国会
国会だっててんやわんやだ。防衛省からの特別警報発令により、その対応に追われることになった。時刻がまだ仕事始めではない朝の7時だったこともあり、初動が明らかに遅れていた。そうじゃなくてもいちいち決定の遅いのが日本の政治家だが、この時は顕著だった。
そしてそんなときに、湯川はとある男のもとへと向かっていた。黒幕と噂されている先生に、直接言質を取りに行っているのだ。そんなことを、この有事でするべきではない?いいや違うと、湯川は考えていた。素人の政治家が前線に立ったってなにも得することはない。所詮は政治家、粗探しが本職なのだ。
「少しお話宜しいでしょうか?と何度も架電いたしましたのに、一体どちらへ行かれていたのですか?」
国会の中でケリをつけたかったので、閣議の前で待ち構えていた。こんな有事でも国会内ではある程度の情報隠ぺいが保証されている。だからここでやらなければいけない。防衛大臣の驚いた顔など、今は些事だ。
「湯川君、ここは閣議の場……」
「閣議の場はもう終わりましたよ。ここはただの廊下です」
剥がそうとするお付きのものを、湯川の部下が押さえつけてきた。湯川はいい部下を持っていた。彼の人望に起因するものだと誰しもが思っていたので、ほかの閣僚は彼を止めやしなかった。総理大臣に至っては、秘書の者を近くに残らせたほどだ。
「清浦防衛大臣、1つだけお聞きしたいことがございます。昨日の深夜24時45分、旧野口家に侵攻を要請したのはどなたへですか?」
「な、な、何の話だ??」
「音声ならありますよ、盗聴なんて、今の技術ではたやすいもたやすい。とく省庁内においては、ね」
防衛大臣はもう少し事実を認めてこないと思っていた。のらりくらりとかわしてくると思っていた。しかし……
「大したことはないよ。この騒ぎが終わればすべて丸く収まる。私にとっては、な」
キツネ、という仇名のついた人だったが、その時だけは化けギツネにも失礼なほど邪悪な顔をしていた。湯川はそれを見て、反射的に胸倉をつかんでしまった。衆目?国家の一大事に気にしてどうする!!
「なんて……なんてことをしてくれたんだ!!!!それが国を売る行為だと、十分わかっていただろうが!!!!」
「ああそうさ、わかっていたさ。しかし冷静に考えてみたまえ湯川君。例えSakuraが登場したとしても世界的に見ればプルク有利は崩れん。そう言った声がデモ隊から毎日聞こえてきているだろう?彼らと共存を図ろうとしている国も現れてきている現状、我々も地上を取られ苦しんでいるだろう。これは、この国を思っての……」
「これが招くのは共存ではない!!!一方的な蹂躙だ!!!」
「そう、蹂躙に見えるだろうね。君みたいな野蛮な組織出身の成り上がりには」
これが国民の生活を守る防衛大臣の言葉である。情けないとは思わないのだろうか。日頃湯川はこの言葉を毛嫌いしていたが、ここまでくると総理の任命責任すら問いたくなった。
「理由は聞かない、事件の解明も協力もいらない。ただもし明日になってもこの国がプルクに侵されていなければ、私はあなたを突き出す」
「ほう」
「国民の前にな」
そう言って湯川が後ろにつけていた秘書ににらみを利かせた瞬間、爆音が鳴り響いた。音の方向は旧野口家からだった。
「さて、どうなるか楽しみですなあ」
胸倉をつかまれつつも防衛大臣はにやりと笑っていた。これで湯川のやれることは終わった。防衛大臣から離れた後で、首相秘書に許可をもらいに行った。
「首相、独断で国防を担当いたしますとお伝えください。もしも国が滅びたり、問題が起きたら遠慮なく私の首を切ってください、と」
あまりに自己犠牲が過ぎる言葉だ。そろそろ空虚な言霊となり果てそうだ。いやそんなものはもうどうでもいい。PCPJに連絡を取ろう。湯川が言わなくても、動いてくれてそうだが。
「北里君」
「なんでしょうか」
「全権限を君に譲渡する。解決に尽力してくれ」




