傾げていたら、凛姫は被せるように継ぎ足した。


「私はこれでもプルクのことは昔よく研究していてねえ。これでも、あの子を産みだした野口家の長女だしね。Noguchiの名前は知らない?多分そっちでもそこそこ轟いてるでしょ?それとも……Sakuraのほうが知ってるかい?」


 びくっとなった背中を、凛姫は優しくさすっていた。


「いつの時代でもハーフってのは迫害の対象になる。地上にいる人間と結婚して子供を産んでいるプルクの集団がいることは、私だって僅かではあるが理解しているさ。愛情は星すら超えるからね。そしてそんな彼らが、プルク内で低い立場にいて、政争に負けて、酷いことになっていることも知っている」


 ぐびっとコーヒーを飲んだ凛姫は、ポンポンと頭を撫でた。


「辛かっただろう。辛かったよね。攻撃されるのはつらいことだ。大丈夫だよ。ここは誰も攻撃しないし、安全で安心さ。気にしないでくれ……いや、これでは質問の答えにならないな。うーん、そうだな。キッチンから風呂場へと進む途中に、開かずの部屋があるから、1人になった時にそこを開けてくれたらいい。大したものはないさ。ただ、あの子の出自を知ったのなら、私の行動にも理解を示してくれるだろう」


 凛士はじっと凛姫を見ていた。


「私はね、寂しがりな人間なんだ。家族がいなくなってから、その代わりをずっと探していてね。おかしな話だよ、こんなにも狂って荒廃した世界だというのに、たった2人の人間を求めて這い回っているってね。私はね、家族が欲しいんだ。傷を舐め合いながらも、団欒と温もりのある空間が欲しいんだ。自分の目に映るだけの困っている人をまとめて救いたいんだ。だから君も、家族だ。何を言っているかわからない?私だって分からないさ」


 そう言って凛姫は軽く笑った。正直凛士もその意味を理解してはいなかった。でも自分が、打算や計算のもとで庇護されていることはないということだけしっかりと理解した。


「おい!!タロースラボはここか!?」


 プルク達が取り囲むように凛士の周りに来た。


「お手柄だぞ!!第一陣は全員死んだと思っていたが、まさか敵の根城を見つけていたなんてな」


 凛士は昔の隣人に首を1回縦に振った。


「今はまだSakuraしかいないタロースだが、今後Sakuraが量産化されてしまったら戦況が追い込まれてしまう。ならばその生まれた場所を爆撃するべき……日本の政治家にも、従順な輩がいたもんだ」


 そう言いつつランチャーを仕掛けようとするプルク達に向けて、凛士は覚悟を決めていた。自分はどのようにして生きるのか、どこの世界で生きるのか……


「時に凛士や、侍について知っているか?」


 家族になろうと凛姫に言われた際に付け足された言葉を凛士は思い出していた。


「しらないか。まあ仕方ない。でも侍ってのはね、つい200年前までは普通にこの日本にいたんだよ。ほら、こういうのとか、こういうのとか」


 凛姫は宮本武蔵や佐々木小次郎といった肖像画を見せてくれた。


「かっこいいだろ?刀を持って、凛としていて。もう今となっては世界中どこを探してもいないんだけれどもね」


 その姿に、一目惚れしてしまった。見入ってしまった。書籍を片付けしようとする凛姫を引き留め、じっと見続けるくらいにはまってしまった。


「なんだい?気に入ってくれたのかい?侍はね、ただ刀を持っているだけじゃないんだ。その刀は、自分の領地や大切な人を守るために振るうんだ。主人のため、家族のため、守りたい魂のために、彼らはその刀を握って戦うんだ。たとえそれが、どんなに強大でどうしようもない敵であってもね。敵わなくても、彼らは立ち向かうんだ」


 凛士は懐に手を突っ込んだ。守りたいもののために刀を振るう。


「かっこいいだろ?」


 自分を救ってくれたあの人のために、戦う。そう思ったとき、凛士はもう刀に手をかけていた。そしてそのまま、刀でランチャーを壊した。奇襲にでもあったような顔が並んだ。ランチャーはそのまま窓の外へ投げ出され、強烈な爆音をもたらした。


 しかしその爆音にも凛士は動じなかった。そのまま敵を切り続けた。おもちゃで買った刀でも、凛士の力をもってすれば十分に凶器になる。


「おいどうした!!お前は、プルクだろ??」


 プルクではない。半分は人間だ。でも人間ではない。半分はプルクだ。じゃあどうする??どうすればいい??誰になればいい??その悩みはもう解決していた。


「プルクじゃない……人間でもない……」


 凛士は敵に囲まれながら、呟くように宣言した。


「僕は……侍だ」


 それは宣言だった。覚悟を決めた瞬間だった。僕は侍になる、大切なものを守るために刀を振るう、凛士はそう心に刻んだのだった。

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