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足跡

「眉唾な話だな」


 話を聞いた北里は口調ではそう一蹴していたが、しかしながら満更ハズレだと断定するような表情でも無かった。それは技師長である高峰も、照本も東雲もそうだった。皆が皆、自分勝手な省庁内で振り回されてきた過去があるからだ。


「ええ、流石に信じられませんし、理解不能です。戦闘する気のないプルクをこの地に送って虐殺させるなんて、同胞を殺しているだけ。そんなもの何の価値が……」

「理由を思いつけと言われたら思いつかないわけでは無いですがね」


 表立ってまで賛同したのは高峰だった。


「昔野口さんに聞いたことがありましてね。プルクというのは非常に仲間意識が強い生き物だ。だけれども、その仲間意識のレンジが非常に狭いと」

「れんじ?」


 凛桜は意図せず間抜けな声を出してしまった。高峰はそれに動じずにっこり笑って続けた。


「イメージして欲しいのは嘗て日本にもあって村社会です。同じ村の人達には仲間だという思いが強く、相手を守ろうとする想いが強い。どこに行くのも一緒の狭く濃い人間関係を構築していきます。それは一見すると仲間意識が強いと言えるでしょう。しかし、その範囲は狭い。仲間じゃないと断定されてしまったら最後、もう仲間とは扱ってもらえません。あの村は違う。あの村は別だ。そうして生きる彼らは、ナショナリズム的な結束には脆いところもあります」


 恐らく北里も初めて聞いたのだろう。少し意外な顔をしていた。


「例えばある集団に対して移住する権利を与えるなどと口車に乗せて、面倒な勢力をこちらに引き渡している、とか。まあもちろん証拠は一切ありませんけど。ただ、目的がないと言って蓋をするよりは、もっとフラットに可能性を追いかけてもいいと思うんですよね」


 凛姫は実はそうした性質について理解していた。だからこそここでは頷くだけだった。


「なるほど、それは湯川先生を通して内部調査をお願いしよう。もしもその仮説が正しいとしたら大問題だし、そこまでアホな政治家はいないと私は祈っているのだが……言い切れんところはあるな」

「私も独自のルートで探ってみます」


 東雲もそう言って、さっと立って部下に命を下していた。


「ただ今回の件で1つ大きな問題が打ち上がったと思っている」


 凛姫は静かに語り始めた。


「それは、敵の転移能力に対し何ら抜本的対策が取れないことだ。これまで技術的にも不可能とされてきた転移能力がもしや実用化というレベルまできていることがわかった。そっちの方がこれから対策すべき内容だろうと愚考する。高峰さん」

「技師長でいいですよ」

「じゃあお言葉に甘えて技師長さん、転移物質の同定までできるのなら、それを使った検知センサを開発することも理論上容易と考えるがいかがですか?」

「理論上は、という回答に留めます」

「将来的にはそちらの実用化を進めた方が良いと考えています。全ての場所にセンサを設置するのは難しいにしても、ドローンでそれを飛ばすことは可能だと考えいます」


 またドローンかと言われてしまいそうだが、あれは広く街を監視しつつ反応した瞬間にどこか特定できる強みを持っている。ステルス機能もつけたら余計に良いだろう。そうした回路系の設計やセンサの構造作成などは間違いなく野口凛姫の得意とする領域だった。


「北里さん?」

「ああ、湯川先生には事後報告しておく。その辺りは君達の方が専門であろう。好きに進めて欲しい」


 高峰は許可が下りるとともに照本と席を立った。


「それでは野口さん?」

「凛姫でいいです。野口だと凛桜だっていますし」

「では凛姫さん、これからお願いします」


 そう言って3人で奥の部屋に入っていった。残ったのは凛桜と、北里だけだった。


「私は何したらいいの?」

「君はいつも通り、言われたことをすればいい」


 珍しく凛桜から声をかけたのに、北里には軽く返されてしまった。やはり凛桜のことはあまり好いていないようだ。


「さて業務に戻るか。君も少し手伝いたまえ。プルク達の移送と、テレビ出演だ」

「えー先に言ってよそういう仕事はー!!!」


 それでも凛桜は、あくまでも爛漫に振舞っていたのだった。自身が彼に愛されていない理由は、実は重々理解していた。だからこそ凛桜は、たとえ冷たくされても、後腐れなく関わっているのだ。

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