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轟音

 夕陽が差し込んできたPCPJにむけて、安眠を許さんと言わんがごとく轟音が鳴り響いた。太鼓の音だった。続いて男女の入り混じった声が聞こえてきた。


「プルクとーーー和解せよーーー!!!」

「和解せよーーー!!!」

「人殺し集団はーーー解散しろーーー!!!」

「解散しろーーー!!!」

「PCPJはーーー」

「自衛隊はーーー」

「総理大臣はーーー」

「「解散しろーーーーー!!!!!」」


 語尾が伸びた掛け声だったため、少し間の抜けて聞こえてきた。それを最初に聞いた凛桜がブラインドの隙間から外を覗こうとしたため、北里は慌てて止めた。


「何をしているんだ??君!!」

「いやあだってうるさいから、どんな奴らが来ているのかなあって」

「だからってブラインドをめくるのはやめてくれないか!!この角度だったらデモ隊から丸見えなのだ!!彼らを不用意に刺激してはいけない!!」

「凛桜ちゃん、ごめんだけど下がってね」


 北里からだけでなくデスクワークをしていた東雲にも注意されたため、凛桜は渋々と引き下がった。


「はーい」

「にしても、相変らずの五月蠅さですね。同定評価に影響がなければいいですが……」

「大丈夫だと思うますよ。あそこ結構防音機能すごいんで。さっき入ったらこのデスクの音全然聞こえてこなかったですよ」


 凛桜はそう言いつつ、止まらないデモの声を聞いていた。プルクを殺すな、自衛隊やPCPJは人殺し集団、今こそ憲法9条の精神を取り戻せ、等々。最初と最後はよくわからないものの、真ん中の人殺しについて凛桜は完全に同意していた。プルクを殺した数は、もうただの死刑では終わらない数だ。1000人殺せば英雄になるとはいうものの、そう直接言われてしまうと少し心にもこたえるものがあった。


「耳を貸さない方がいい。何も知らない者たちの戯言さ」


 そんな凛桜を見て、北里は珍しくフォローに回った。


「そうそう、あーゆう輩は昔っから存在していたみたいだよ。日本に戦争が起こらなかったWar Ⅱから2020年代までにも何回か勃興している。まあその頃ならまだしも、プルクに対してまで言われちゃうのはなんだかなって思っちゃうけど」


 東雲もそう言ってフォローしつつため息をついていた。口はよく回っているが手の動きは一切鈍っていなかった。


「よくくるんですか?」

「最近は特に多いな。事前のアポも取らず始めるから対策しようがない」

「え?デモって許可もらわないと……」

「本来はそうだよ。でもあいつらはマスコミを取り込んでいるからねえ。下手に中止をしたら不当に認められなかったと大言壮語で囃子立ててくる。申請をしていなかった点なんて一切報道しないで、ね」

「汚いですね」

「そんなものだよ」


 北里はため息をついて、頭をポリポリとかいた。


「まあ、自由な言説というやつだ。ほっておくのが吉だろう……」

「とも中々言いにくくてな。なんせ彼らは野党の息もかかっている。あまり無視していると大変なことになるやも知れない、とはわかっているものの対策はない」


 東雲も北里も凛桜も気づいていなかった。いつのまにか、湯川副大臣がPCPJに来訪していたのだ。北里はその存在を認識するや否や、先程まで足を組んで偉そうに座っていた椅子から飛び降りた。


「湯川先生!!遠くからのご来訪ご足労誠に感謝いたし……」

「君はどうしてそう言葉が固いのだ。今日は仕事というよりも少しの息抜きできたのだから、そういう対応を控えていただけると非常に助かる」


 湯川はくたびれた様子だったが、にこやかに笑っていた。少し汚れてしまったスーツにも気にせず、北里の座っていた椅子に指差した。


「ゆ、湯川先生??」

「ほら、先程みたいな座り方をしてリラックスしておけと申しているのだが?」

「いえいえいえ、そんな先生の前で滅相もない」

「いいではないか。なあ、東雲君」

「は、はいっ!!!!」


 てこでもパソコンから目を離さず手を動かし続けていた東雲も、その時ばかりは席を立って湯川と目を合わせていた。


「いつもの北里君はこんな座り方をしているのか?偉そうな大学教授のような、足を組んでコーヒーを右手に持ったこの姿をしているのかい?」

「え?あー…まあ」


 チクチクチク、3度秒針が動いてから東雲は答えた。


「そうですね、はい」

「東雲君!!!裏切るのは勘弁してくれないか!!!」

「う、裏切ったわけではないです!!私はただ事実を述べたまでのこと!!」

「嘘だ!!日頃から舐めた態度をとっているかのようじゃないかそれでは!!!」

「たまに無意識にやっているからそう言われるんですよ!!!」


 日本の国防を司る若者2人の、ほんとに大したことのない言い合い。そんな姿を見て、笑っているのは湯川だけじゃなかった。凛桜も、腹を抱えて笑っていたのだった。

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