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政治家

「お、野口の次女さんや」

「あー、先程ぶりです」

「護送任務お疲れさま。大したことのない任務にも駆り出さしてしまって申し訳ないね」

「いえいえ滅相もない!!この国のために働けていること、誇りに思います」


 凛桜はその天性の爛漫さをそこまで引き算せずに、湯川と話していた。


「ところで、お姉ちゃんはどこかな?」

「技師長さん達と評価チームにいます。同定評価?とかなんとか」

「あー評価中か。であれば推参は控えておきましょう」


 そう言いつつ、湯川は近くにあった椅子を指差し


「ここに座っていいかの?」


 と尋ね、東雲の了承をもらっていた。


「ありがとう。東雲君もお仕事があるのだろう。私になんて気にせず続けてくれ。少し、おいぼれが一休みしに来ただけじゃからな」

「日々の交渉事、気苦労なども……」

「……というわけにもいかんのじゃがな」


 また北里が失礼なほど丁寧な言葉で労おうとしていたのだが、それを湯川が咎めた。なにか聞きたいことがあってここに来たようだ。


「北里君」

「はい!!」

「気合はいれなくていい。聞いてくれ」

「私お茶汲んできますねー」


 凛桜はそう言ってさーっと給茶機の方へ飛んで行った。本能的に察したのだろう。これから国防に関する最重要機密の会話が繰り広げられる。あまり自分は聞かない方がいいだろうと。


「怪しい人物をリストアップしておいた」

「ほう」

「3人。1人は野党の作っている影の内閣で防衛大臣を担当している元防衛省官僚、1人はプルク生態研究で名を馳せた野党のご意見番で、プルクとの共存を求める今のデモ隊とも接点がある。残りの1人は……今の防衛大臣だ」


 流石の湯川も、その名前を言う時には極限まで音量を落としていた。北里だって東雲だって、その時だけは目を丸くしてしまった。


「私も信じたくはないがな、挙動が少しおかしいのだ」

「例えば?」


 東雲は耐え切れなくなって食い気味に聞いて、即座に頭を下げていた。湯川としてもその気持ちは痛いほどわかった。いくらお飾りの大臣でも味方と思っていた存在から撃たれるのは鳩でなくとも踊り狂ってしまう。耐えきれない嫌悪感は、湯川の腹の下でも蟠っていたが、それでもその論拠を述べ始めた。


「まずは状況証拠になるが、プルク襲撃時の時間帯だ。あの日、Sakuraはオフの日だった。そしてそのオフの日に、PCPJではプルクが発生したと報告を受けた箇所で実態の確認をしていた。もしもその前日にプルクがあの場に出なければ、PCPJのメンバーも休みだったはずだ。都合がいいとは思わないか?」

「では……なるほど、敢えてあの場に向かわせた?」


 北里の出した仮説に、湯川は指を鳴らして答えた。どうやら正解のようだが、東雲はまだピンと来ていなかったようだ。


「北里君は勘が鋭くて助かる。本来休みであった方が、工作活動を行うのに適しているだろう。でもPCPJは休みでも指令室に人がいる。有事が起こったように、ここで休息をとる。防衛省の内部関係者なら誰でも知っている実態だが、逆説的に言うとそれ以外の関係者は知らない情報だ」


 確かにそうだ。もしもプルクの工作活動を助けるなら、公に休みと公言している日付を選ぶのが妥当だ。そのうえで、あえて我々の注意を背けさせるためプルクを分けて派遣したというなら、湯川先生の考えもよくわかる。北里はそう思って頷いていた。


「更にその日、出張予定だった大臣は急遽取りやめ、地元の有権者と密会すると言い残し秘書の前から消えていた。取りやめた日は1度目のプルク襲撃の日だ」

「地元の有権者、具体的には誰と?」

「誰とは言っていなかったし、会ったという裏付けもない」

「嘘の可能性もあるということですか」


 ここでようやく東雲が2人の会話に入ってきた。湯川は重々しく顔を縦に振った。


「更に言うとね、今の大臣にはとある者との接触が持ち上がっていてね。ほら、今外で騒いでいる連中だよ」


 いまだにデモの声は衰えを知らなかった。


「リーダー格と旧知の仲であることは知っていたものの、近頃ともに連絡を取り合う機会が増えているらしい。大臣の資質的にも遠慮していただきたいんだが……」

「なるほど。問題行動もあると」

「小さい行動を振り返れば疑念なんていくらでも広げられるが、主なのはこの2点だ。そしてここからが物的証拠だ」


 そう言って湯川が提示したのは、時代遅れのBlu-rayディスクだった。


「今から大凡1か月前から2週間前にかけて、深夜3度にわたり地上と連絡を取った者がいる。わざわざ特別な許可をもらってな。その際の申請書類にはこう記されているさ。防衛大臣清浦欣吾とね」


 そしてそれから、3人で防犯カメラに映った清浦防衛大臣の言動を確認するため、シアタールームへ移動したのだった。

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