生来
凛士は物心ついたときに知らされた。どうやら自分は純粋ではないらしい。そしてそこに暮らす人たちも皆、純粋ではないらしい。平たい話をするならば、迫害されてきたのだ。
迫害を受ける理由は様々だが、とりあえず非常に理不尽な理由があったらしい。ハーフ、というのが最大の理由らしい。でもあの頃は、掃きだめのような街で、荒廃した世界で顔を上げていた。特に将来のことなんて考えず、毎日ご飯を食べて生きることだけを考えていた。
状況が変わったのは、凛士の母親が殺されてからである。丁度その時期に、とある計画が持ち上がったことも起因している。
今の世界では、どう転んでもこんな掃きだめみたいな生活をしなければいけない。純粋で位の上の奴らみたいな、理不尽な差別のない楽園に送りこむという計画だ。一言で言ってしまえば、地下都市移住計画だ。
凛士はその時、その真意について知らなかった。最初の移住希望者として選抜メンバーに入った凛士は、家族と、同じ村出身の数人と一緒に地下都市へとやってきたのだ。一体どんな世界が広がっているんだろう。農耕に従事して、作物を食べて過ごしたい。そんなささやかな願いを込めて、凛士たちはその計画に乗った。
結果として、同乗者7人のうち生き残ったのは凛士1人だったことを、後になってから知ることになる。両親も死んだ、妹も死んだ、仲の良かった友達も死んだ。たった1人で、この世界に投げ出されてしまったのだ。
当然パニックになった。そんなリスク、1つも聞かされていなかった。自分が聞いていたのは、この先には自由で迫害のない素晴らしい世界が待っていると、それだけだった。確かに成功率が低いとは言っていなかったかもしれない。死ぬ確率について、聞いていなかった自分たちが悪いというのか。否、否、そんなもの詭弁だ。
流れ着いたのは、まるで廃墟のような建物で、誰も住んでいないのではないかと錯覚するほど廃れていた。元々地上と地下をつなぐシールポイントとなったのがその建物内ということもあり、まずはここがどこで、命乞いをしなければならなかったのだ。
そして出会ったのが、この家だ。その日のことは、一字一句忘れていない。
「ターレスポイントはこちら、再度告ぐ。ターレスポイントはこちら」
凛士はプルクと連絡を取っていた。敵の位置場所を伝えていた。1度結んでしまったポイントは、何度でも目的地として使えるのだ。その生存確率が上がっているのかはわからないが。
「了解した。すぐに落ち合う」
そう言うとすぐ連絡は切られた。彼らが到着するまで、部屋の外で待って居よう。そう思った矢先に電話が鳴った。固定電話だった。恐らくかけてきたのは、お姉ちゃんだろう。凛士はそう思うと、電話には出ないで部屋から出た。そして家から出た。プルク達と、仲間と合流することにしたのだ。
その前に……凛士は火をつけた。爆弾に火をつけた。それを窓から外へ放り投げた。ものすごい轟音が鳴り響いた。あの人たちにも届いたらいいのにな。そう思っていた。これははなむけと覚悟の空砲だ。少しだけ視線をうつろにしたら、遠くで走ってくる音がした。武装した格好、赤色の目、間違いなくプルク達だった。




